A.RA.SHI
『・・・・厳重な警戒を呼び掛けて・・・』
ブラウン管の向こうから・・・画面の上部に流れるテロップ・・・
ダメダメ・・・そんなに必死に言ったって
全然聞いてないヤツが、ここに一人いるんだけど?
千石は心の中で苦笑いをしながら、半分ほど開いたベランダの窓に目をやった。
窓と平行に吹いている風が、物凄い音を立てているのが煩いくらい。
けれど、部屋に風が吹き込んでくることもなく、ガラス一枚向こうとこっちの
やけにアンバランスな状況を、他人事のように感じていた。
「そろそろ入ってきなよ」
多分、聞いちゃいないだろうと思いつつも、窓の向こうへ向かって声を上げてみる。
「・・・」
案の定、返事なんか返ってくるはずもなかった。
「吹き飛ばされても知らないよ」
「・・・」
こんな大嵐の中・・・何が楽しいんだか・・・
諦めたように溜息をついて、千石はテレビのリモコンを、玩ぶようにチャンネルを変えていった。
俺よりそっちがいいんだ・・・
例年にないほどの猛威を奮っている自然現象に、ヤキモチなんてやくわけない。
思う気持ちとは裏腹に、徐々に何故かムカついてくる。
返事くらいしたっていいんじゃないの?
とか言いながら、返事だけじゃ嫌なくせに・・・
ちっとも思い通りにいかない相手に、いつも振り回されてばかりの自分が
哀れなような、それでいて心地良いような・・・
結局、それって惚れてるんだろうな・・・
とどのつまりに、行き当たって、思考を停止させてみる。
外は相変わらず大嵐。
少しずつだが、雨も降りはじめてきたようだった。
「濡れるよ?」
やっぱり返事はない・・・
「生きてる?」
って質問を変えてみれば、
「生きてるよ」
とようやく声を聞くことが叶った。
聞こえてんじゃんか・・・
ちょっと心の奥で拗ねてみる。
けれど、事の発端のご本人は、未だ、台風体感をお楽しみ中。
真っ暗な夜の、
星のひとつも見えない空を見上げて、飛ばされそうな風と、
随分と激しさを増してきた雨の中、何を悦に入っているのか・・・
千石には理解不能だった。
だから立ち入らない。
好きにしたいようにさせといて、
満足したら戻ってくるから・・・
今はそれを待つだけ。
それでも、若干のちょっかいを出したくなるのは、いた仕方なく、
反応を期待せずに、僅かな抵抗というか、自己主張を続けていたのだった。
いくら直接雨には濡れないとはいえ、これだけすごい暴風では、奥まったところでも
関係なしに雨は吹き込んでくる。
徐々にベランダのみならず、部屋の中までが暴風雨圏内に入ろうとしていた。
土砂降りの雨、荒れ狂う風、深い闇、威嚇するような轟音・・・
その中で、白く浮かび上がるのは不二・・・
まるでその風に攫われるのを待っているかのように
まるで土砂降りの雨に流されるのを待っているかのように
何を見てる?
どこへ行こうとしてる?
