元帥の里帰り<前編>














「どーして、貴方って人は、いつもいつも・・・」

「まぁまぁ・・・落ち着けって・・・」

ここは、西方軍・・・捲簾大将の執務室の前。
自室に不在の元帥を探していた部下達が、ノックをしようとしたところで、
中から二人の大きな声が漏れ聞こえてきたのだった。







「おい・・・」

「お前行けよ」

「え?冗談・・・お前、行けよ」

三人が書類の束を押し付けあいながらすったもんだしてると・・・







「誰がそんなことお願いしました?冗談じゃありませんっ!」

「ちょっ・・・」

再び大きな声が響き、思わず体がビクリと跳ねた。

ドアの前で固まっていると、中から大きな足音が近づいてきた。






「やべっ・・・元帥・・・相当おかんむりだぜ・・・」

「マジ?」

「どーするよ・・・おい」


顔をつき合わせて、ひそひそやっていると








「待てったら!」

「待ちませんっ!」

「おいっ」

「とにかく!里へ帰らせてもらいますっ!」










ドン!
勢い良く開けられたドアに、三人は無残に吹き飛ばされ、その脇を
プンプンと怒りオーラを撒き散らせながら、天蓬が去って行ったのだった。


「あぁ・・・もぉ・・・」一人、部屋の前で、天蓬に振りほどかれた腕を
頭に回して掻きながら、困ったように捲簾はため息をついたのだった。






「ん?どうしたんだ?お前ら」
ふっと落とした目線の先に、廊下で蹲る三人を見つけて、捲簾は不思議そうな顔をした。




「何があったんですか?大将」

イテテ・・・
と、三人は口々に言いながら、体を起こして、散らばった書類を集め始めた。




「いや・・・」気まずそうに捲簾は明後日の方向を向いた。



その分だと、天蓬の怒りの原因は捲簾にあるようだった。


「どうでもいいですけど・・・追いかけなくていいんですか?」
部下の一言に、

「そうしたいのは山々だけどな・・・うるせぇんだよ・・・あいつの実家もどきがよ・・・」
捲簾は困ったように今度は苦笑いをした。






「あぁ・・・なるほどね・・・」
実家もどき・・・あぁ・・・あの人ですね・・・それぞれが察して、黙ってうなずいた。


「どーするよ・・・これ・・・」
集めた書類の束を手に、三人は途方に暮れていた。

「いいんじゃねぇの。持って行ってやれよ」

「え?元帥のご実家もどきにですか?」

「しょーがねぇじゃん」

「でも・・・」

「お前らまで取って食ったりはしねぇだろ」

「ですかね・・・」
「坊主憎けりゃ・・・とかなりませんかね?」

「ははっ・・・笑えねぇ・・・」捲簾はガックリと頭を垂れた。
「大丈夫だ。あいつがそうでも、あいつのご実家もどきはとりあえず常識は通じるだろう」

「分かりました。では」
「何かご伝言があれば・・・」
言いかけた部下に


「いいって、お前らに何か頼んだりしてみろ・・・『どうしてご自分でなさらないんですか?』
とか言われんのが目に見えらぁ・・・」大きなため息をつく捲簾に部下は、なるほど・・・
とうなづくと、頭を下げて天蓬の後を追ったのだった。








バンッ
重厚なドアを勢い良く開け、中に入ると、天蓬は奥へとツカツカと入っていった。

「なんだ・・・騒々しい・・・」

「お邪魔します」プンプンして言いながらソファに腰掛ける天蓬に、
書類を見ていた部屋の主は、目線は動かさずに苦笑いを浮かべて

「またか・・・」と呟いた。

「ほんと、あのおバカには、ほとほと呆れました」

「とか言いながら、そいつを選んだのはお前だろうが・・・」まったく・・・と
呟きながら、主は書類から目を離すことはなかった。

「ちょっと、何ですか。貴方まで」

「おいおい・・・」

「そんな紙きれと僕と、どっちが大事なんですか!」
手がつけられない・・・悟った主は書類を机の脇に寄せて、仕事の続行を諦めた。

「ったく・・・」ゆっくりと腰を上げると、怒り心頭の様子の天蓬の隣にやってきて
腰を下ろした。
『あのバカ・・・』心の中で捲簾のことを呟きながら腕組みをし、「で?」と天蓬に言った。

「で?ってなんですか?」

「お前はどうしたいのかと、聞いてる」

「とりあえず、ここに居させて下さい」

「それは構わんが、俺はお前の保護者ではない」

「分かっています」

「分かっとらんだろう?」

「え?」と見上げた天蓬の顎を掴んで、唇を塞ぐ・・・・

「んっ・・・」天蓬は身じろいだが、歯列を割られ、舌を絡められて、
背に回された腕で強く抱きしめられた。
的確に煽るポイントを慣れたように責められて、天蓬は徐々に崩れ落ちていった。

