上昇気流






















君を見ると

君といると

君に触れると




僕の体の中は

まるで上昇気流が起こったように

体中の血が騒ぎ

そして、一気に駆け上がっていく




のぼせそうなほどに染まる頬とは逆に

氷のように冷たくなる指先






「不二・・・」

昼休み、教室のドアの向こうから、よく響く落ちついたテナーとともに現れた姿に

男子も女子も、クラス中の生徒が色めき立つ。

さっと、注がれる視線・・・




「何?手塚」

と、今度は、その声の方に向かって一斉に皆が振り向き

窓際で、陽の光を浴びながら、例えようのないほどの綺麗な笑みを浮かべて立つその姿に

教室中の時間が、止まったようになるのだった。




「いいか?」


「うん」





空間を挟んで、短く交わされた言葉の後、

不二は、隣の席の乾に何かを告げて

廊下からも、教室と同じほどの視線を背に受けているであろう手塚の元へ

ゆっくりと歩いていった。




教室の床であろうと、アスファルトの道の上であろうと、

何故か不二が歩いた跡には、

花でも咲いていくような気がしてならないほどの雰囲気が、漂うのだった。

通り過ぎ際に注がれる生徒たちの視線に、少し不機嫌な顔をする手塚を見て、

乾は『毎日毎日よくまぁ・・・』と、心の中で呆れたように苦笑いしながら

手元のノートに、何やら書き込んでいた。





「何かな?」手塚の前に立ち、小首を傾げて尋ねる不二に


「ちょっと、付き合ってくれ」と手塚は言った。





「いいよ」クスっと微笑む不二。

手塚のみならず、周囲の生徒たちまでもが、その笑顔に釘付けになり

はっと息を呑んだ。





2年生ながら、生徒会長を勤めるテニス部部長、青学高等部カリスマ手塚国光と同じく

2年生で、男女問わず学内人気ナンバーワンの、生徒会書記を務める

テニス部ナンバー2の、青学高等部アイドル、不二周助の2ショットは、

目にする者の時間と空間を、止めてしまうほどの雰囲気を醸し出す。



だれもが手を止め、息を潜め、目で・・・耳で・・・

二人の姿を、追ってしまうほど理想の絵なのだ。



成績も常に学年トップクラス、テニスの腕前も、手塚はキャプテンとして

インターハイでチームを団体優勝へ導き、不二は、個人の部で全国優勝を果たしていた。

上級生から絶大な人気を誇る不二と、下級生から絶対的な支持を受けている手塚。

この二人が、中学時代から恋人同士だと言うことを知っているのは、ごく一部の

テニス部のレギュラーだけだった。



生徒室へ向かう間、静かで穏やかに会話をしながら歩く二人を、皆が羨望の眼差しで

遠巻きに見つめていた。



生徒会室の前で、鍵を開けようとしている手塚の後ろで

「クスッ・・・」不二が不意に笑った。



「どうした?」静かに手塚が尋ねた。



「手塚ってば、さっきから凄い顔・・・もっと愛想良くしなくちゃ・・・

折角君を見ることが出来たって、心トキメかせてる女の子達が、がっかりだよ」

と不二は、なおも可笑しそうに笑った。



「ふん・・・」手塚は、不機嫌そうに一つ息をつくと

「お前は、無駄な愛想を振りまき過ぎだ」と、不二に言いながら、

開いたドアの向こうへと、不二の腰にそっと添えた手で、先に中に入るようにと促した。



「無駄にって・・・・」困ったような顔をする不二を見ながら、

手塚は、毎日毎日、どれだけの人間が、自分の最愛の恋人である不二を見て、溜息をつき

憧れや恋心を抱いているのかということを思うと、

それをちっとも分かっていないその人に対する心配や焦りが、溢れそうになるのだった。

中学時代からずっと・・・・いい加減に、気付いて欲しいものだ・・・と

手塚は、いつもそう思うのだが、その度にそれをいざ口にすると、

ただの説教親父になってしまうだろうことを予測して、

複雑な思いを呑み込んでいたのだった。



「で?今日は何をしたらいい?」

生徒会室の、自分が整頓している書類をしまってあるキャビネットの前に立ち、

不二は、生徒会長席の机の前にいる手塚に、尋ねた。



「明後日の会議の資料なんだが・・・」

そう言って手塚は、机からファイルを取り出しながら、不二に向かって手招きをした。



「あ・・・それ?なにか不備でもあった?」

既に用意ができてあった資料だったため、不二は少し心配したような顔をしながら

手塚の傍に行った。



「いや・・・追加事項があって・・・」

資料を見せようとした手塚の手と、それを受け取ろうとした不二の指が触れる



「「あっ・・・」」



さわっと

音がして、指先から神経が過剰に覚醒していくような感覚が、二人を襲う。

ゾクリと、背筋を微弱な電流が下から上に向かって駆け上がり、

二人の間の僅かな空間を、風が舞い上がるような気がした。





指先が・・・触れただけなのに

抑えきれないような衝動が




不二を

手塚を

震えさせた





バサッと、ファイルを机の上に放り投げると、手塚は、不二をさっと抱き寄せて口付けた。



