葛藤A


















跡部の家から慌てて出た不二が、3軒ばかり先の自分の家の前に目をやると、確かに手塚が立っていた。



「すまない。突然」



「驚いた」



「どうしても、お前に謝っておこうと思って」



「ちょっと待って。ここじゃなんだから。とりあえず・・・」



「いや、もう遅いし」



「親は出かけてて、今日はいないし、姉さん帰りは遅くなるから、気を遣う相手はいないけど」



「では・・・少しだけ」



「どうぞ」



「先に部屋行ってて」






そういうと不二は、キッチンへ行った。






綺麗に整頓されている広い部屋に入り、隅に荷物を置くと、手塚はテーブルの前に座った。

しばらく、ぼぉ〜と部屋を見渡しているとドアの向こうで不二の声がした。



「両手ふさがってるんだ。悪いけど開けてくれないかな?」


ドアの向こうで肩にバックをかけて、左手でカバンを持ち、右手に紅茶の入ったカップと

クッキーの入った皿を載せたトレイを持って、不二が立っていた。


「はい、これ持って」トレイを渡され、手塚がテーブルの上にそれを置いた。

「ほんと、君にはびっくりさせられる」



「すまない」


いつものように、手塚の隣に不二が座りながら話してきた。


「で?何か僕に謝らないといけないようなことを君はしたの?」

深く蒼い瞳を開いて、手塚の顔を横から覗き込んだ。



「今日は俺の独占欲が過ぎて、お前を怒らせてしまった・・悪かった。」



「それだけ?」



「ん・・」



「で、わざわざここまで?」



「いけなかったか?」



「いや・・・僕もさ・・・ごめん。」



「お前は謝らなくていい。この気持ちのまま帰るのが嫌だったから、

お前に非を詫びておきたかった。が、これも俺の勝手で、

またお前の邪魔をしてしまってようだ」



「そんなことない。手塚。電話くれたとき、僕はすごく嬉しかった」


カップを両手で持ったまま少しうつむいて不二が続けた。


「友達と関わることは、僕にとって、普通のことでも、それで君に嫌な想いをさせてしまうことに関しては

どうしたらいいのか、正直分からない・・・僕にとっては、みんな、大切な人だからね。

でも、一番好きで大切なのは手塚だよ。それは、君が一番分かってくれていると思ってた。

だから、今日のは少しきつかったよ。信用されてないのかなって、本当にどうしたらいいんだろうって・・・」



「辛い思いをさせてしまった。本当にすまなかった・・・・

実はな、あのあと千石に会って、あいつに説教されてしまった」



「え?千石が?」



「あぁ、あいつとあんなに話したのは初めてだ。遺憾ながら、今日はあいつに諭された」



「あの千石が手塚に?一体何の話だったんだい?」



「それは企業秘密ということにしといてくれ・・・」



「聞きたいな」



「ただ、そんないろんな奴に心底好かれるお前は、凄いと思った。うらやましくも思う」



「そんな・・」



「そんなお前だからこそ、俺は好きになった・・・そう思ったら、昼間の自分の言動がバカらしく思えて、

傷つけてきまったかもしれないお前に、どうしても今日中に直接謝っておきたかった」




「手塚・・・」




「お前を大切に想い守るのと、お前を縛り付けるのが別の事だと気づいた・・・

お前を心から想っている。傍にいて欲しい。もうお前を理不尽なことで縛ろうと怒鳴ったりはしない、

だから。許してはくれないか?」そう言いながら手塚が切なそうに不二の髪に手をやり頭を優しく撫でる。

「不二・・」



片方の手で、不二の顎を上げ少し自分に引き寄せる。不二は黙って目を閉じた。

長い睫が少し震えている。その不二の姿は、綺麗。その一言だった。

優しいkissが手塚から不二へ下ろされる。



「お前は、これからもお前らしくいてくれればしい。

ただ、お前が戻ってくるべき場所は俺のところだけにしておいて欲しい」



「うん。戻ってくるなって言われても戻るから」



「そんなことはあり得ないから大丈夫だ」



手塚の肩にもたれて、ありがとうと不二が囁いた。

