綺麗なあの子は誰のモノ?

















「困ったねぇ・・・」



「だね・・・どうしよう」



「このままだったら、絶望的だよ・・・」



不動峰、女子テニス部の部室内で、部員達が頭を合わせて、落胆の溜息をつきながら考えあぐねていた。







実は昨日、主将が怪我で、暫く戦線を離脱しなくてはいけなくなってしまったのだ。

本来ならば、大会も終わっている時期だから、それほど深刻にならなくてもいいはずなのだが、

男子テニス部との交流試合を翌日に控えて、そのオーダーを大幅に変更しなくてはいけなくなって

しまったのだ。

たかが男子との交流試合に、どうしてここまで深刻になってしまうのかというと・・・・

コートの少ない不動峰では、半年に一回、こうして試合をすることで、ちょっとしたコートの使用権

の優先順位を決めていたのだ。

もちろん男子対女子なので、ハンデ戦となるのだが、主将を欠いての戦いは、いくら杏が頑張っても

厳しいものとなる。なにせ相手は全国区の曲者そろい・・・兄の橘もいくら女子相手とはいえ、

ハンデを背負っての戦いに、それ以上の容赦などしてくれるはずもなかった。



「なんかいい案ないかな・・・」



「助っ人枠は一人あるけど・・・」



「今から他校あたってみる?」



「今日の明日だけど大丈夫かな・・・」



ん・・・・と皆が頭を抱えて暫く沈黙が流れた・・・・





「ダメもとでちょっと私、知り合いに当たってみるよ」と杏が意を決したように立ちあがる。



「え?杏、誰か心当たりあるの?」



「期待はしないで。とりあえず聞いてみるだけ。だめなら仕方ないわよ、私達だけで

 がんばりましょうよ」



「分かったわ!お願いする」









じゃぁと、部室を飛び出した杏は、携帯を手に駆け出したのだった。















「で?どうすんだ?明日・・・」



「ん・・・跡部はどうしたい?」



「コート整備で休みだからな・・・久しぶりに家でゆっくりお前と過ごしたい気も・・・・」



放課後、部室で着替えながら話をしていた跡部と不二。

跡部が話をしてる途中に鳴った不二の携帯が、二人の会話を遮った。



「ちっ・・・」舌打ちした跡部は、携帯を手にする不二を横目で見ながら着替えを続け、

不二はごめんと仕草で謝った。









「もしもし?」


『ごめん・・・こんな時間に』


「いいよ。どうしたの?」


『あのネ・・・』













「だれや?」不二の様子を見ながら、忍足が跡部に尋ねた。



「さぁ」なんとなく察しがつく跡部は、ムッとしたように答えた。



「女か?」あの喋り方は・・・



「知るか・・・・」













電話を終えた不二は跡部の前に立つと「ごめん」と謝った。



「ったく・・・桃城のやつも一緒か?」分かったような跡部の言葉に



「今回は違うみたいだな。ちょっと助っ人らしい」



「はぁ?女子だろ」



「メンバー不足だってさ」



「なんでお前が・・・・」



「適当に手加減できて、明日の予定が空いてるからだろうな」それとも君が代わりに

行ってくれる?と言う不二に



「いい加減にしとけよ」と跡部は諦めたように言った。









「なんや・・・橘妹か?」



「もしかして、またなんかやるの?」ジローが興味深げに身を乗り出してくる



「いや・・・テニスだ」と不二が答えた。



「なんだ、つまんねぇの」



「適当に終わってこいよ」跡部の言葉に「あぁ」と不二は柔らかく微笑んで答えたのだった。















翌日、授業が終わってすぐに不二は急いで帰宅すると、着替えを済ませて、ジャージを羽織って

休みで家にいた由美子にちょっと手を加えられてから、不動峰へと向かった。



不二が降り立った校門のところでは、杏が申し訳なさそうに立っていた。









「ごめんね」



「いいよ、たまたま今日は練習休みだったし」



「怒ってない?」



「え?」



「ほら・・・」



「あぁ・・・跡部か。少しばかり拗ねてるかな?」



「やっぱり」



「いいよ、終わったらすぐに帰るからさ」



「うん、助かるわ」



コートに向かう途中、生徒達が不二を見て振り返る。

髪を一つに結い上げて、それに長い付け毛をつけ、ポニーテールになっていた。

すらりとした体に、綺麗な顔立ちは、校内でも可愛いと評判の杏とはまた違った

少し大人な雰囲気の美しさを見せ付けていた。

何より漂う色気は、一瞬ドキリとさせられるもの・・・



「目立つね」



「ん?どこか変かな?」



「じゃなくて、相変わらず完璧な化け具合。由美子さんてすごいわ」



「クスッ・・・言っとくよ」













コートに現れた不二を見て、男女テニス部のメンバーたちは揃ってその場に立ち尽くした。



「誰だ?あの美人」



「えっ・・・あの人が助っ人?」



「どっかで見たことない?」



「誰かに似てネェ?」



「にしても綺麗だな・・・」



「モデルみたい・・・ほんとに高校生?」



「ってか・・・日本人か?」











「!!!」一人だけ違う反応をして、橘が血相を変えて駆け寄ってきた。



「やぁ」ニコリと微笑んで、不二は軽く挨拶をした。



「杏!お前っ」叱るような口調の橘に



「今日は僕は不二家の親戚ってことらしいから。」と不二は楽しそうに笑って言った。



「勘弁してくれ・・・」











