葛藤@



















手塚は、心休まる時がない。











大切な不二と、折角、同じクラスになったのに、

不二の傍には、同じく、クラスメートの座を獲得した菊丸が、

いつも引っ付き虫のように張り付いていた。

毎朝、下駄箱や机の中には、男女問わずからのラブレター攻撃、

部活中は、フェンス越しに送られる熱い視線の数々。

部内でも、何かと相談(というのは口実で)をもちかけられ、

順番待ちがでそうなくらい、お呼びがかかる。

部活が終われば終わったで、校門の前には、思い出したかのように

千石や佐伯が迎えにきて、有無を言わさず連れ去っていく。

たまのオフに、約束をしても、待ち合わせ場所や、ちょっと目を離した隙にナンパの嵐。

降りかかってくる火の粉を払うのに、どっと疲れてしまうのだ。









今日も今日で・・・

授業が終わって、部室へむかう途中、見覚えのある制服が、不二と話しているのに出くわした。

しかし、顔は見覚えのある、あの俺様的幼馴染ではなかった。









「はじめまして。不二やんな?」


「え?そうだけど。。。何?」


「へぇ〜、やっぱ、別嬪さんやな。すぐ分かったわ。

さすがあの跡部が、べた惚れするだけのことあるわ」


「君だれ?跡部の知り合い?っていうかその服氷帝だよね?」


「そうやで、俺は忍足侑士や。こないだ転校してきてん。もちろんテニス部や。よろしゅーな」


「よろしくって。。。ここ青学だよ」


「わかってるわ。あの跡部がぞっこんな子が青学におるて聞いたから、見にきてん。

ほんま、無駄足やなかったわ。あいつも、なかなか見る目あるってことやな」


「なんの話?」


「まぁまぁ、ええわ。俺にもチャンスはあるはずやしな。

せやな・・・また近いうちにデートしよーや。いきなりデートもなんやから、

はじめは、単なる練習相手としてでもええし。」


「え?ひとつ聞くけど・・・君って強い?」


「あぁ。強いで、編入してきて早々にレギュラーやからな」


「へぇ。そっか・・・ならいいよ、今度また」


「おぅ。ほんなら商談成立ってことで、俺は今から帰って跡部に宣戦布告や。」









「不二!」


「わっ。なに?」振り返ると、いつからいたのか、手塚が般若のような顔で立っていた。


「げ、なんかやばげ・・・今日はこれくらいで退散しとくわなー」そそくさと撤収していく忍足。



その背中に向かって手塚が一喝する。

「もう来なくていい!!」

得体の知れない手塚の怒オーラに、ふれないように肩をすぼめて、不二が手塚を見上げた。 





無言のまま、いきなり手を掴まれ、ぐいぐいと部室へ連行される不二。



「痛いっ!放せっ!」





物凄い形相の手塚と、物凄い剣幕の不二の登場で、部室中が凍りついた。

一年生達は、もうグランドに出ている。

とっとと、自分達も行っておけばよかったと思いながらも、凍てつく空気に動けないでいる2年生部員達。

ただ一人、乾だけは、めがねを輝かせて、ノートとシャーペンを手にしていた。



「痛いって言ってるだろ、僕が一体何をした?」


「他校の生徒と、むやみに話などしているからだ」


「今日に限った事じゃないだろ」


「いつもいつも、だからだ」


「別に、校外秘なことなんて言ってないし、むこうも挨拶だけじゃないか」


