千不二de最遊記(悟浄×八戒)@
「やっぱ・・・起きてる?」
深夜に賭場から戻ってきた千石は、家の窓から篭れ出る明かりに苦笑いをして呟いた。
「ただいま・・・」そっとドアを開けると、
リビングのテーブルに、待ちくたびれて眠ってしまったのだろう、同居人の背が見えた。
玄関先で、それを確認した千石は、何故か、泣きそうな微笑を浮かべると
ゆっくりと音を立てないように中にはいり、静かに戸締りをした。
「あらら・・・風邪引くじゃん・・・」呟いてから、さっとジャケットを脱ぐと、
目の前の華奢な肩に掛けてやった。
そして、その人の直ぐ傍にある食器を見て、今度は、胸がぎゅっと痛くなる・・・
どんなに遅くなろうと、どんなに不規則だろうと、その人は、自分のために、
いつも心づくしの料理を用意してくれていた。そして、その傍らで、いつも綺麗な微笑を湛えて、
自分を待ってくれる・・・
テーブルを回って、静かに椅子を引いて、すっかり冷めてしまった、料理に箸をつけた・・・
「ほんと・・・美味いよね・・・」きっと、湯気の上がった温かいままなら、
どれほど美味しいだろう・・・いつも、自分はその状態で口にしてやることができないことに、
千石は申し訳ない思いが沸いてくるのだった。
本当は・・・一緒に、くだらない会話を楽しみながら、向かい合って食べたかった。
千石は、ふっと悲しげな笑みを浮かべたまま、目の前で、静かに眠っている人に目を向けながら
、雑念を振り払うように、食事を済ませるのだった。
あの日・・・自分達は偶然に出会った・・・
いつものように、賭場で稼いだ金を、女達に散々して、帰宅する途中だった。
急に降り出した土砂降りの雨の中、人気のない道の少し入った所から、
雨に混じって鼻につく血の匂いを感じた千石は、確かめるために分け入ってみると、
腹から、大量の血と一部の内臓を出して、倒れている男を見つけたのだった。
「うげっ・・・マジ?」近寄り、足先で軽くつついてみる・・・
「死んでんのかな」
と、僅かにその男がピクリと動いたのだった。
「うわっ・・・」思わず千石は後ずさった。
すると、男は、ゆっくりと瞳を開け、縋るような目で『殺して下さい』と言わんばかりに、
千石を見つめたのだった。
そして・・・千石は拾ったのだ
そう
不二を
一命をとりとめた不二から千石は彼の話を聞いた・・・
自分は孤児だったと・・・そして、偶然、いくつか目の孤児院で、双子の姉に出会ったと。
大人になって、彼女と二人で暮らすようになり、愛し合うようになっってまもなく。
彼女は、自分がいない間に、村人達に、妖怪への生贄として差し出されたと・・・
そして、不二は・・・
村人達を殺し、妖怪たちを皆殺しにし・・・多くの血を浴びた。助けに行った姉は、
自分の目の前で自害して果て、そして、自分は多くの命を奪ったことによって、
妖怪となってしまったと・・・
妖怪なら・・・自分だってそうだ・・・と千石は思う。
妖怪の父と人間の母。禁忌の関係の間に生まれた自分。
中途半端な自分。
中途半端な不二。
何の因果だろう・・・そう思った。
そして、傷が癒えた頃、手塚と言う坊主が、不二を捕らえにやって来たのだった。
深々と頭を下げ、自分に礼を言い、どこかホッとしたような笑みを浮かべた不二が
千石には『やっと死ねる・・・』と言っているようだった・・・
そして・・・
再び、不二が自分の前に現れたのだった。
死んだと思っていたのに。彼は、手塚の監視の元、不二周助として生きることを申し渡されたのだった。
失っていた右目には、綺麗な義眼が入っていて、そして、優しい笑顔を湛えていた。
居候だからと、家のことをこまごまとしてくれる不二と、
最初はままごとような日々を過ごしていた千石だったが、徐々に、
自分の中に沸いてくるある感情に、不二を避けるようになっていたのだった。
そんなある日
「お前・・・あいつに惚れたんじゃないのか?」
何気なく・・・手塚に言われた言葉に・・・千石はらしくなく動揺を隠せなかった。
「は・・・はぁ?」
「なんだ・・・違うのか?」
「違うも何も、あいつは男だろ?俺が好きなのは綺麗なお姉さんだよ」
強く反発するように千石は言った。
「あいつも綺麗だがな・・・」手塚はそう呟くとそれ以上は、何も言わなかった。
「参ったね・・・」呟いた千石は、食べ終わった食器を重ねようと立ち上がった。
「・・・おかえり・・・」と、不二がゆっくりと目を開けた。
「あぁ・・・起こしちゃった?」苦笑う千石に
「気付かなくてごめん」と不二は体を起こした。
と、不二の肩から、千石のジャケットが落ちた。
「あっ・・・」
「あ・・・」
それを手に体を起こした不二は、愛しそうにそれを抱えて、千石に「ありがとう」と言った。
綺麗な不二の笑みに、千石はドキリとした。
頭の中に警鐘が鳴る。
血が騒いで。脈が上がった。
「あっ・・・いいってば、気にしないでさ。俺、これを片付けるから」
言いかけた千石に、
「待って・・・」と不二は言った。
「え?」
「話しがあるんだ・・・」
不二の真剣な目に、千石はいやな予感を催しながら、ゆっくり椅子に腰をおろしたのだった。
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