手塚は、後ろからまわした手を不二の肩に置き、そっと自分のほうへ引き寄せた。

サラサラの茶色の髪にそっと口付ける。不二のいい匂いがして、暫く動けなかった。









「周助〜〜♪帰ってるの?」


階段を上がってくる足音とともに、姉の由美子の声がした。




「帰ってきたんだ」


コンコン



「入るわよ」



「おかえり。」



「こんばんわ。お邪魔しています」



「あら。いらっしゃい、手塚くんの靴だったのね」



「今日、遅くなるって言ってなかったっけ?」



「可愛い弟が、一人で泣いてるんじゃないかと思って、帰ってきたのよ」



「なにそれ?」



「っていうのは冗談で、意外と早く区切りがついたから、さっさと帰ってきちゃったわ。

それよりあなたたち、お夕飯まだでしょ?」



「あぁ。お腹ペコペコ。これから冷蔵庫漁って、なんか作ろうかって思ってたとこ」



「そ、じゃ、いいわ。私作るから、周助も手伝いなさい。手塚君一緒に食べて行ってね」



「あ、いや・・・」



「あら?何か急ぎの用でもあるの?」



「いえ。」



「じゃぁ、いいじゃない。お家に連絡して、よかったら今晩泊まって行きなさいよ。周助も喜ぶし」



「え?明日も学校があるんだけど」



「朝車で送って行ってあげるわ。途中で手塚君ちに寄ってけばいいじゃない?

とにかく、私先に降りてるからね」



言いたいことだけテキパキと言うと、由美子は夕飯の準備をしに降りていった。





「ごめん。姉さんさ、自分が学生時代からあんな調子で、すぐしきっちゃうんだ・・・

とりあえず、夕飯だけでも食べて行ってよ」



「あぁ、不二が迷惑でないのなら、甘えさせてもらうよ」


そう言いながら、手塚は携帯で家へ連絡を入れた。






「母がよろしくと、言っていた。今日は泊まらせてもらうぞ」



「いいの?」嬉しそうに不二が尋ねた。




「あぁ。」






二人でダイニングへ行くと、由美子が



「遅いよ〜〜周助!先にお風呂沸かしてきて!それから早くこっち手伝って!」



「あ、ごめん〜、すぐする。手塚はそこで、ゆっくりしててくれ」



シャツの袖をめくりあげながら、不二が風呂場へ走って行った。


リビングで何をするでもなく、テレビのニュースを眺めていた手塚に、由美子が声をかけてきた。





「ごめんね、強引なこと言っちゃって。周助なりに立ち直ったみたいなんだけど、

裕太のこと、まだちょっと後引いてるみたいなのよ、あの子。

手塚君が一緒の時は、凄く元気になるからついつい・・・ほんとごめんね」




そうだった。。。




夏休みの終わりの頃に、不二の弟の裕太は、天才と言われる兄の存在のプレッシャーに耐え切れず、

転校して、家を出て、寮生活をしている。

当初、そこまで弟を追い詰めてしまったのは、自分のせいだと、不二はずいぶんと自分を責めて落ち込んでいた。

周りに悟られないように、いつもの笑顔で普段は生活していたが、

ある週末に自分が傍にいるときに、その仮面が剥がれ落ちてしまった。

その時の苦しみ方は、兄弟のいない手塚には、とても想像つかないほどだった。

自分を責めて責めて、弟を想う気持ちを吐き出すだけ吐き出して、

ひとしきり泣いて、落ちるところまで落ち込んでからようやく現実を理解し、

前を向くことができるようになったのだった。

今を見据え、弟の人生は弟の人生、不二は不二。不二のこれからを、

一緒に過ごして欲しいと、手塚は、自分の想いを不二に伝えたことを思い出していた。



「いぇ、不二のために、何かできることがあるのならいつでも・・」



「そう言ってもらえると助かるわ。また、ちょくちょく来てやってちょうだい」



そういうとまた、由美子はキッチンへ向かった。






風呂の準備を終えた不二が戻ってきて。キッチンへ走る。


「サロンはどこ?僕、制服のままだから」



「そこに私のが、かけてあるでしょ?それ使いなさい」



「やだよ。こんなの、女の子じゃあるまいし」



「文句言わない!早くなさい。手塚君にも待ってもらってるんだから!