「煩い。いつでもどこでも・・・どうしてお前はそうなんだ。自覚が足らんからだ」







あぁ。言っちゃったよ。手塚。

知らないよ〜。

凍りつきながら、心の中で呟く部員達は、各々不二のほうに目をやった。



で・でた・・・見せ掛けばかりの満面の笑み。

全然目が笑ってない。

ってことは・・・

怒り度数は、限りなくマックス。

そして再び、ギャラリー達は凍りついた。






「え?そうかな?僕はきちんと、嫌な事は拒否ってる。

第一、他校と接触したりは、手塚の方が多いだろ。大体、自分のことを

100階のたなにあげておいて、僕にお小言言うのはどうかと思うけどな」

さらっと・・・しかも含みのある睨みつきで、不二は手塚に言った。







あぁ。この辺で、ため息のひとつでもついて

「もぅいい、行くぞ」とか・・・手塚が言ってくれないかな・・・

凍りついたままの部員達の願いも虚しく、いつもなら、このあたりでで引き下がってしまう手塚が、

今日は虫の居所が悪いようだった。








「では、千石達とはどういうわけだ?」


「千石は、小学校の頃からの付き合いだし、佐伯も跡部も幼馴染だ。

っていうかさ、何が駄目なわけ?」


「駄目云々より、限度があるといっているんだ」


「・・・・ふーん。限度ね。そっか・・・僕のせいなんだ・・・わかった。もぅいい」









あぁ〜〜神様!!どうか僕たちをお救いください

祈るような思いで、様子を伺う菊丸の目に写ったのは、いたって普通に戻った不二の顔だった。

もう何人たりとも、不二の深層心理のほんの端っこでも、知ることはできなかった。




不二は黙って、携帯をカバンから取り出すと、なにやらメールを送っているみたいだった。

一連の操作を終え、フリッパーを閉じると、仲間に満面の笑みを浮かべ、



「さぁ、遅れちゃう。行こうか」と菊丸の腕をとり、コートへ出て行った。






やっばーーーー俺たちも早く行かなきゃ!

この分ぢゃグランド20周は軽くいっちゃうよ。

一目散に皆、コートへ飛んで行った。






大きなため息を吐き、平常心を取り戻しながら、手塚も部室をあとにした。

しかし、部員に降りかかった災難は、これだけではなかった。

ラリーの相手をさせられた菊丸をはじめとする数人は、執拗に前後左右に振り回され、

いつもの倍以上の体力を消耗させられた。







「まるで猫が、獲物を弄んでいるようだな。たちが悪い」乾が手塚の背後から声をかけた。

「ああなった不二は怖いからな。」



「何が言いたい?」眉間の皺を増やしながら手塚が答えた



「別に、俺がなにも言わなくても、当人が一番分かってるだろうからね」

ノートにペンを走らせながら、乾はその場を離れた。






そして、残酷物語のような部活終了後、

「不二・・・酷いにゃ。俺・・・へとへとだにゃ・・・」


「だらいないな、英二」


「俺だじゃないじゃん・・・不二の相手した、ほかの連中もほら・・・」


「皆、修行やり直しだな」


「もぉーっ、こうなったら、帰りにエネルギー補給だかんねー、不二〜責任とってよね」


「悪いけど、今日はだめ。」


「え〜〜どうしてさ〜〜」菊丸が駄々をこねていると、不二の携帯が鳴った。



上着のボタンを留めながら、小首を傾げて携帯を肩にはさみながら、不二が話す。




「あぁ・・・そうさ。けどさ、バイオリンはそっちにしかないだろ?

