リョ不二deLOVELESS

















「誰?・・・アンタ・・・」 

学校が終わって、いつものように、一人で帰宅しようと校門を出たところで、

見たこともないような 美人が自分に向かって手を振っているのを見たリョーマは、

訝しげにその美人に近づき、 少し見上げながら言った。 



誰もがその人を見つめる。キョロキョロと落ち着かない視線の中、その人はそんな周囲を 

気にも留めず、自分だけを見ていた。 





「思ってた通り、可愛いな」

自分の質問に答えもしないで、独自の世界に入っているような その人物の発した声を聞いて、

リョーマは「ん?」と思った。 

女にしては・・・低すぎる。と、じっとのど元を見て、「やっぱり・・・」と少し残念に 

思いながら、美人ではなく、美青年だったことに気づいた。 




「俺の質問に答えてないし」むっとしたままのリョーマに、美人改め美青年は苦笑いをしながら、 

「あぁ。ごめん。周助だよ」と言った。 

「どこの?っていうか、第一、俺、そんな名前の人知らない」 

「ふーん・・・聞いてなかったんだ」周助は、少し不満げにつぶやいた。
 
「聞くって・・・誰だよ」 


「ん?クニミツだよ」 

「え?」 

「君の兄さんさ」周助はうっとりするような目をしながら、リョーマの兄の名を口にした。 


「あいつのこと・・・知ってるの?」 

「あぁ・・・君よりずっと知ってるかもしれない。僕ら二人はいつも一緒だったから」
 

なぜかリョーマは、目の前の周助が自分とより、兄との関係を大切に思っているような態度が 

気に入らないと感じた。 





「・・・いないし・・・」つぶやくリョーマに 

「知ってる。だから来たんだ」と周助が言った。 

「えっ?」驚いたような顔をするリョーマに、周助はふっと微笑んでから 

「ここじゃちょっと落ち着かないな・・・どこか行きたいところある?」と言った。 

「え?・・・あぁ・・・」

リョーマは、じゃぁ・・・と言って、よく自分が行く河川敷へと 誘った。 






並んで歩きながら、リョーマはちらちらと周助を見た。 

よくよく見なければ男だとは思えないほどの綺麗な面立ちに華奢な容姿。光に反射して
 
金色に輝く肩まで伸びたストレートの髪。 なぜか心が落ち着かなかった。 




すっと慣れた手つきでポケットからボックスを取り出した周助は、中から1本取り出すと 

口に咥えて火を点ける。その仕草一つにも妙な色気があった。 







「あんた・・・大人なんだ」
 
「え?・・・あぁ、ちょうど二十歳だよ」

にこりと微笑む周助にリョーマは「その意味じゃない」と言った。
 
「え?・・・あぁ・・・これね」周助は自分の頭を撫でた。 





性交渉をしない者には、耳と尻尾がある。
 
ということは、それを済ませている者にはそれらがない。
 
一目瞭然ということになるのだが、人目を気にする者達のほとんどは、つけ耳などを使うのだった。
 
それはとても精巧にできていて、一見しただけでは分からない。 





二十歳だと、笑って答えながら、既に大人の姿でいることに慣れた様子の周助を見て、 

リョーマは何故か胸がどきどきとするのだった。 







「相手は?もしかしてあいつ?」 

「え?クニミツにはちゃんと立派な耳も尻尾もあっただろ?」 

「そんなの、つけ耳してりゃ分からないじゃん」 

「クスっ・・・頭いいね。リョーマは」周助はクスクスと笑った。 





はぐらかされた・・・リョーマは思った。 

まぁ、いい・・・後でゆっくり聞けば・・・ 

それより 

この男から聞くことができるのだろうか・・・ 









不慮の死を遂げた自分の兄、クニミツについての真相を・・・ 









「リョーマは、クニミツのことがダイスキだったんだよね」 

河川敷のベンチに腰掛けて直ぐに、周助は、知っていたかのように言った。 





「えっ?」 

「クニミツもリョーマのことを大切に思ってたからね」 

愛しむように兄の名を口にする周助に、リョーマは、

自分の中から冷静さが消えていくような気がするのだった。 




「何を言いに来たの?今更・・・アンタ、あいつの何なのさ」 

食ってかかりそうなリョーマに、周助はふっと優しい笑みを向けた。


 

