千不二de最遊記(悟浄×八戒)B
明け方前の寺院の奥にある薄暗い部屋。ふっと目覚めた手塚は銃を手に、
ベッドから身を起こすと、空いた方の手で、器用にタバコを咥え、そっと火をつけた。
「まったく・・・」どいつもこいつも・・・の言葉を、煙と一緒に飲み込んだ。
そして、大バカ共に、役立たずばかりだ・・・の言葉と一緒に紫煙を吐き出す。
ベッドの脇の窓から、月を見上げ、昼間の儚げな存在とのやり取りを思い出した。
「何か気に障ることをしたんだろうか」
「さぁな」
「好きな人でもできたんだろうか」
「俺の知ったことではない」
「前はそんなことなかったのに、このところずっと毎晩だよ」
「そうか」
言って欲しくないくせに、どうも「お前がいるからじゃないのか?」
の一言を言って欲しそうな不二に、手塚は曖昧な返事だけを続けていた。
傍目に見ても、千石の本当のところなど、手塚にだって手に取るように分かるのに、
当の本人は全く分かっていない。そして自分の気持ちにすら・・・
『大バカ者どもが・・・』
俺を巻き込むな・・・と手塚は言ってしまいそうになりながら、千石はともかく、
不二を突き放すようなことはどうしてもできなかった。
きっと、自分自身も、目の前の不二に心奪われているからだろう・・・
このまま押し倒して手にしても、きっと不二は、その運命を黙って受け入れるだろう。
が、それは手塚の本望ではなかった。そこまでガッツク年齢でもなければ、思慮分別が無いわけではない。
相手から、自分の懐へ飛び込んでこなければ、それは手塚にとって意味のないことなのだった。
千石に、不二を受け止めるだけの度量がないなら・・・・
そう思った瞬間、手塚は、ドアの前に人の気配を感じた。
「開いている」短く呟くと、ドアがゆっくりと開けられた。
「年取るとヤだねぇ・・・こんな早起きになるんだ」千石は睨みつけるようにしながら、手塚に言った。
「煩い」面倒くさそうに手塚は答えた。
「お節介にもなるし」千石は手塚の傍に立った。
と、手塚は片手てタバコを挟んで口に持っていったまま、
下から千石を見上げるようにもう片方の手で千石の眉間に銃口を向けた。
「んだよ・・・」
「それ以上近寄るな」
「はぁ?」
「バカが流行る」
「おい!」
「煩い!他の者が起きてきてもいいのか?」
「ちっ・・・」
千石はその場に腰を下ろした。一旦、胡坐を組んだが、片方の膝を立てて、タバコを咥えた。
「寝ぼけたエロ河童が何の用だ」手塚は静かに千石に言いながら、銃口を下ろした。
「それはこっちの台詞。生臭坊主がうちの薄幸美人に鬼畜なこと言うからさ・・・」
「言わせるようなことをしたのは貴様だろ」
「そうさせたのはアンタだろ」
「俺は真実しか言わん」
「クソ坊主のくせに生意気なんだよ!」
「坊主は生意気なものだ」
「口ばっかり・・・」
「なんなら、それ以外でも勝負するか?」
ふんっ・・・と笑う手塚に、千石はがっくりと肩を落とした。
下ろしたとはいえ、ずっと自分の方を向いたままの銃口もさることながら、
無慈悲の鬼畜坊主のくせに、不二限定に甘い彼が不二を・・・思っただけで悪寒が走る・・・・
今のような、ゆるぎない目で不二をみつめ、強引にでも彼を傍に置くだろう・・・
それに比べて自分は・・・
「己の始末もできん大バカが、偉そうに他人さまにその責任を転換しようなんぞ、
浅はかを象徴しているようなものだ」
「なっ・・・」
「逃げてたければ逃げればいい」
「えっ」
「が、だったら、あいつを解放してやれ」
「っ・・・」千石は言葉が出なかった。
「自分に嘘をつく奴は、他人にも嘘をつく。自分に正直になれん奴は、他人も傷つける。
自分の思いを大切にできん奴は、自分が大切なものも守ることはできん。当たり前のことだ。
あいつは、自分が大切な者のために、自分を捨てた。そのせいで、何もかもを失って、
唯一の希望だった、死ぬことさえできなくなっても、それでも前を向いて生きている。
くだらん拘りで前を向けん奴に、あいつを縛り付ける権利はない」
何もかもが、千石の心に突き刺さるほど、核心をついたものだった。
不二がかつて愛した人
不二がその人を想う気持ち
その不二に傾向していく自分
自堕落な今の自分
出生から始まる自分の影
自分に縋るような目を向ける不二
その不二に欲情を覚える自分
何もかも
直視して、考えることが辛いことばかり・・・
口ではどうのこうの言いながら
どうしてこうもマイナス思考のヘタレた男になってしまうのだろう
「自分を大切にできん奴は、人も大切にできん。何のためだとか、
誰のためだとかそんなことは勝手な言い草にしか過ぎん。同情や哀れみもクソ同然だ」
「俺は・・・」
「俺は、俺自身のために生きてる」手塚は静かに呟くと、じっと千石を見据えた。
深い漆黒の瞳から発せられるゆるぎない光。
千石はゴクリと息を飲み込んだ。
手塚の強さ、潔さ・・・
ふっと、
ひとり相撲であがいていた自分が滑稽に思えた。
一人になった部屋で、また、月を見上げながら
「ったく・・・世話の焼ける奴らだ・・・・」
手塚は呟いてタバコを咥えたのだった。
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