「あれ?橘の知り合い?」



「もしかして彼女?」

男テニ部員達が、抜け駆けでもしたのかといった顔で、一斉に橘を見る中、不二はニコリと笑顔を返した。



「不二に似てる・・・」ポツリと伊武が言う。



「そういわれりゃなんか・・・」と神尾が不二をじっと見つめた。



「はじめまして、よろしくね」とそこへやってきて不二が軽く挨拶をする。



「不二の親戚筋だそうだ。たまたまこっちへ来ていて、女テニの助っ人をすることになったらしい」

と橘が説明をした。



「お手柔らかに」と笑みを残して不二は女テニの陣へと行ってしまった。



「知り合いなんすか?」



「一度だけ・・・杏が世話になったことがあってな」



「へぇ・・・以外」



「橘さんも隅におけないっすね」



石田達の冷やかしに、橘はとっとと帰りたくなってしまうのだった。













「無理を言ってごめんなさいね」謝る部員達に



「気にしないで。お役に立てるかどうかわからないけど・・・」と不二は答えた。



「杏が見込んだ人だもの・・・大丈夫よ」



「とりあえず、ベストは尽くすね」









男子は2セット、女子は1セットを取ると勝ちになる。

曲者ぞろいの男子たちに苦戦を続ける女子達は、段々追い詰められていくのだった。

勝ち抜き戦のため、男子は5人を残し、女子は2人となっていた。



「じゃぁ僕が行くね」すっと不二が立ち上がって杏に言った。



「お願いするわ」









一見強そうに見えないプレイだが、隙がなくて攻め入ることができないまま、気がつけば

負けていた・・・そんな感じで、狐につままれたような男子達。

あれよあれよでとうとう最後の橘に、出番が回ってきた。



「すごいわ。一人で4人勝ち抜き・・・」







『あぁ・・・邪魔だなぁ・・・この髪・・・』慣れない髪形に不二は少し鬱陶しい気分になっていた。

由美子の徹底さ加減に内心苦笑いしながら、さすがに連戦で暑苦しくもなって、

脱ぎたくなかったジャージを脱いだ。



「おぉっ!」ジャージの下から現れた白くしなやかで細い手足に男子部員達は一斉に声を上げた。



ノースリーブのシャツにサイドにスリットの入ったスコートは、きれいなブルーで統一されていた。



一番絶句したのは何を隠そう橘で、今まで散々女装した不二を使って妹に振り回されていた

苦い経験が相乗効果ともなり、今回の絵はかなり刺激が強かったみたいだった。





「橘さん。。。大丈夫っすか?顔・・・真っ赤っすよ?」

心配そうに覗き込む神尾に

「大丈夫だ」とは言ったものの、橘の心はここにあらずな状態だった。







「お手柔らかにね」ネットを挟んで挨拶をする不二に



「お前。。。あいつにもそういう格好をしてみせるのか?」と橘が言った



「え?コスプレ?」



「こっ・・・こっ・・・」



「そうだな、たまに色々・・・っていうかさ、跡部はいつも、もっと凄いの見てるし」

ふふっと笑って不二がそれに返した。











コートで対戦しながら、翻るスコートや、シャツの裾を見るたびに、さっきの不二の台詞が浮かんでは消えて、

頭の中には、不二のあらぬ姿がちらつく橘が、冷静な試合を出来るはずもなく・・・・・









「やったぁ!!今期は女子の勝ちね!!」

女テニの嬉しそうな声が、コートに響くのだった。





不二と話をしようと男子たちがやってきたところで、不二の携帯が鳴った。



電話を終えて振り返ると、不二はすまなさそうな顔をして「急いでかえらなくっちゃ」と言った。



そのままジャージを羽織って帰ろうとする不二の後を、橘が追った。



「来るのか?迎え・・・」



「ここにあの車で来られちゃバレちゃうだろ?大丈夫、タクシーで帰るから」



「ならそこまで送る」



「いいよ・・・」



「おれが構う」



「そっか・・・」











そんな二人の後ろ姿をみながら

「お似合いだな・・・」と男子・女子の部員たちは呟いた。



一人、杏だけが、ちょっぴり兄が不憫な気がしないわけでもなかったとか・・・・











「いつもお前には驚かされる」



「ごめんね」



「いや・・怒ってるわけじゃないんだ・・・その・・・・綺麗だった」



「クスッ・・・ありがとう、ちょっと複雑だけど喜んどくね」



「あ・・・そんなつもりでは・・・」



「いいよ、そんなつもりじゃないって分かってるから」



「すまん・・・」



「ありがとう。楽しかったよ」



「今度は大会でお前と戦いたいな・・・」



「僕は団体は出ないから・・・」



「これからもか?」



「多分ね・・・それにもしそうなったとしても僕はS2だよ」



「そうか・・・」



「また・・・サエたちと集まろう」



「あぁ」



「今日はありがとう、杏ちゃんにもよろしく」



「こちらこそ。気をつけてな・・・あいつにもよろしく」



「うん」







タクシーに乗り込んで去って行く不二を見送りながら橘は胸がチリリとして

しばらくその場に立ち尽くしたのだった。















「お待たせ」と帰ってきた不二を跡部はムッとしながらも抱きしめた。



「ごちゃごちゃ言うなよ・・・これからは俺の時間だ」



「うん・・・」



跡部の腕に抱かれながら不二は自分の居場所の心地よさに浸るのだった。






























ブラウザの「戻る」でbackしてください