え?もう着てる?わかった、直ぐ行く」








「ん?誰?誰?誰がお迎えにくるにゃ?」


「演奏会でもするんっすか?」楽器なんて、およそ無縁そうな桃城が、不思議そうな顔をして聞いた


「いや、別に・・・こんな日は、楽器でも弾いて、いろいろ考えたいのさ。じゃ、みんなお先。」


「相手は・・・跡部の確立100%」


「さすが、乾」

それだけ言うと、あっけにとられる皆を残して、手をひらひらさせながら、不二は帰って行った。






「どーして分かるんだよ?」


「跡部も不二も、良家の子息としてのたしなみだよ。二人とも、かなりのレベルなものらしい」


「お前がどうして、そこまで知ってるんだ?」


「英二、それこそが、データ収集の基本だよ、基本」


乾の眼光に一同固まった。






「逆効果だったな。手塚」



「何のことだ」


「だってさ・・・」何か言おうとする菊丸を引っ張り、大石がそれを制した。


「英二、もうよせ、帰るぞ」



「はぁ・・」ため息をついた手塚が



「をい、さっさと着替えて。早くみんな出ろ。鍵は俺が預かるから、大石も帰っていいぞ」




蜘蛛の子を散らすように、皆が下校していったのはいうまでもない。













不二が走って校門まで行くと、黒塗りの外車が止まっていた。

後部席のドアが開いて、中から声がする。



「おっせーぞ。不二。オレを待たせるな」


「はいはい」


「ったく。早く乗れ」









跡部の家へ向かう途中の車の中で。



「何があった?」


「なんでもないよ」


「うそつけ」


「あ、そういえば今日、うちの学校に忍足って子が僕に会いに来たよ」



「あー、そうらしいな。部活サボりやがってあのバカヤロー。そのうち殺す。」



「宣戦布告って言ってたけど仲悪いの?」



「けっ、あんなヤローまともに相手にするかよ」



「今度デートしようって」



「ったく・・・見境なしかよ。で、お前はなんて言ったんだよ。」



「ん?練習相手ならいいよって。『俺は強いでって』言うからさ」



「はぁ。おまえのその好奇心だけはどうしよーもないな」



「なんでさ」



「あいつの下心見え見えなんだよ。わからねーか?」



「分からないね」



「ま、つまみ食いしてもほどほどにしとけよ」



「何言ってんだか・・・食われそうになるのは、何時も僕」



「な・・・バカヤロー。自分で言うな!」



「別に。僕だって男なんだから、食われるよりは、食うほうがいい」



「いい加減にしとけ、バカ」



「よくそれだけ、人のことをバカバカって言えるね」



「ったく。。千石にしたって佐伯にしたって油断ならねぇ〜ってのに、

今度は、あの食わせモンの忍足まで首つっこんできやがって。。。。」



「クスクス・・・」



「なんだよ」



「今の跡部ってさ・・手塚みたい」




「あー?なんで俺があんなヤローと・・・冗談にもほどがあるぜ」



「だってさ、今日、忍足と話してたらさ、手塚がまた、般若みたいな顔して怒ってさ、

ちょっと言い合いになった挙句の果てに、千石や佐伯とのこともいい加減にしろとかって逆ギレ」


「はぁ〜〜ん。なるほどな」

跡部が隣に座る不二を見て腑に落ちたように笑う

「で?それで腹立てて、オレんとこに連絡してきたのかよ?」



「ん、それもある。けど、久しぶりに跡部と弾きたかったからだ」



「ったく・・・お前は一体なんなんだよ」



「え?僕は不二周助。いまさら何言ってるの」



「んなんぢゃねーよ。」



「天上天下唯我独尊。二つと不らずだよ」



「へらず口だな・・・ま、ちげーねーけどな。で?いいのかよ。あいつほったらかしにして」



「え?いいよ。・・・っていうか、なんで跡部がそんなこと言うわけ?」



「ったく。あれほど俺が忠告してやったのに、手塚も学習能力なさすぎだな・・・」











そんな会話をしてるうちに、跡部邸へ到着した。

不二・跡部の自宅周辺は閑静な高級住宅街で、豪邸が立ち並んでいる。

跡部の屋敷はそんな中でもひときわ目立つ。







「帰ったぜ」



「おじゃまします」



「お帰り。あら、周助くんも一緒?もぉ。景吾!だったらどうして連絡してこなかったの?」


玄関を入ってすぐ、今にも出かけようとしてる母親と鉢合わせになった。



「しょーがねーだろ!こいつがいきなり・・・」


跡部の腕を引っ張りながら