ダメだよ
ダメ・・・許さない
「水浸しになるから閉めるよ?」ちょっと強硬手段に打って出てみる。
「・・・分かった」ようやく、体を翻して不二が返事をしたのだった。
あぁ・・・やっぱり
千石は不二を見て、溜息をつく。
「ズブ濡れじゃん・・・」
「ちょっと、濡れたかな?」ニコリと笑う不二に
「ちょっとどころじゃないよ・・・もぉ」と千石はいつもの如く、最後の諦めに辿りつく。
用意していた大き目のバスタオルを広げて、窓の傍で、入ってくる不二を包み込むように抱きしめた。
「ん・・・お日様の匂いだ・・・」不二は気持ち良さそうに顔をタオルに埋めるようにして、
千石の胸に擦り寄った。
「風邪ひくよ?」照れ隠しのように言う千石に
「どうせ明日は、警報で休みだろうから・・・別にいい」と不二は答えた。
不二を覗き込む千石を、たちまち魔法がかかったように、衝動に駆られる。
濡れそぼる髪・・・
その合間から見える、妖しく引き込まれそうに光を湛えた瞳。
白い肌に、濡れた唇。僅かに開いたそこからちらつく甘い舌。
目が・・・離せない。
ゾクリとした欲が背中を駆け上がり
ドクリと心臓が跳ね上がる。
「冷たくなってるじゃん・・・」白々しい言葉を吐いてすぐ・・・
その甘い舌を味わいたくて、「ん?」と自分を見上げる不二の唇に、そっと自分のそれを
重ねてみる。
あぁ・・・
甘い
もっと欲しくて、千石は貪るように舌を絡める。
「んふっ・・・」零れる声までもが、蕩けるように甘い。
「やっぱ、冷えてる」意味も無く、イタズラをした子どもを嗜めるような口調で、
千石は不二に言った。
「じゃぁ、分けてくれよ・・・」不二が微笑と共に千石に告げる。
「何を?」
「君の熱を・・・君は、火傷しそうなくらいに熱い・・・」不二はそう言うと、
今度は自分から唇を重ねた。
外の嵐に負けないくらい。
千石の中に熱の嵐が沸き起こる。
土砂降りの雨も、たちまち蒸発してしまいそうな
そんな熱さ・・・
「いいよ・・・そのまま・・・溶けさせてあげる」
誘ったのは・・・不二だからな・・・
俺はあくまでもそれにノッただけ
言い聞かせるのは、最後の抵抗。
とっくに
自分は蕩けてる・・・
それは決して口にはしない。
「うん・・・跡形もなくなるくらい・・・溶けさせて・・・」
バスタオルを剥ぎ取り、肢体を絡める不二
すっとその下肢に手を滑らせると、そこは既にその気を示していた。
「台風に感化された?」ちょっと素直な疑問を投げかけてみる。
「どうかな・・・」千石のシャツのボタンに手をかけながら答える不二。
「違うの?」その不二のシャツを肌蹴させながら、もう一度、千石は尋ねる。
「キライじゃないよ・・・嵐は・・・」肌蹴た千石の胸に頬を摺り寄せ、不二は呟いた。
「知ってる」千石は短く答えて、シャツを剥ぎ取り現れた、不二の滑らかな肩に噛み付きながら、
ベルトを抜き取る。
「君に抱かれてるのと似てるから・・・」
「それで?」濡れたズボンにやや苦戦する千石。
「イった後に抱きしめられる感じが・・・さっきのタオルと同じ・・・」
「さっきの?」ようやく不二を裸にした千石が不思議そうな顔をした。
「そう・・・嵐の後の、お日さまみたい・・・」
「へぇ・・・」千石はいつになく素直に答えてくれた不二に、いつも以上の笑みがこぼれた。
「じゃ・・・感じてもらわなきゃね・・・お日さまを」
「ん・・・でも・・・」言いかけた不二の唇にそっと、千石は人差し指を当てた。
「その前に・・・嵐があるからいいんだろ?」
「そう・・・」不二は満足そうに微笑むと、身を委ねるように瞳を閉じた。
噛み付くようなキスをしながら、滑らせた手で、形づく不二を包み込む・・・
「んふっ・・・」唇を開けて、千石の熱い舌を求める不二。
俺もさ・・・とでも言うように、千石は、自らの欲の象徴を不二の腿に押し付け、
不二のそこに絡めた手の動きを早め、追い詰めていった。
貪るように舌を絡めながら、千石は、折れるほど不二を抱きしめたまま、
自らもろともソファに身を投げた。
さっきまでの荒れ狂う風の代りに
不二を襲うのは快楽の嵐
土砂降りの雨の変わりに
降り注ぐのはキスの雨
そして卑猥な音ともに、更なる熱を求め、絡み合う体。
幾度も果て、どちらとも分からぬほどの欲の証に
二人の体はずぶ濡れる・・・
俺は・・・と、不二を抱きながら千石は考える。
不二の嵐なら、いくらでも感じさせてあげる
土砂降りの雨の代りに、溺れるくらいのキスをあげる
不二のお日さまであるなら、いつまでも包んであげる
でも、今は、もう少し、・・・
まだ、このまま・・・二人でずぶ濡れていたい・・・
それは
自分も今、不二という嵐を感じてるから・・・
そして、一緒に感じようお日さまを見たいと・・・
血が騒ぐのは・・・お互いさま
二人の恋情の・・・そして、劣情の嵐は
勢い衰えることを知らない
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