携帯
休み時間、教室を移動しながら、手塚は携帯を左手に持ち、手早くメールを打っていた。
廊下を歩きながら、人にぶつからないようにかわしつつ・・・
女生徒並みとは言わずとも、それはかなり慣れた手つきだった。
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送信を押して、ふと顔を上げたと同時に、背後から声をかけられた。
「まさか、君のそんな姿を、見ることができるようになるなんてね・・・」
「ん?・・・・乾か?」
そう言って手塚が振り返ると、ノートを手にした乾が、楽しそうに笑って立っていた。
「相手は?不二かい?」
「答える必要はるのか?」
「ん・・・好奇心には勝てないものでね」
「愚問になると分かっていてもか?」
「失礼・・・分かってはいるんだけどね・・・」
「なら聞くな」
「一応・・・ほら、確認のためにね・・・」
「ふん・・・」
すると、二人の会話を遮るかのように、
手塚の手の中の携帯のランプが光った。
マナーモードだろうそれは、光ながら、振動を繰り返しているようだった。
「出なくていいのか?」乾の言葉に
「メールだ」と手塚は短く答えると、目線を手元に落とした。
送信相手を確認し、内容をみている手塚の顔が、僅かにゆるむのを
注意深く観察していた乾は見逃さなかった。
「やはりね・・・」
ニヤリとする乾をチラリと睨んでから、手塚はもう一度、画面を見つめた。
それは目を疑ってしまうほどの光景。
画面を見つめフッと微笑みながら、それを閉じる我らが鬼部長の姿・・・・
『おいおい・・・』乾は心の中で呟く
「まったく君は・・・」
「ん?」
「姫がからむと人が変わるね」
「悪かったな」
手塚の中では・・・不二は全てを超越した存在で、
何ものにも変えることができない最愛の恋人だから
誰に何と言われようと、そんなことは取るに足らないことだった。
だから、乾にずばり指摘されてもサラリと流す。
悪かったなとは言っても、心の中では「悪いか!ほっとけ」くらい思っているのだろう・・・
「ま、君じゃなくてもあの姫には・・・」と言いかけて乾はハッと口をつぐむ。
「俺「だけ」のあいつだ・・・勝手なことを言うな」鋭い目つきで手塚が言う。
「すまん、すまん・・・まぁ・・・それほどになるのも分かるけど・・」
「なら言うな」
「はいはい・・」
と、再び手塚の携帯が・・・
画面をちらりと見た手塚は、乾にも目もくれないといった風に、
さっと携帯を開いた。
「どうした?」
『あのさ・・・さっきのだけど・・今からじゃだめ?』
「ん?」
『授業あるのは分かってるけど・・・』
「なんだ・・さみしいのか?」
『少し・・・』
「ふん・・・仕方ないな・・・」
『悪いな』
「かまわん。いつものところで」
『ん』
「先に行っててくれ」
『了解』
『参った・・』
乾は普段絶対聞けないような手塚の声や仕草をまともに見聞きして、持っていたノートを落としそうになった。
思わず、周囲に人がいるかどうかを確認するようにキョロキョロとしてしまう自分に、乾は苦笑いをしながら、
誰も居ないことにホッと安堵もするのだった。
「姫君によろしく・・」
「あぁ・・・」
そう言うと手塚は、くるりと反対の方を向いて足早に去って行った。
その後姿は嬉しそうに、乾には見えたのだった・・・
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