昼休み
3時間目の休み時間に、大石が菊丸達のクラスへ顔を出した。
「んぁ〜〜おおいしぃ〜〜〜どーしたんだにゃ?」
と、隣の席の不二と仲良く話をしていた菊丸が、目ざとくそれを見つけて声をかけた。
「やぁ・・英二、不二」爽やかに微笑んで、大石が教室に入り、二人の元へやってくる。
そんな様子をいつものこと・・・と、クラスの中では、さして気にする者も居なかった。
「今日さ、試したいことがあるから、少し早めに放課後、部室に来てくれないか?」
「何?何?」と目を開いて、楽しみだと覗き込むように言う菊丸に
「詳しくは、来てのお楽しみだよ」と大石が微笑んで言った。
「わかった!ぜ〜〜ったい早く行く!!」そう言って、菊丸は元気に微笑んだ。
「悪いね、英二・・・」そう言ってくるりと踝を返した大石が。
「あっ」と言って再び180度方向転換して、今度は不二の前にやってきた。
「ん?」と言った顔の不二に「これ・・・」と言いながら苦笑いし、
「忘れるところだった・・・」
と言って制服のポケットから出した小さな紙切れを、不二に差し出したのだった。
「ありがとう」と綺麗に微笑んで、不二は折りたたまれた紙切れを開いて中を見ると、
すぐに顔を上げて、「これは誰から?」と尋ねた。
「え?」と、大石は心底驚いたような顔で声を上げる。暗黙の了解で、そんなことは
分かっていると思っていたからだ。
菊丸は、不二の性格を大石よりも分かっているため、そんなやり取りを苦笑いしながら
見守っていた。
「差出人がないんだよね。しかもノートの切れ端だし」不二は更に大石の不安を煽るような事を
冗談とも本当ともとれない様子で続けた。
「手塚だけど・・・」まるで不手際をしたのが自分で、その責を叱られているかのように、
錯覚を覚えながら大石は、しどろもどろに答える。
そんな大石に、菊丸は今度は哀れな者を見るような目を向けるのだった。
「へぇ、そうなんだ・・・。悪いけどさ、僕からもお願いしていいかな?」
尋ねる不二に
「構わないよ」大石は嫌な汗をぬぐいながら答えるのだった。
ごめんね、ちょっと待って・・・と言うと、不二はレポート用紙を取り出して一枚はがし、
ボールペンを持って、綺麗な字で、菊丸と大石に見せるのかのように、少し大きめの文字で
返事を書き始めた。
『あれはノートの切れ端かな?
もう少しムードのあるお誘いはできないものかな?』
文字の表す内容を見て、大石を菊丸は顔を見合わせてから肩をすくめた・・・
二人の思うことは同じで、世界広しといえども、あの手塚にこんなことを言えるのは
不二しかいないだろうと・・・・
優しい微笑を湛えながら、不二は用紙を小さくたたんで、よろしく・・・と大石に預けた。
大石はやや引きつり気味の笑みを浮かべながら、わかった・・とだけ言うと、
教室で、返事を待っているであろうクラスメイトの、手塚の元へ向かった。
大石も菊丸も4時間目は、あの不二の手紙の文句を思い出して、
授業がほとんど手につかなかった。
授業中、菊丸は、隣の席で、コソコソと携帯をいじっている不二を見ながら、
返事を受け取ったであろう手塚の反応を、推し量っていた・・・
そして昼休み。
弁当箱を片手に、教室を後にした不二を見送った菊丸が
同じように手塚を見送った大石の教室へ、弁当を持ってやってきた。
「ひやひやさせるよにゃー」と言いながら、弁当の中をつつく菊丸に
「まったく」と大石は苦笑いしながら答えた。
「結局、俺たちは振り回される星回りなんだよにゃ」
「まぁ、いいじゃないか・・・」
大石は、自分も含めて菊丸に慰めるように言いながら、
駆けるように教室を出て行った手塚を思い出すのだった。
手塚に指定された場所へ不二が辿り着いた時、
既にそこには手塚がいて、不二の姿を見つけるや否や、
恭しく頭を下げながら、「お越しいただけて恐縮です・・・姫」と言ったのだった。
「こちらこそ、お招きいただいて光栄です」不二はそれに、綺麗に微笑んで答えた。
誰もいない屋上の一区画。
そこは、二人がご用達の指定席だった。
屋上の入り口に立っている不二に向かって、手塚は無言で掌を上にして、
左手を差し出し、クィクィっと手招きをして自分の隣を指差した。
クスッ・・と笑って、不二は手塚に誘われるままに、その隣に座った。
