捕らえて捕らわれて
「ねーねー、不二」
「ん?何?英二」
「また・・・ほら」
教室の窓の外へ、菊丸が不二の目線を誘うように顔を向けると、
その先には、この頃毎日のように、下校する生徒の波に逆らうように
突き進む他校の制服があった。
「あぁ・・・」
短く声を上げた不二は、さっと目線を自分の手元に戻すと、何も見なかったかのように
帰り支度を続けるのだった。
「見た目によらず、まめなんだにゃ・・・」呟く菊丸に
「行くよ」と、不二は何も聞かなかったように、菊丸を部室へと誘った。
「うわっ・・・不二先輩のストーカーだ」
グランド前で、さっきの人物を見かけた越前は、鋭い視線を向けながら冷たく言い放つ。
「お前には、用はない」それに負けないくらいの、きっぱりとした返事が返ってきた。
「迷惑ってこと、分かってないんだね」
「俺は、本人以外とは話はしねぇ」
「ま、好きにしたらいいけど、警察呼ばれる前に、自覚したほうがいいんじゃない?」
一言残して、越前はコートへと入っていった。
「どうする?」
部室を出たところで、さっきの人物がグランドの前のフェンスのところでたたずんでいるのを
見かけた菊丸は、不二に尋ねた。
「練習に遅れる、行くよ」
と、またも不二はその質問には答えずに、菊丸に声をかけてすたすたと歩いていった。
「不二周助・・・」
グランドに入る前のところで、その人物は不二に声をかけた。
「君に用はない」
冷たく言い放つと、不二は目も合わさずに前を通りすぎようとした。
「避けてんのか?それとも・・・・逃げてるのか?」
挑発するような声に、不二はふっと足を止めると冷たい視線でにらみつけた。
「いい目だ・・・ゾクゾクするぜ」その人物は、くっと微笑むと、下から舐めるように不二を見上げた。
「不二っ」割って入ろうとする菊丸に、さっと手を伸ばしてそれを制すると不二は「先に行ってて」と
促し、「いい加減にしてくれないか?」と言いながら、場所を移動しようと顎をしゃくって先を示した。
「ふんっ・・・」と満足そうに微笑むと、その人物は不二の後についていった。
「大丈夫かにゃ・・・」心配そうにその姿を見送る菊丸に
「大丈夫だろ。不二もバカじゃないんだから」と、どこから現れたのか乾は言った。
「けど・・・」相手の素行やこれまでのことを思うと、どうしても心穏やかになれない菊丸は
心配そうに言った。
「向こうだってバカじゃない。俺たちには、まだやるべきことがあるんだからな」
と乾は静かに呟きながら、菊丸の視線に沿わせるように、先の人影を見つめるのだった。
「君との決着はもうついているはずだ」
人気のないグランド裏の木立の中で、ふと足を止めると、不二はそういいながら振り返った。
「あの時のは・・・でしょ?」
「もし、次を望むのならそれは全国にしてもらえないかな」
「あんたと絶対に当たるって保障はないだろ」
「だからってこんなところまで毎日押しかけられても、迷惑なだけだ」
長い前髪の間から、鋭く光る青い瞳が怒気を含んで向けられた。
「そんなに俺ともう一回やるのは、嫌ですか?」
「無益な戦いはしない」
「負けるから?」
「僕は負けないよ」
「あいにく、おれも、負けるつもりはないんで」
「君ってバカ?」
そういいながら、不二は相手に詰め寄った。
「ある意味そうかも知れませんね。欲しいものはなんと謗られようと
手に入れるまでは、バカみたいに執着するタチだから」
「どうしてそこまで、僕にこだわる必要があるんだ?」
「聞きたいですか?」
「是非お願いしたいね・・・切原赤也くん」
そう言う不二の腕を掴むと、切原はぐっと押しながら、背後の木に不二を
押し付けるようにして掴みかかった。
「くっ・・・」切原と木の間に挟まれて、背を打った不二は、うなるような声を上げた。
切原は片手で、不二の顎を掴むと、くいと引き上げながら、勝気な目を向ける不二に
不敵な笑みを向けて「あんたが気に入ったからですよ」と告げた。
「はぁ?」と意味が分からず声を上げる不二の唇を、切原は自分のそれで強引に塞ぐと、
無遠慮に歯列を割って、舌を滑り込ませ、その口内を犯したのだった。
「んふっ・・・」ガクリと力が抜ける不二の腰に手を回すと、拘束するようにきつく抱き寄せた。
「何をっ・・・」
解放された唇を大きく開いて、息を吸い込むと身じろぎながら抵抗を示し、声を上げた。
「まだ分かりませんか?」獲物を罠に嵌めて追い詰めたような目をしながら、切原は不二に言った。
「あんたのプレイも、その声も体も肌も髪も目も・・・なにもかもが俺を捉えて離さない。
あのときからずっと、俺の目はあんただけしか追わないし、俺の心はあんただけを求めてやまない・・・
俺を追い詰めて、罠に嵌めて、がんじがらめにしたのはあんたなんだよ・・・不二周助」
告げる切原の声は、僅かに震えていて、追い詰められたように、切なさと苦しさが含まれていた。
「それは、君の勝手だろう・・・」
「でも、あんたの責任でもあるんですよ・・・だから・・・とってもらえませんかね?その責任を・・・」
不二のシャツの隙間から、手を滑り込ませると、切原は吸い付くような白くきれいな肌に
沿わせるように這わした。
ゾクリと痺れが、不二の体を襲い、手にしていたラケットが地面にスルリと抜け落ちた。
「強くて脆くて・・・綺麗で残酷で・・・冷たくて優しくて・・・・あんたって人は・・・」
切原は、身を預けるように、不二にもたれかかるとその肩に顔を埋めて声を震わせて抱きついた。
「きり・・は・・・ら・・・」
感電したようなショックを受けたように、不二も震えながら切原の背に手を回しそっと抱きしめた。
獣が子供にかえり、仮面が剥がれ落ちていく・・・・
切原の奥の、本当の姿を、このとき不二は垣間見たのだった。
「もぅいい・・・分かったから・・・」不二は静かに切原に言った。
「不二さん・・・」
「君が本当の君を、僕にこうして見せてくれるなら、僕は君のなんにでもなってあげる」
「同情は嫌だ」
「そんなんじゃないよ・・・ただ・・」
「ただ?」
「僕は元来、物事に執着するタチじゃないんだ。だから僕にそういて欲しいなら・・・分かるよね」
いつものエンジェルスマイルをたたえながら、不二は切原に言った。
「えぇ・・・必ず。あんたを、俺だけに縛り付けてみせますよ」
切原は、いつもの顔で不敵に微笑んだ。
「くすっ・・・楽しみだね」
「余所見なんかさせませんから」
「させないでよね」
ふっと微笑む不二に切原は今度は優しくキスをすると
「誓いますよ」と言った。
「じゃ、俺、これで帰ります。これから・・・覚悟しててくださいよ」
手を上げて足取り軽く去っていく切原を、不二は柔らかく慈愛に満ちた瞳で見送った。
温もりと感触の残る唇に指を当てながら・・・・・
二人の第二ラウンドは、まだ始まったばかり・・・・・
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