「あ、僕がわがまま言って押しかけちゃったんで、跡部は悪くないから」

不二が跡部の母親にペコリと頭を下げた。



「あら、ちょっと周助くん、誤解しないでね、周助くんとお話しするのおばさんの楽しみなのよ、

でも今日はこれから主人とおよばれに行かなきゃ行けなくって、もう、本当残念だわ。

景吾はいつも面倒くさそうにえらそうにして、会話を楽しみながら食事なんてできやしないからね」



「ガキぢゃねーんだ」ちょっとふてくされたように言う跡部を見て、思わず不二がぷっと笑う。



「んだよ、お前まで」


不二は跡部に頭をこつかれた。



「こら、景吾、あなたももう少しどうにかしないと、周助くんに愛想つかされちゃうわよ。

あら、もう行かなきゃ、ぢゃあね、また今度ゆっくり来て頂戴。ちゃんと連絡してね。

何もおかまいできないけど、ゆっくりしていって」


「あ、どうも」




バタバタと忙しそうに出かけていく母を見ながら跡部が

「なんだよあれ」と呟いた。



「クスクス・・相変わらずだね、おばさま。本当楽しい人」



「どこが楽しいんだよ、ったく・・・」



「とか言って、結構、かまってもらうの好きなくせに」



「ガキぢゃねー」





話をしながら、二階の跡部の部屋の隣部屋へ向かう。

扉を開けると、そこにはグランドピアノが置いてあり、他にもいろいろな楽器が置いてあった。

カバンや、ラケットケースを部屋の隅に置いて、上着を脱ぎ、不二は、椅子の高さを調節しながら

ピアノに向かう。

跡部は、黒いケースの中からバイオリンを取り出して、少し調音しながら不二の傍へ寄る。




「早速だけどいい?」


「あぁ」



「いつもの」


目で合図して、どちらともなく演奏を始める。。。カノン。


幼い頃は、楽器は違うが、お互いが励ましあって、よくこうして二人で練習をした。


お互いコンクールで、賞をとったりしては競いあっていたが、


テニスが忙しくなるにつれてそんな時間もなくなり、


たまに思い出したかのように、こうして二人で演奏をして楽しむくらいとなってしまった。

















『まったく・・・いつもいつもいつも・・・』

一人、部室に残り、日誌をつけながら、手塚は今日のことを考える。

『俺の独占欲も・・・』と、また深いため息をついた。



ノートを閉じ、いつもなら、自分の横で微笑んでいるはずの不二の面影を思い出し、

鍵をかけて、校門の方へと向かった。


『しかしよりによって、何故、跡部なんだ・・』


これは、自分に対するあてつけとしか思えない。そう考えると、少し腹が立ってきた。


校門のところまで来ると、何かの気配にまた大きなため息をつき。。。



「今日は、不二はいないぞ」と、門のところの人影に向かって、無愛想に言った。


「あれ?ちょっと遅かったか・・・」脳天気そうに答えたのは千石だった。


「跡部と帰った」


「え〜〜。残念。ずるいな跡部。ぬけがけだ。」といいながら手塚に

「しかし、よく許したな〜手塚。・・・めずらしいね」


「許すもなにも勝手に帰った」



「あれ?もしかして喧嘩でもした??」



「そんな覚えはないが・・・勝手に帰ったんだ」



「覚えはないのか。。ふぅ〜〜ん。自覚ないまま怒らせたんだ。怒ると怖いよ、不二子ちゃん」



「怒りたいのはこっちのほうだ。お前といい・・・まったくいつもいつも・・」


ぶつぶつと眉間の皺を増やしながら憮然と言う手塚に、千石がなるほど〜と笑いながら



「もしかして、焼きもちでも焼いて、不二子ちゃん責めたとか?」


ピンポイントで急所を突かれた気がして、手塚は返事ができなかった。



「・・・」



「やっぱり・・・なんか、こういうことに関しては、手塚はまだまだおこちゃまだね」



「なに?!」



「ほらほら、すぐムキになる。」千石がちょっとだけ真顔になって続ける。

「手塚しか知らない不二子ちゃんがいるのと同じで、手塚の知らない不二子ちゃんもいるんだよ。

手塚だけの不二子ちゃんと、全部ひっくるめての不二子ちゃん。どっちも不二子ちゃんなんだよ。

それが理解できないなら、不二子ちゃんとは付き合えないよ」


「・・・・・」



「俺は、手塚が不二子ちゃんと出会う前から知ってるじゃん。ま、跡部は特別だけどね。

不二子ちゃんは、そのへんのアイドルなんかより、ずっと俺にとっては癒し系的存在。

それは、他の奴にとっても同じ。もっとも、ファンはどんどん増えてるけどね」



(確かに・・)