「珍しいね、君から僕を誘うなんて・・・」と弁当を腿の上に広げながら、不二が言った。
「いけなかったか?」と手塚も自分のものを同じようにながら尋ねる。
「ダメとか言ったつもりはないけど?」
「手紙では、怒っていなかったか?」と言う手塚に
「ちょっとね・・・ノートの切れ端に『昼休み屋上へ来い』だったからね。
せめてメールくらいできなかったのなかって思ったのさ。
恋人を呼ぶのに・・・フツーじゃあり得ない・・・だろ?」と不二が苦笑いしながら言った。
「メールをしようとしたら、大石がそっちへ行くといったからな・・・」
「ついでに・・ってやつだね」と不二が突っ込んだ。
「怒ってるのなら謝る・・・」とすまなさそうに言う手塚に
「だから、そうじゃないって・・・手塚らしくないようで、手塚らしいなぁって思っただけ。
素直にすごく嬉しかったよ」と不二は綺麗に微笑んだ。
「それに、後でちゃんとメールで嬉しいお誘いももらえたしね」
クスっと不二は楽しげに声を上げて、手塚を見た。
「お前に気に入ってもらえるなら、俺は何だってするさ」
「よく言う・・・」
とりとめのない話をしながら、弁当を食べ終えた二人は、並んだまま壁にもたれて、
しばらくぼぉっとしていた。
暫くして、手塚がそのまま体を横に倒すようにして、不二の足の上に頭を乗せて横になった。
「手塚?」不二がきょとんとして手塚に声をかけた。
「暫く、眠らせてもらえないか・・・・このまま」と手塚が答えた。
「ごゆっくり・・・」そう言って不二は、優しくそっと手塚の眼鏡を外して、
顔が影になるように少し体を傾けて言った。
優しく手塚の髪を梳きながら、不二は優しく微笑んで瞳を閉じている手塚を見ていた。
手塚は、不二の膝枕の心地よさと優しく触れられる指の感覚に、引きずられるように
急速な睡魔に全てを預けた。
「・・・づか・・・」
どこかから聞こえる優しいアルトに、意識が取り戻されていく感覚を覚えながら、
それでもまだ、手塚は夢と現のハザマにいた。
「しょうがないか・・・大変そうだったしな・・・生徒会長の引継ぎ・・・
部長と同時だから・・・いくら手塚でも参っちゃうよね・・・」
自分の膝の上に安心したように眠る手塚を見て、優しく頭を撫でながら不二がポツリと呟いた・・・
と、急に首の後ろから押さえ込まれるように、体が手塚に引き寄せられた。
「あっ・・・」と言った口は、手塚のそれで塞がれた。
「んっ・・」
口内を弄られて、思わず不二は甘い呻き声を上げた。
ぴちゃと小さな音の後、開放された唇から吐息を洩らす不二に
「生徒会で大変なのはお前もだろう・・・不二総務部長」と手塚が言った。
「3役じゃないからね、いくら執行部でも、僕は君とは違う」
「同じ3役で、副会長か書記になればいいと言ったのにな?」
「冗談じゃない。僕はそういうのは向いてないんだ。君に推薦されなきゃ
総務部長でもやらないよ」
「悪かったな・・・巻き込んで」少し拗ねたように言う手塚に、
「まぁ、君と少しでも一緒にいられるから・・・その点では感謝してる」
と不二は、宥めるように優しい笑みを向けた。
「少しはすっとした?」と聞く不二に
「すまなかった。辛くはなかったか?」と手塚は体を起こして、少し心配そうに不二に尋ねた。
「君の寝顔を見れたからね・・・凄く幸せだったよ」と微笑みながら不二が答えた。
「そうか・・・」という手塚に
「どういたしまして」と言いながら、不二は横に置いてあった眼鏡をそっと手塚にかけてやった。
「僕でよかったら、いつでもどうぞ」と言う不二に。
「お前でないとだめなんだ」と手塚が言った。
「全部自分で抱え込まずに、たまには息抜きしなよ」
「あぁ。お前がいるからな・・・そうしたい」
そう言って手塚は、また不二をくいっと抱き寄せてキスをした。
「そうして・・」と不二はポツリと言った。
「そろそろ、行かなきゃね」と不二が弁当箱を持って立ち上がる。
「あぁ。」そう言って手塚も立った。
「お声をおかけいただいて、ありがとうございました」と小首をかしてげて言う不二に
「こちらこそ、お越し頂けてたことは、身に余る光栄・・・」と手塚が返した。
クスッ・・・
見つめ合って、二人は予鈴の音に後ろを押されるように、屋上の階段を駆け下りて行った。
ブラウザの「戻る」でbackしてください