あ、ちょっとこっちきて!」



「ちょっと!やめてよ!ねえさん!!」



不二が、なにやらじたばたしている



「さ、これでいいわ。そっちよろしく。」



「・・・なんかさ・・・こういう姿は、人にに見られたくないな」





そんなやりとりを聞きながら、手塚は、凄く不二が見たくなった。

一体、どんな格好で料理をしているのか・・・



由美子も不二の母親も料理の腕もプロ並み、そして不二も。

手塚の家は祖父と同居してることもあって和食がメインなために、

不二の家でご馳走になる洋食が珍しく、うれしかった。

手塚のそんな些細な喜びのため、不二家では、手塚が食事をするときは、

洋風のメニューをメインにもてなすのだった。








「おまたせ」


不二の声に振り返ってみると・・・



「??!」


「あ・・・、ちょっと見ないでくれないかな・・・僕を」



髪をすそで二つに分けて括り、白いフリルのついたサロンをつけた不二が

真っ赤な顔をして料理を運んでいた。

不二よりも、手塚のほうが目のやり場に困った。

史上最強にかわいらしく、心臓が痛くなるくらい胸がキュンとした。

学校で、たまに調理実習でそんな格好で走り回っている女子を見ても何も思わないが、

不二は特別。きっと、由美子がいなかったら抱きついていたに違いなかった。


















「さ、片付けは私がやっておくから。あなた達はお風呂入って、やすみなさい」



「え?いいの?」



「いいわよ。何遠慮してるの?さ。」



「ありがとう。ねえさん」



「ご馳走さまでした。」



「いえいえ。さ、行った、行った」



由美子に促されて不二の部屋に戻る。

手塚のために、大きめのシャツとジャージを出しながら、不二が恥ずかしそうに言った


「今日は、すごく恥ずかしい姿を見られちゃったな」


「そうか?なかなか似合っていて可愛かったが」


「やめてくれよ・・・ほんと恥ずかしい」


「俺は結構気に入ったがな・・」


「真顔でそういうこと、言うなよ・・・はい、これ持って先に行って」


「あぁ、すまない」






不二家の風呂は、ジャグジーつきの洋風の明るい色調で、棚には姉が遣うと思われるものが

いろいろと並べられていた。

『由美子専用!』と書かれたものもあり、思わず笑ってしまう。

シャンプーもソープも今日は不二と同じ匂い。

その匂いに包まれながら、さっきの不二の姿を思い出す。。。

「不二子ちゃん」千石が不二を呼ぶときに使う言葉が頭をよぎった。

つくづく不二は不思議な魅力の持ち主だと・・






「すまない。少し長湯をしてしまったか?」


「気にしないで、全然大丈夫だ。じゃあ、行ってくるね」


不二が風呂に行っている間、不二が読みかけていたと思われる、

テーブルのうえに伏せてあった本を手にした。

ひっくり返して見ると、それは厚めの手帳で、不二らしい綺麗な文字が並べられてあった。







     手塚・・・



     こんなに広い宇宙の中で、

     こんなに刹那な時間だけれど

     君に出会えた偶然を与えてくれた神様に、僕は心から感謝したい。



     君がいるから頑張れる。君がいるから優しくなれる。

     君がいてくれるなら、僕はなんでもできるような気がする。



     君の傍にずっといたい、僕だけに見せる、君のいろんな表情や仕草を見ていたい

     君と同じ時間を生きて、君と同じ思い出を綴っていきたい。



     君が辛い時、誰よりも傍にいて、君を支えていたい

     君がいつまでも幸せでいられるように

     君のためなら僕は何にでも、なれるような気がする。



     君が僕を必要としていてくれる限り、僕が君の居場所になる



     だけどもし、君の人生に僕が必要でなくなったら

     遠慮しないでそう言って欲しい。

     君の幸せが僕の幸せだから、僕は決して君の足枷ににはなりたくない。。



     こんなに、誰かを好きになれるということを

     教えてくれてありがとう

     そして、こんな僕を好きだと言ってくれて

     ありがとう















胸がしめつけられるような思いがし、

柄にもなく、目頭が熱くなるような感じもした。

ふっと、短く息をしてから、シャーペンを取り出し、手塚が次のページをめくった。















     不二

     お前と出会ったのは決して偶然ではなく、必然だと思う。

     俺たちは、出逢うべくして出逢ったんだ。



     俺には、お前のいない世界は考えられない。

     お前が思う以上に、俺はお前に執着している。

     お前が嫌だと言っても、俺はお前を放してやる自信がない。

     