「あっ・・・やっ・・・」

「相変わらず感度はいいみたいだな・・・」

「もっ・・・敖潤っ!」

「何だ?」

「何だじゃありません・・・あっ・・・」

器用な指先で瞬く間に天蓬の前を肌蹴させると、するりと手を下着の中に突っ込んで、
中でたちあがりかけている天蓬の雄を掌中に収めた。

「あっ・・・んっ」

「だから、お前は、分かっとらんと言ったんだ」

「あっ・・・」

巧みに扱かれて、瞬く間に天蓬は昇りつめ、甘く艶を含んだ声を上げて、
敖潤の胸のあたりの服を縋りつくように握って、彼の手に白濁を吐き出したのだった。







「もぉ・・・」と、気だるそうに妖艶フェロモンを漂わせてソファに沈む天蓬を、
敖潤は手を拭きながら見下ろした。

「酷いです・・・」

「そんな目で言っても、迫力も何もないな」ふんっと不敵に笑われて天蓬は、泣きそうな顔で
敖潤をにらみつけた。

「俺は、お前の実家ではないと言っているだろう」

天蓬は黙ったまま敖潤を見つめていた。

「お前があいつを選んだから、俺たちの関係は終わったが。感情まで終わっているわけではないからな。
何かある度に、ここへ戻ってくるのもいいが、俺がいつでも黙って、何の手も出さずに
お前を庇護すると思うのは、お前らしからぬ判断じゃないのか?」

「でも・・・」

「それとも、こういう結果を望んで来ているのか?お前が渇くほど、あいつが枯れるとは
思えんしな・・・」

「そんなんじゃありません・・・」しょぼくれたようになった天蓬の頭に、敖潤は手を置くと、
「まったく、自分から飛び出しておいて、お前は・・・」と愛しそうに見つめて呟いた。

「すみません・・・」
甘えているのは分かっていた。そして手放しでいつも、それを受け入れてくれることに
些か慣れてしまっていたことを、痛感した。

「喧嘩するたび、里帰り先に、ここを選ぶのは、悪い気はせんが、
それだけで乗りこなせるほど、あいつも単純ではあるまい?」

俯く天蓬の顎に手をかけ、もう一度優しくキスをしてから、
「まぁいい」敖潤はそう言ってから、ドアの前に立つと、勢いよくそれを開けた。





「わわっ!!」
三人がなだれ込んできた。





「え?」身も露わな姿のまま、天蓬は唖然とした顔をした。

「まったく・・・貴様らは・・・」





「あっ・・・いえっ・・・」
「いやっ・・・・これは・・・」
「あのっ・・・そのっ・・・」

捲簾と天蓬のことも知っている
そして、この二人の過去も知っている
それは、西方軍の部下達には、デフォルト的なことだった。

が、
露骨にそういう現場に居合わせることはほぼなかったため、
思わず三人で、ドアに耳をくっつけて、様子を伺っていたのだった。




慌てふためく三人に、敖潤は大きくため息をついてから、
「それを置いて、とっとと出て行け。仕事は責任を持ってやらせる。
それから、こいつの亭主に、夜までに迎えに来ないと、こいつの無事は保障できんと
言っておけ」

追い立てるように三人を部屋から出すと、敖潤は、天蓬に「ということだから、
とっととそれを終わらせろ」と言った。


三人は、猛ダッシュで捲簾の部屋に戻ると、敖潤からの伝言を伝えたのだった。





「ったく・・・」捲簾はソファの背もたれに、頭を預けて、ため息をついた。
夜までに来いということは、夜まで来るなということだ。
おそらく、仕事はそれくらいまでかかるだろう・・・
あの敖潤だ、天蓬の操縦も慣れたもので、必ずそれをさせるだろう・・・

ちっ・・・
悔しかった・・・
どうしていつもいつもこうなるのか・・・


「元帥が食われかかってましたよ・・・大将・・・」
言いにくそうにだが、部下達は報告をした。

「あぁ・・・」呟いてから
それもムカつく・・・と捲簾は心の中で呟いた。
それを天蓬が許していることにどうしようもない嫉妬を感じてしまう・・・

部下達を帰した後、捲簾は、一人部屋でタバコをふかしながら、
天蓬の逆鱗に触れた、過去の自分に腹が立った。




俺のバカ・・・



天蓬が自分を選んだとき、敖潤に「お前が扱いきれないと判断したら、俺は容赦はしない」
と言われたのを思い出す・・・

そろそろヤバイかも・・・





捲簾はふっと自虐的な笑みを浮かべて、立ち上る紫煙を眺めるのだった。



















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