「僕はクニミツの戦闘機。そして今、この瞬間から、君の戦闘機として君を守るために 

やってきた」 

「戦闘機?」 

「そう・・・君だけを守るための戦闘機だよ。リョーマ」 

そっと自分の頬に手を添えて言う周助の瞳に引き寄せられそうになりながらリョーマは、
 
「何だよ・・・それ」と言った。 

「これから少しずつわかるだろう・・・それでいい」 

「どういうことっ・・・」 







言いかけたリョーマの唇を周助のそれがさっと塞いだ。 

やわらかく包み込むようなキス。 

割り入ってくる舌は痺れるように甘く熟れていて、リョーマは直ぐに夢中で自らのそれで 

追いかけた。 






「んふっ・・・」 

チュッと音を立てて離れた唇を、リョーマは、名残惜しそうに意識で追いかけた。 

自分からしかけていったのに、返り討ちになったような感じのした周助は、うっとりと、 

驚いたような顔をした。 







「呆れた中学生だな・・・」呟く周助に 

「そりゃどーも」とリョーマは言った。 





「アンタならいいかもな」 

「え?」 

「セックスしても」
 
「やりたいの?」 

「やりたいとかやりたくないとかじゃなくて、やってもいいってこと」 

「クスっ・・・今はまだだめだね」 

「なんでさ」 

「子供相手には勃たない」 

「別にいいよ。アンタが勃たなくても、俺が勃てばさ」 

「僕が受けるの?リョーマを?」 

「そ」 

「やり方知ってるの?」 

「何とかなるだろ」 

「ますますダメだね」
 
「どうしてさ」 

「ガッツくだけのお子様は遠慮したいから」
 
「人をガキ、ガキって・・・」 

「だってそうだろ?」周助は笑いながらリョーマの耳を撫でた。
 
「辞めろっ」 

「爪立てないでよ」 

「ムカつく・・・そのうちギャフンて言わせてやる」 

「楽しみにしてる」 









「で?」 

「ん?」 

「説明してよ・・・」リョーマは周助に言った。
 
「クニミツは僕のサクリファイス。戦闘機とサクリファイスは一対で戦う。僕ら戦闘機は 

サクリファイスのためだけに戦う。そしてサクリファイスは僕ら戦闘機を操り、支配する」 

「あいつの・・・なんだろ?アンタ」 

「あぁ。そうだ」 

「なら、なんで俺のとこへ来るんだよ・・・」 

「リョーマがこれから僕のサクリファイスになるんだよ」 

「なんだよそれ・・・相手がいなくなったから乗り換えるのかよ」 

「いや・・・戦闘機とサクリファイスの絆は絶対だ。途中で変わることはない」 

「だったら・・・」 

「クニミツがそれを望んだから。だから僕はやって来た」 

「あいつが?」 

「そう・・・」 





と、突然、一陣の風が駆け抜けていった。 

「来たな・・・」周助は静かに立ち上がると、

「おいで、リョーマ」と、ゆっくりとリョーマの手を引いた。



 