     ずっと俺の傍にいて欲しい。一緒に時間を過ごして欲しい。

     お前がずっと笑顔で過ごせるように、俺はお前を守っていたい
  
     お前の戻るべき場所が永遠に俺であって欲しいと、願ってやまない。



     こんな俺だから、お前に辛い思いをさせてしまうかもしれない

     そんなときは、我慢せずに俺に言って欲しい

     黙っていなくなられるのは、身を裂かれるより辛い



     こんなに誰かをいとおしいと思えることを教えてくれてありがとう。

     心から、お前を愛している。













手塚は、ペンをしまい、また元とおりに手帳をテーブルの上に伏せた。

不二のベッドに仰向けに寝転がり、天井をぼんやり見上げた。







暫くして、気配に、ドアのほうを向くと、


「ごめん。起こしちゃった?」風呂から上がってきた不二が戻ってきた。



「いや、寝てはいなかったから気にするな」



「ほんと?」



「こんなことで嘘は言わないさ」



「ん、はい。冷たいお茶もってきたから、良かったら飲んで」



「助かる、丁度欲しいと思っていたんだ。」



「よかった」











不二は、手帳の存在に気づいて、慌てて閉じて机の上に置いた。



手塚は知らん顔して、またベッドに寝転がる。



「不二の匂いがするな」



「え・・・ど、どういう意味?」



「そのまんまだ。今日は俺も不二と同じ匂いだ」



「そうだな・・・嫌じゃないといいんだけど」



「嫌なはずないだろう。」





廊下にバサッと音がして「ここに手塚君用のお布団置いとくからね」

そう言って由美子が階段を下りていった。





「あ・・・持って行けって言われてたんだ。。。」

舌をちょこっとだして、不二が部屋に持って入れた。



「今日は使うよね」



「そうだな、明日も部活があるしな」



「クスクス・・・たまにはいいかもね」



「俺は嫌だ」



「え?」



「冗談だ」



「もぉ。。手塚。。僕心臓止まるかと思ったよ」



「そうか?大げさだな、不二は・・・俺は、お前のエプロン姿に心臓が止まりそうだったよ」



「あ・・・その話題は禁句ってことでさ・・・」





ベッドの横に敷かれた布団に、手塚がもぐりこんで、不二がベッドにもぐりこむ。





「なんか、やっぱり寂しいな。せっかく手塚が一緒にいるのに・・・」



言い終わらないうちに、手塚が不二の横に滑り込んできた



「あー。反則」



「そういうな。嫌なら向こうへいくが」



「嫌なわけない」



「ありったけの理性を総動員するから安心しろ」



「ほんと、手塚って面白いよね」



「そんなこと言うのはお前だけだ」



「あのさ・・ぎゅってして・・・」という不二を手塚が抱き寄せる。



「これくらいはいいだろ?」そう言ってちょっと深めのkissを不二に下ろした



「今日はいろいろあったね。」



「そうだな」



「明日もいろいろあるかな」



「こうしてお互いにもっとよく分かり合えるようになるなら、それもいいだろう」



「そうだね」



「今度は、俺にも聞かせてくれないか?」



「ん?何を?」



「お前のピアノ」



「もしかして、跡部とのこと怒ってるの?」



「いや、ただ聴きたいと思ったから・・・というか、弾いている姿を見てみたいと思ったんだ。駄目か?」



「下手でも良かったらだよ」



「ん、楽しみにしてる」



「リクエストある?」



「そうだな・・・ドビッシーはどうだ?」



「あ、いいね、月の光かアラベスクならなんとか」



「あぁ、楽しみにしてる・・さぁ、寝るぞ」



「うん、おやすみ手塚」



「おやすみ」



軽いkiss



「いい夢を」



「お前もな」















翌朝、手塚が目覚めると、横にいるはずの不二がいなくなっていた。

ふっと、あたりを見渡すと、出窓に腰を掛けて、わずかにさしてきた木漏れ日の中で、あの手帳を読んでいた。

よく見ると、頬が少し光って見える。

ベッドから静かに起き上がって、眼鏡を掛けて不二を見る。

片膝を立てた上に腕をのせ、その上にちょこんと顎を置いて、

少し遠くの外の景色を見ているその姿が、とても綺麗で神聖で少し儚いように感じた。

気配に気づいた不二が、目をごしごしとしてからとびっきりの笑顔で



「おはよう、手塚」

そう言って手塚の胸に飛び込んできて、朝のkissをした。


「手塚・・・ありがとう。本当に僕、凄く幸せだよ」


