君とはいられない
「じゃあ・・・ね」思いを断ち切れないまま千石は寂しそうに微笑んだ。
「うん」と不二は千石の目をまっすぐ見て短く答えた。
「今度会った時は友達?」遠慮がちに尋ねる千石に
「会う事があったらね」と不二は静かに言った。
「笑顔で会えるかな?」
「まぁ・・・いつか・・・そのうちにね・・・」
「もう一回聞くけど・・・ほんとに駄目?」すがるような目で言う千石に
「何度聞いても駄目だよ、僕達はもう子供じゃないんだ。それに男同士だし・・・
もう・・・君とはいられない・・・」
きっかけは・・・・
一目惚れだった
好奇心だった
仕掛けたのは俺で
ノッたのは僕
夢を口にしたのが俺
はぐらかしたのが僕
「でも・・・俺は君が好き」
「それも今だけ・・・きっと君は僕を憎んで恨んでキライになるよ」
「でも・・・俺は君を忘れない」
「・・・いいよ・・・どんなに君が僕を嫌いになってもそれで君の記憶に残るのなら・・・・
僕を・・・覚えていて・・・」
「君の心には俺は残るのかな?」
「千石・・・・」不二は哀しげな眼で千石をみつめながら
「僕は・・・いつでも真剣だったよ・・」と答えた。
「そっか・・・だったら大丈夫かな?」千石は無理に笑って言ってみせた。
こんなにも好きなのに
好きで好きで仕方ないのに
どうして俺達離れなくちゃいけないんだろうね・・・
こんなにも好きで
何より君のことを大切に思うから
僕は君とはいられない・・・・
いちゃいけないんだ・・・
「不二を幸せにできるのは俺じゃなかったんだね」
泣きそうな顔の千石に不二は心臓が止まりそうになった。
『ちがうよ・・・君を幸せにできるのが僕じゃないんだってこと・・・』
心の中で呟いてから
「疲れちゃっただけだから・・・」と不二は儚げに微笑んだ。
「じゃぁね・・・」
「ありがとう・・・不二」
泣きそうな顔で無理やりに微笑をつくり、不二を見つめたまま立ち尽くす千石の
手を掴み不二は無理やり握手をして、千石からの言葉で溢れそうな涙を堪えて
背を向けると逃げるようにその場を去ろうとした。
『幸せになって・・・祈ってる・・・』
中学から今まで二人で過ごした時間と二人で積み上げてきた思い出が
頭の中を走馬灯のように駆け巡っていく。
大学を卒業と同時に
『一緒に暮らそう』と言い出したのは千石で、
『君といることに疲れたんだ・・・別れてくれないかな?』と答えたのは不二だった。
長男・・・跡取り・・・
離れたくなかったから
目をそむけるように今まできたけれど、
やっぱり自分は子を成せないから
これ以上彼の人生に居座るわけにはいかないと
本心を隠したまま不二は千石のもとから去ることを決めたのだった。
何もかも全部ひっくるめて
それでも自分は不二が必要だと
彼と生きていきたいと
そう思って告げたたった一言だったのに
その一言で彼を失うことになってしまったのが
何より辛かった・・・信じたくなかった
よく二人で訪れて語りあった公園で不二の後ろ姿を見送りながら
千石は心の中で自分の気持ちを落ち着かせようと必死だった。
不二は・・・真剣だったと
そう言っいた。
俺も・・・真剣。
俺は自分に偽ることなく不二を目一杯愛して
不二もそれに答えてくれていた・・・・はず
男同士だとか
そんなことはどうでもいいことで
自分がこれから生きていくのに
本当に大切な人を失いたくないだけ。
愛する人と生きていきたいだけ。
疲れたなんて・・・・・嘘
絶対それは嘘
嘘だ!!
「不二っ!」
千石はそう叫んで駆け出すとと公園の出口で追いついた不二に後ろから抱きしめた。
「千石・・・」
驚いたように呟く不二の言葉は僅かに震えていた
「嫌だ・・・」
不二の後頭部に顔を埋めた千石は搾り出すような声で告げた
「何言って・・・・」
「世間体で俺と別れるっていうなら・・・・そんなことは俺は絶対許さない」
「千石・・・」
「俺は・・・だれがなんて言おうと不二と生きていくって決めてるんだ
それを・・・だれにも邪魔なんてさせないっ。
俺が一緒に生きていきたい大切な不二を何があっても守ってみせるっ
だから・・・だから不二が俺から離れるなんて許さないっ!!」
「千石っ・・・・」不二の瞳から零れ落ちた温かい雫が千石の手を濡らした。
「生きて・・・俺と一緒に」
「うっ・・・」
「二人で一緒に越えて行こうよ・・・」
「千石っ・・」
不二は自分を抱きしめる腕をぎゅっと掴んだ。
「黙って・・・一人で決めて・・・俺から離れないでよ」
「ごめん・・・」
「俺はさ・・・不二なしじゃ生きていけないから・・・だから・・・
不二を失うことに比べたら他のことなんかどうでもいいんだよ・・・」
「だけど・・」
「そりゃあ不二のおばさんたちに孫の顔見せてあげられないのは俺も辛いけど
でもさ、俺達が幸せに元気に暮らしていればきっとみんな分かってくれると
思うんだ・・・・ね?」
「千石・・・」
「こんなに不二の事が好きなのに・・・あんなにずっと精一杯好きでいたのに
はい、次からお友達ねって俺は絶対嫌だから・・」
「ほんとにいいの?それで・・・後悔しない?」
不二は恐る恐る尋ねた。
「このまま不二を失くすほうが後悔するよ」
千石ははっきりと告げた。
不二も黙って千石を見つめる
「後悔させないでよね」
告げる千石に不二はふっと微笑を返した。
「どうして・・・あの時は『うん』って言ってたのに・・・」
二人並んで座った公園のブランコをゆっくりと小さくこぎながら不二は言った。
「『疲れちゃった』って言われてさ・・・動転してた・・・」
千石は苦笑いしながら答えた。
「心臓止まってどうにかなっちゃうかなって思ったよ・・・」
「ごめん・・・」
「いいよ・・・・」
「千石・・・」
「さっきも言ったけど・・・一緒にだよ・・・二人でね・・」
「ん・・・」
後悔はしない
後悔はさせない
過去にはしない
思い出だけでは終わらせない
これからもずっと
二人で一緒に
全ての思いを共に
生きていこう・・・
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