静夜
「静かだな」
「あぁ」
「こんな広い世界に、君と僕しかいないみたいだ・・・」
クリスマスイブの夜、手塚の部屋のベッドの上で、行為の後の、けだるい体をシーツの海に沈めたまま
不二が、薄暗い部屋の天井を見つめながら、ポツリと呟いた。
さっきまでの溶けるような熱の中の、途切れることのない甘い喘ぎが嘘のようだった。
モソリと、不二が体を反して手塚に絡みついた。
「どうした?怖いのか?」自分の胸に顔を埋める不二の腰に手をまわして、
もう片方の手で薄茶の髪を梳きながら、手塚は優しく尋ねた。
「いや・・・君がこんな傍にいるのに・・・」
手塚の胸に、頬を摺り寄せるようにしながら、不二は言葉を続けた。
「怖いのは・・・・僕のあさましさだよ・・・」
「ん?」
「もし、本当に、二人きりになったら・・・何の遠慮もなく、僕は君を独り占めすることができて、
そして、君は、永遠に僕だけを見てくれるなって、思ってしまう僕自身・・・」
そう呟く不二に、手塚はふっと微笑んでから、ぎゅっと不二を抱きしめて、
目の前の薄茶の髪に顔を埋めた。
「それえなら、気にすることはない・・・お互いさまだ」
ポツリと言う手塚に不二は「え?」と言った。
「独占欲は・・・お前が俺に対して持っているものより、俺がお前に対して持っているものの方が強い。
浅ましいというのなら、それは、俺の方が当てはまるかも知れん」
胸に抱いた不二の背を、あやすように撫でながら、手塚は静かに言った。
「手塚・・・」ゆっくりと不二が、顔を手塚の方へ向ける。
「俺はいつも、お前を部屋に閉じ込めて、誰の手にも目にも触れさせたくないと思ってる・・・
鎖で繋いで囲ってしまいたいと・・・外の空気に触れさせるのさえ、嫌だと思う時がある。
そんな、狂気じみたことを考える自分が、時々怖くなるくらいだ・・・
もちろん、本当にそんなことはするつもりはない・・・自由に羽ばたくお前が、一番綺麗なのは
俺自身が、一番分かっているつもりだからな・・」
告白するかのように告げる手塚に、、不二は目を見開いて
「嘘・・・そんなの・・・初めて聞いた」と言った。
「そぉか?いつも言ってるだろ?『傍に居ろ、俺だけを見ろ』と・・・」
「そういう意味・・・だったんだ」
少し驚いたように呟く不二を、手塚は愛しそうに見つめながら
「今頃気づいたのか?お前にしてはニブイじゃないか・・・いつも俺のことを『ニブチン』とか
言ってる割に・・・」とふっと笑った。
不二は、少し拗ねたように上目遣いに手塚を黙って見た。
『手塚に、ニブイなんて言われたくない』と目が訴えている・・・
しかし、そんな上目使いも、なんともいえない色香を湛えていて、手塚には、たまらなく
色っぽく、可愛く感じられた。
ふっと微笑んでから、手塚は子供をあやすように
「そんな顔をしても、俺には可愛いくて仕方ないだけだ・・・それに、さっきお前が思ったことは、
あさましくもなんともない・・・むしろ、そう思ってもらえることを、俺は嬉しいと思う」
と言った。
「それって、何かのフィルター、かかりまくり?」照れながら言う不二に
「あぁ・・・恋愛フィルターか?」と手塚は、しらっと答えた。
「手塚が、そういうこと言うなよ・・・それに、僕は君を縛りたくない」
「事実だし、間違っていないから別に構わんだろ・・・俺はお前を愛してる。
それに、お前はそう思わなくても、俺は束縛して欲しいと思っている。
お前になら、鎖でも鍵でも、いくらでも、何をされてもいいと思ってる・・・」
「ヤバイよ・・・それ・・・」戸惑ったような不二に
「嫌か?」と手塚は優しく尋ねた
「嫌とかじゃなくてさ・・・」
恥ずかしそうに、手塚に抱きつく不二の鼓動が、素肌を通して手塚に伝わった。
「可愛いな・・・不二は」そんな不二の反応に、、手塚は満足そうに呟いた。
「君ってさ、こんなに僕をドキドキさせて・・・早死にさせる気?」
苦笑いしながら言う不二に手塚は
「そんな訳ないだろ・・・俺はお前を愛してる。ただそれだけだ」と言ってから、
優しくキスをした。
甘い息を漏らした後、不二はクスっと笑って、
「不思議だな・・・僕達、二人ともお互いを縛らないって思いながら、
自分自身は、相手に束縛して欲しがってる・・・」と言った。
「あぁ・・・・だからこうして、首に鎖をつけたんだ・・・」
そう言って手塚は、不二の胸元のチェーンと、その先にあるリングに指先で触れた。
不二も、手塚のそれにそっと触れる・・・
お互いへのクリスマスプレゼントだった。
指にするのは面映いと、チェーンに通して首にかけた。
リングもチェーンもペアで・・・そう遠くない未来、二人で暮らせるようになった日に、
首から指へと・・・と数時間前に約束を交わしたところだった・・・
ふっと顔を上げた不二が、カーテンの隙間から見える、外の月に目を向けながら
「今頃、サンタさんは大忙しだろうね・・・」とポツリと呟いた。
「ん?」と不二の目線の先を見ようとした手塚に
「僕のサンタは、ここにいるけど・・・」と不二が言った。
不二に視線を戻す手塚・・・
「ありがとう・・・こんな素敵なクリスマスを・・・」と、不二が幸せそうな顔をして言った。
「俺の方こそ・・・サンタがプレゼントを貰ってしまった・・・
と言うより、お前が、俺のサンタだな」と手塚は微笑んで言った。
「大好き手塚・・・」不二は、手塚にきつく抱きつきながら、ベッドの中で、
足を絡ませ、体を摺り寄せた。
再び体の中で燻っていた熱に、火が点るのを感じた手塚は、
「どうやら、俺の可愛いサンタは、小悪魔でもあるようだな・・・」
と呟いて、素早く体勢を変えると、不二を組み敷いた。
ふっと微笑む不二を見下ろしながら、手塚はゆっくりと不二の体に、その身を重ねていった
求め合う雄を絡ませながら、深く、甘いキスを交わす。
這わされる指先に、強く縋りつく腕に、そこはかとない痺れを感じながら、
静かな夜に、また・・・甘く蕩けるような吐息が響きわたる・・・
包み込むように温かく・・・
夢のように幸せな・・・・
二人だけのクリスマス・・・・・
カチャリと触れ合うリングが、窓から差し込んだ月の明かりに、照らさるのだった・・・・
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