「俺の今の正直な気持ちだ・・もっと上手く表現できればいいんだろうが、

今の俺にはそれが精一杯だ、ゆるしてくれ」


「十分すぎるよ。僕にはもったいない気がする」


「俺の方こそ、お前の心を・・もらいすぎだ・・」


「手塚・・ありがとう。僕の気持ちを受け止めてくれて」


見つめあい、二人はキスをした。

と、直ぐに、目覚ましのアラームが鳴った。








「さ、手塚んちよらなきゃいけないし、急がなきゃ」


「あぁ・・不二・・・」


「ん?」



「好きだ」


「僕もだよ」





すばやく朝食を済ませて、用意をして、由美子の車に乗り込む。


手塚の家へよって、手塚が用意をしているあいだ、少し手塚のお母さんと話をした。



「昨日は本当にありがとうございました」



「いえいえ、こっちが無理言って引き止めちゃったから。すみませんでした」



「今度は不二くんが家へいらしてね」



「ありがとうございます」



手塚が階段を駆け下りてきた



「待たせてすまない」


「行ってきます」







校門の前に、由美子の赤いスポーツタイプの高級外車を横付けされて、降ろされる。


ただでさえ目立つ車に、登校中の生徒達の視線が集中する。


出てきたのが手塚と分かると、校門付近で女子生徒たちが立ち止まり声が上がった。



「わぁ〜手塚さん」とか「ちょっと手塚君よ!!」



注がれる好奇心の目を背中に受けつつ、手塚は車の中を覗き込むようにして由美子に礼をのべ、不二を待つ。


「ありがとう、ねぇさん。気をつけてね」


由美子に声をかけて、不二が車を降りた。走っていく車に向かって手を振る。







手塚に続いて不二が降りてきたのを見た女子生徒たちからは、もう歓声に近い声が上がり、

校門前は渋滞のようになっていた。





「ちょっとーー手塚さんと不二さんよ」

「仲いいものね。」

「ラッキーだわ。朝から美形のツーショット見られるなんて」

「絵になるわね」



など・・・すごいのなんの・・・







こういう類のことが嫌いな手塚の眉間には、皺が徐々に増えていく。。。


「ごめん、なんか朝から騒がしくなちゃったね」



「いや、お前のせいじゃない」



「そっか」



「どうもあの手の雰囲気は好きになれないだけだ」


昨夜からの甘々な雰囲気の余韻に浸りながらも、騒がしい外野に渋々の複雑そうな手塚の表情を見て、

不二の笑顔が増す。











「お〜っはよ〜〜〜ん!」どすっ!


菊丸が走り寄って、不二に後ろから抱き付いてきたせいで、不意打ちをくらった状態になった不二が、

倒れそうになるのを、手塚がとっさに菊丸ごと抱えて支えた。



「お・・・おはよう。エージ」



「き・・・菊丸。おまえは・・・」



「ん?いや〜〜ごめん。ごめん。ちょっと勢いつけすぎた?」


頭をかきながら、くったくなく謝る菊丸に



「挨拶もスキンシップもかまわんが、不二が怪我でもしたらどうする?少しは加減というものをしてくれ」



珍しく、手塚がおだやかに言い「大丈夫か?」そう言って不二を気遣う。


「うん、僕は大丈夫だよ。ありがとう。手塚が支えてくれてなかったら転んでいた」



「朝から校門前に渋滞起こして、二人して同じ匂いさせてやってくれるね、お二人さん」



英二が笑って二人に言った。





「でもよかった、仲直りできたんだね!」



「渋滞・・匂い・・・って菊丸・・」



「え?だってそのまんま〜〜なんかちょっと朝から甘過ぎ」


手塚の皺が増えたのを見て不二がすかさず



「心配かけちゃってたんだ。。。ごめん。もう大丈夫だ。ありがとう」



「ふじ〜〜〜。手塚の眼がこわい〜〜〜」



「・・・・」



「さ、行こう。エージ。今日、僕日直なんだ。ほら、手塚も急いで」



そう言って、菊丸の手を引いて不二が教室へと駆け出した。

ちらっと手塚に振り向いて、声を出さずに口だけで

 ス・キ・ダ・ヨ と言う。

そんな不二に手塚はふっと頬を緩ませると、前を行く二人の後を

急ぎ足で追うのだった。









また・・・にぎやかな一日が始まる。







過去も今も含めて、自分と不二が生きている空間、

それをとりまく空間も、自分が大切に思う人と一緒なら、全てが素敵な時間と変わっていく、

小さな深呼吸をして、手塚は空を見上げたのだった。


















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