「え?」 

「見せて上げる。実際に体験した方がいいだろう?」 

「何を?」 

「ん?僕らの戦いさ」 

「え?」わけが分からないといった風のリョーマに、

周助はふっと微笑んで「感じない?敵の気配」と言った。 

「分かるもんか・・・」 

「そう・・・でも、大丈夫、そのうち分かるようになる」 










周助はリョーマの手をしっかり握ると、ふっと微笑んで前を向き、「システム展開」と静かに言った。 





直ぐに二人の目の前に、二人の青年が現れた。 








「やぁ・・・周助」 

「佐伯・・・」 

「久しぶり・・・バネのことは覚えてるよね」 

「あぁ・・・」 




周助は驚いたような顔をした。 





「まさかいきなり俺が現れるとは思わなかったって顔してるね」 

「あぁ・・・」 

「その子がリョーマ?」 

「あぁ」 

「新しいサクリファイスの戦闘機になるって、ホントだったんだ」 

「確認しにきたのか?」 

「あぁ。あの人がさ・・・」佐伯はクスっと笑った。 

「お前らの力、見せてもらおうか」黒羽は静かに言った。 

「構わないけど・・・大丈夫?」周助は言った。 

「それを言うならそっちだろ?」佐伯はリョーマを見ながら不敵に笑った。 

「それはどうかな」周助はニヤリと笑った。 






「戦闘開始」佐伯は手首のリストバンドをはずし、刻印を掲げながら言った。 

「応戦します」周助は首に巻いている包帯を取り去った。 

「我らはbrightness(光り輝くもの)」佐伯は黒羽の前に立つ。 

「こちらはloveless」周助はリョーマの前に立った。 







「背徳の徴だね・・・周助。君は彼の本当の戦闘機じゃない」 

「うるさい」周助の首にあるproudestの刻印から血がにじみ出ていた。 

「周助っ」リョーマが周助を引き寄せた。 

「大丈夫。どうってことないから」周助は微笑んで答えた。 







「さぁ、見せてくれ」佐伯はそういってから「駆け抜ける光陰よ、彼を捉えろ」と叫んだ。 

凄まじい光の矢が降り注ぐ。 




「大気よ、ここに集まりて、全てを覆いつくす雲海の如くあれ。絡みつく細雲の鎖は光をも貫く」
 
周助の言葉と共に、リョーマに向かって降りかかっていた光の矢は、雲の中に吸い込まれていった。

そして、その雲から細く伸びたものが蔓のように、黒羽に絡みつく。 





「バネっ!」佐伯が声を上げる。 

「大丈夫だ。これくらい」黒羽は言った。 

「流石だ、周助・・・だがっ・・・氷の鎖よ。雲を貫き進めっ」 





雲の合間からリョーマの手首に鎖が落ちてき、拘束した。 

「えっ・・・」 

「リョーマ・・・平気だよね」 

「ん・・・」重苦しい感じはするが、周助の言葉がリョーマにそれを忘れさせた。 






「安易な拘束など何の役に立とうか?凍てつく波動よ、渦となって引き込み、飲み込め。 

闇と恐怖の腕に誘え」耐えられる?周助は不敵に微笑んだ。その笑みが含んだ、あまりの残酷さに
 
リョーマはゾクリとした。まるでさっきまでの周助とは別人のようだった。 







「ぐっ・・・」押し寄せる黒い塊に黒羽は膝をついた。
 
「バネっ!」 





「佐伯、今日のは貸しにしておいてあげる」周助はふっと笑ってから

「風よ。羽を与え、天に舞い上げよ」と言った。 





「わぁっ・・・・」

佐伯と黒羽を包み込むように起こった風は、瞬く間に二人をどこかへ飛ばし去っていった。 





ふっ・・・と今までの拘束が解け、リョーマの身が軽くなった。 

「周助っ」リョーマは周助を引き寄せて首元を見た。 






「大丈夫?リョーマ」 

「俺は大丈夫。それより周助が・・・」 

「あぁ・・・大丈夫だよ・・・」 

「痛くないの?」 

「ん・・・」 

「もしかして・・・」 

「ん?」 

「不感症?」 

「ぷっ・・・」周助は思わず噴出した。 

「なんだよ!」 

「だって、リョーマがあんまり面白いこと言うから」 

「だって、そんなに血、流しといて痛くないっていうからだろ」 

「痛いのは痛いよ。でも、僕は痛みをコントロールできるから」 

「感じないの?痛さを?」 

「感じないっていうか、忘れることができる」 

ふっと微笑む周助の首にリョーマはそっと顔を近づけて、滲む血をぺろりと舐めた。


 

「あっ・・・」思わず周助は声を上げる。 

リョーマは構わず唇を寄せた。 




「あっ・・・んっ・・・リョーマっ・・・」 

「感じる?周助」 

「んっ・・・」 




最後にチュっと強く吸い、鎖骨の辺りにはっきりとした鬱血の後をつけて、リョーマは唇を離した。 





「もぉっ・・・つくづく呆れた中学生だな」上気した頬のまま、呆れたように呟く周助に 

「それ・・・兄貴のだっていう印だろ」 

「ん・・・」 

「俺のもんなら、俺の印つけなよ」 

「・・・ん。そうだね」 







「あいつらが何なのかとか、何がどうなってるのかとか・・・これからちゃんと説明してもらうから」 

「了解」 








一歩先を歩くリョーマの背を見つめながら、クニミツ以上の強い雄を周助は感じたのだった。 







サクリファイスとして何も知らない未熟なリョーマ 

真のパートナーを失った不確定な最強戦闘機周助 

寄せ集めのパーツのような二人はこれからセオリーを打ち破るような関係になれるのだろうか・・・ 




これから二人を待つもの 

それは・・・周助にさえも分からない。 





ただ・・・ 

目の前のリョーマを守る。それだけ。 

強く周助は心に誓うのだった。 

























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