呪縛



















「・・・邪魔・・・しますよ?」







「・・・・・・どうぞ?」







とっくに、就寝時間が過ぎてるであろう時間に、ホールの窓から月を見上げている後ろ姿に、

遠慮がちに声を掛けた切原は、柔らかい微笑と共に自分を受け入れる言葉に、過ぎた安堵感を

感じながら「じゃあ遠慮なく」と言いながら、その背に並ぶように近づいた。







「落ちたみたいだね」


並んだ途端に掛けられた第一声に、目を開いて驚きながら「・・・はぁ?」とポツリと言う切原に



「クスクス・・・階段じゃないよ・・・憑き物」と可笑しそうな声が続いた。



「不二さん・・・」



「駄目だよ。あんまり真田に心配かけちゃさ・・・」それでなくても幸村のことだけでも

大変なんだし・・・と不二が優しく言った。



「言われなくったって・・・」と言いかける切原に



「わかってるならいいよ」と不二が微笑みながら言った。





非常灯の明りだけの薄暗いホール・・・僅かな月の光を浴びて、柔らかな笑みを湛える不二の姿は、

柔らかいオーラを漂わせていた。

何もかもを包み込んで、荒んだ心の隙間を埋め尽くしていくような・・・・・

そんな優しさに、切原は息を呑んで、ただじっと見つめるのだった。





まだ少し湿気を含んでいるだろう髪に触れて見たくなる衝動を抑えていると、

微かな夜風とともに、ほんのり香る甘い匂いが切原の鼻腔をくすぐった。





壊してしまいたくなるような、それでいて箱にしまって大切にしていたいような感情と、

引き込まれてはいけないような、けれど、自分を曝け出して包まれて癒されたいという感情とが、

複雑に、切原の心の中で絡まっていった。









「そんな顔は、いけないな」という言葉とともに、そっと伸ばされた不二の手が、切原の頬に触れた。


「えっ」どんな顔をしていたのだろう自分は・・・と、切原は自分に微笑を向けている不二を見た。


「クスッ・・・自分らしく生きればいいんだ・・・」


「俺は・・・・」


「思ほど器用に生きられるような人間は、そうそういないから」







静かに掛けられる声が、じんわりと切原の心に染みていく。

囚われたように、切原はじっと次の言葉を待つのだった。







「一人じゃない・・・君は・・・君が思うほど・・・」


「何言って・・・」


「人は一人でも生きていけるけど、一人で生きる必要はない・・・・そう思わない?」

ね?と言われ、切原は言葉を呑み込んだ。


「目指せばいいよ、うんと上を・・・けど、一人ではどうしようもない時は、

遠慮せずに誰かに甘えてもいいんじゃないかな?」


「不二さん・・・」







かつての試合で、自分がこの人に与えた仕打ちが脳裏に蘇る。

この人だけではない・・・・

そんな俺が・・・

甘えていいのか・・・俺は・・・この、目の前の人に・・・








「クソッ・・・・」小さく呟いて、切原は不二から顔を反らした。

硬く握った拳が僅かに震えていた。

そんな切原を見て、不二はふっと小さく息をしてから、

「きっかけはどうであれ、呪縛に囚われるのも解放するのも結局は、自分自身なんだよ。

そろそろ・・・・解放してあげなよ・・・切原赤也をさ・・・

この人って思える人に、相談してみればいい。きっと上手くいく」




切原の心の内を感じてか・・・そう言う不二の笑顔は、とても儚げだった。



「少し・・・おしゃべりが過ぎちゃったかな・・・・」じゃぁ・・・と言って去ろうとする

不二を、後ろから切原がぎゅっと抱きしめた。


「えっ・・・」小さく不二が声を上げた


「行くな・・・」苦しそうに切原が言った


「切原・・・」


「行かないでくれ」懇願の言葉と共に、切原は不二の項に顔を埋めた。









静かに時が流れる


そっと力を抜いた不二を、自分に向かせると切原は


「あんたを選んでいいか?」とゆっくりと尋ねた。






困ったように微笑む不二に

「今すぐ返事はいらねぇ・・・けど、俺は相談なんて子供だましみたいなものだけじゃいやだからな・・・

あんたの全部で、俺を受け入れてくれ」


「えっ・・・・」


「俺にあんなこと言ったオトシマエは、つけて下さいよね・・・不二周助さん・・・」





戸惑いの表情をしている不二に

「俺は目指すよ。とことん上を・・・俺のために。その俺と一緒に生きましょうや・・・」

ふっと笑う切原に、不二はやっぱり困ったような微笑を向けた。





ふんっ・・・と一つ息をして切原は不二の肩をぎゅっと掴むと、驚いて薄く開いた唇に自分のそれを重ねた。





「んっ・・・」不二が体をピクリと震わせる

抱きしめる腕に力を加えながら、切原は軽く不二の口内を貪ると、ゆっくりと首筋に唇を這わせていった。



「あっ・・・」小さな声を上げて不二が首を反らせた。

背丈はほとんど変らないのに、鍛え上げられた筋肉がついた体は、華奢な不二とは

比べものにならないほどの力をもっていた。

身じろぐ不二を軽く捕らえたまま、切原はそ肩口に噛み付き、チュッときつく吸い上げた。






「やっ・・」


「手付けですよ・・・あんたは・・・・・・あんたが、俺にあんた自身をを選ばせたんだ」


「切原・・・・」





獲物を捕らえて離さない瞳に見入られて

不二は、ふっと微笑むと「お手柔らかにね」と静かに答えたのだった













俺の呪縛を解いたのはあんた



けど



俺に、次の呪縛をかけたのもあんた









だからさ・・・



あんたも一緒に、その呪縛に捕らわれてよ











あんたと一緒に


あんたのために



たとえあんたが悪魔だろうと



そんなことは構わねぇからさ・・・・・




























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