「んっ・・・」



不二は、体中の血が、かぁっと頭に上がってきて、のぼせるような感覚を覚えた。

何時も

何時でも

手塚のキスは、瞬く間に不二を痺れさせて酔わす



自分の中に起こった上昇気流に、意識の全てを奪われて、不二の体からストンと力が抜けた。



不二の口内を貪りながら、記憶の中で、部屋の鍵をかけたことを確認した手塚は、

ゆっくりと、腕の中の華奢な体を、ソファに押し倒していった。



「あぁっ・・・て・・づかっ」手塚の指先に翻弄されながら、

不二が身悶え、上ずった顔で声を上げた。



手塚は、黙ってろと言わんばかりに、自分の唇で不二のそれを塞いで、

手早く器用に、不二のシャツを、肌蹴させていった。



「ふんっ・・・夏服はいいな・・・」呟く手塚に



「もぉっ・・・」と、不二が喘ぎながら、抗議の声を上げた。



「こんな時に、拗ねた顔をしても、煽るだけだぞ」と

手塚は、ふっと笑いながら、不二の胸元の小さな飾りを口に含んだ。



「あっ・・・」不二が、体をピクリと弾ませる。



いつもながらの、非常に敏感で妖艶な反応をする不二に、手塚は至福を感じた。

自分の施す愛撫に、どんなに喘いで乱れても、不二はこの世のものとは思えないほど

綺麗だった。



不二の体を愛撫していた手を、すぅっと下の方へ動かし、ベルトをはずして

ズボンのジッパーに手塚が手を伸ばすと、主張して熱を込め始めた不二のそこに触れた。

羽のようなタッチで、ゆるりとそこを布越しに撫で上げると、不二が切なそうな声を上げた。

そして、不二の甘い喘ぎは、手塚の脳を溶かすように、染みこんで鉄の理性を麻痺させていく。

潤んだ瞳と、上気した頬は、手塚の支配欲を、妖艶な肢体は征服欲を煽り続ける。

そして、ぎゅっと手塚にしがみつくその手は、底なしの庇護欲を駆り立てる



「てづかっ・・・んっ・・・」

手塚の口に自身を含まれ、節立った指で後ろを解され、不二は一際細く高い声を上げた。

「やっ・・・ねっ・・・・」



手塚が欲しいと

一つに繋がりたいと

不二のその声に、手塚は熱いそれを、不二の中へゆっくりと押し込めていった。



「ん・・・くっ・・・・」

瞳を閉じた不二が、眉間に皺をよせながら、手塚の侵入に苦しそうにする顔が

たまらなく煽情的で、手塚は最奥へ向かってぐっと腰を進めた。

進入してきた手塚に、絡みつくように熱く蠢く不二の中に、

手塚は、そのまま意識までも持って行かれそうになる。




「あっ・・・」

仰け反る不二の首元に噛み付きながら、動かす腰の動きを制御できずにいる自分を苦笑い

繋がった部分だけでなく、全てで溺れるように、手塚は突き上げを繰り返した。

自分の中で湧き上がった上昇気流に、抗えないのは手塚も同じだった。




「愛してる・・不二っ」

余裕なく夢中で腰を打ちつけながら、それでも、言わずにはいられない言葉・・・・




「手塚・・・手塚・・・・」漂うように伸ばされる不二の手




手塚は、その細いしなやかな指に、自分の指を絡めてソファに縫いとめると、動きを早めた。

奥のいいところに、直球の連続攻撃を受け、昇りつめていく不二の声は、甲高くなっていった。



「あっ・・・イ・・・・くっ・・・・」

真っ白な世界へ飛び込む不二を追うように、手塚は、最後の突き上げをした。

「くっ・・・」

小さな呻きとともに、手塚は不二の中へ、不二は手塚の胸元に、それぞれの熱を吐き出した。



「で?・・・聞かせて欲しいな・・・さっきの急なサカリの訳?」

後始末を終えて、衣服を整えてソファに身を沈めながら、恨み言を言う不二に



「気流が悪いんだ」と静かに手塚は言った。



「え?」



「お前を見たり、お前に触れたりすると起こる、俺の中の得体の知れない気流みたいなものが

時々悪さをしてな・・・予想外に強いと抑えがきかなくなるんだ」

少しバツ悪そうに、手塚が説明をした。



「うそ・・・・」呟く不二を見て、手塚のほうが「え?」という顔をした。



「どうした?」そんなおかしなことを言ったか?と言う手塚に



「ちがう・・・」と小さく呟いてから、不二は「僕も・・・」そんなときがあると答えた。



「そうか・・・」と、嬉しそうに呟く手塚に



「手塚のパワーとエネルギーには、全然敵わないけどね」と不二がクスっと笑った。



「別に、勝負するようなものではないだろう」と言う手塚に



「それもそうだね」と不二が、嬉しそうに言った。



きっと、これからもずっと、そうなんだろう・・・・

だとしたら

その風に乗って、二人でどこまでも、高く高く舞い上がればいい



昼休みの終わりに、不二を教室まで送ってきた手塚の顔を見て、

その僅かな変化を読み取ることができる、数少ない人間の一人である乾は

『まったく・・・・』と、溜息混じりに呆れたように、心の中で呟いたのだった。




































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