「テニスだけじゃなくて、そういう意味でもある種の天才。性格もいいし、綺麗だし、

可愛いし、なんでもできる。人当たりいいし、絶対人を縛らない。

その人の人間性を大切に見てくれるから、俺も男なんだけど、そんなの度外視で、

不二子ちゃんが好きなんだよ。あんなに広くて大きい不二子ちゃんの心を包もうとおもったら、

もっと自分が大きく強くならないとなぁーって思うわけ、

それに不二子ちゃん、強い奴が好きだからね。だから頑張ってるんだよ。

そんな不二子ちゃんだから、皆惹かれて集まってくるんぢゃない?手塚だってそうだろ?」



あの千石に、諭すように話されて、一言一言が今の手塚には、ジャブを食らったように徐々に効いてきた・・・


「佐伯にしたって皆思ってる、独占したい。。って。かごに入れちゃって囲っておきたいって。

けど、それをすると、不二子ちゃんじゃなくなるのが分かるからしない。

全部ひっくるめての不二子ちゃんが、本当の不二子ちゃんで、

自分が好きなのは本当のほうだから。絶対縛らない。

小学校の時もさ、何人か女子と付き合ってたみたいだけど、

相手の一方的な過度の嫉妬に疲れてるみたいだったな。

ま、相手の気持ちも分からないでもないけど。・・ってちゃんと聞いてるのか?」



「あぁ」



「不二子ちゃんには幸せでいて欲しいから、不二子ちゃんが好きな人ができても邪魔するつもりはない。

おこぼれはたまにこうしてもらいにくるけどね。けど、相手が不二子ちゃんをがんじがらめにして、

全部ひっくるめての不二子ちゃんを理解できないようなバカヤローとわかったら、容赦はしないつもり。

とっととかっさらうまで。ほんと、不二子ちゃんに認めてもらえるなんて、男冥利に尽きるてもんだぜバカ手塚」



「たしかにな。バカかも知れん」



「へ?やけに素直じゃないか」



「俺の知らない不二か・・・」



「そう、そのかわり、俺たちの知らない不二子ちゃんを知ってるだろ?

過去も今も未来も含めて不二子ちゃんは不二子ちゃん。

ちゃんと認めないと・・・不二子ちゃんの知らない手塚もあるだろ?」



その一言を聞いたとき、手塚はちょっとどきっとした。

確かにそんなことに関して、決して不二は踏み込んで聞いてきたりはしない。

ただ、何かの折に触れて新しく発見するたびに『そうだったんだ・・』と微笑むだけだった。



「テニスは俺より強いかも知れないけど、恋はまだまだな。

・・・ちょっとしゃべりすぎたか・・また来るわ!」


そう言って、千石は帰って行った。


手塚はそのまま不二の家へ向かって走りだした。















ひとしきり演奏して、ふっと一息つく。


「気が済んだか?」



「うん。久しぶりに楽しかった」



「ま、こんなこともないと、俺もなかなか弾くことないからな」



「無理言って、つき合わせちゃったね。デートの約束とかあったんじゃない?」



「今更・・バーカ。ま、あんなシチ面倒くさい女はうんざりだからいい。気にすんな」



「飽きっぽいね」



「お前に言われたくない」



「跡部・・・ありがとう」



「なぁ、不二・・・お前は・・・」



「ん?・・・」



振り返って見つめていた跡部の唇が、そっと不二に被さっていく。



「ん・・・」

跡部の手が、薄茶色の不二の髪を優しくつつみ込む。




と、その時、不二の携帯が音を立てる。



「ちっ」跡部が小さく舌打つ。相手は分かってる。



はっとして、不二は慌てて上着を取り、ポケットから携帯を取り出すと、

青く光るディスプレイには「K.TEZUKA」の文字。




「はい」


『あ、俺だ』


「何?」


『邪魔してすまない』


「いいよ、別に」


『逢えないか?今から』


「え?・・・」


『今、お前の家の前にいる』


「え?ちょっちょっちょっと待ってて」





急いで電話を切って振り返ると、



「ほらよ、早く行け」跡部が荷物を持って立っていた。



「ごめん、跡部」



「ったく・・・いつまでたっても世話がやけるな」



「ほんと、ごめん」



「いいから行け。なんかあったらまた電話してこい」



「うん」







走って出て行く不二の背中を見ながら



「ちっ。俺もどうかしてる・・・らしくねーな」




跡部は自嘲的な笑みを浮かべて、一人、バイオリンを手にしたのだった。






















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