やれるもんならやってみぃ
忍足が、不二と付き合い初めて、まだ間もない頃・・・
迎えに来た青学の校門の前で立っていると、目の前に、何度か見たことのある
不二の後輩がやって来て、
「不二先輩なら、そこでクラスの女子に、告られてた」
と、やや深めに被った帽子のツバの下から、挑戦的な目をちらつかせ、
唐突に言ったのだった。
「ホンマか・・・まぁ、そのうち来るやろ」忍足は、一瞬だけ彼を見ると、
また、視線を遠くに戻して、関心無さげにさらりと受け流した。
「随分余裕だね。ま、今日のは、断るだろうけどさ・・・」
含みのある言い方をして、ニヤリと不敵に笑う彼に、忍足は思わず
「けど何や?えらいつっかかってくるなぁ、自分・・・越前・・・やったか?」と言った。
「人の名前くらいちゃんと覚えなよ」
「その必要があるんやったらな」
「あんた、生意気」きっと睨む越前に
「そら、お前もやん」忍足は苦笑いした。
「ま、今のうち、せいぜい楽しんどくんだね」
「どーいう意味や?」
「あんたがさ、どうやって口説き落としたのかは知らないけど、
そのあんたから、今度は俺が、あの人もらうから」
敵意丸出しの目を向けて、越前は強い口調で言った。
「なるほどな・・・そないくるか。ふんっ・・・何や、笑えん冗談やな・・・」
と忍足は、なおも目線を合わせないまま、人事のように言う。
「俺は、マジだから」取り合わない忍足に、越前はさらに続けて言った。
「そぉか・・・ほんなら、俺もマジで受けて立たなあかんなぁ・・・
まぁ、ええわ。やれるもんならやってみぃ。せやけどな・・・
汚い手つこて、あいつ泣かしたり、傷つけたりするようなことしたら、
命はないと思とき。」
凍てつくような殺気を込めた目で、忍足が越前を捕らえて言った。
さっきまでの、ヘラヘラしていた忍足からは、想像もつかないほどの迫力に威圧され、
流石の越前も息を呑んだ。
「侑士!」と、そこへ不二が、忍足の名を呼びながら走ってやってきた。
「あぁ、周助、おつかれさん」一転して、蕩けそうな微笑みを不二に向けて、
優しく迎える忍足に、さっきまでの殺気を含んだオーラは、綺麗に消え去っていた。
そんな忍足の変化もさることながら、越前が何よりショックだったのは、不二の様子だった。
今まで見たこともないような綺麗で、可愛くて、何より幸せそうに微笑んでいたのだ。
『あいつの前だから?あいつだから?』得体の知れない嫉妬心や、敗北感みたいなものを
噛み締めながら、思わず、ぎゅっと拳を握って俯いた。
いたたまれない思いを感じながら、「お疲れッス」と、小さく呟いて、
『何で俺、逃げてるんだ・・・』と、心の中で呟きながら、二人の脇を抜けて行ったのだった。
「あ・・・越前?」
走り去る越前の背を見ながら、不二が小さく驚いて呟いた。
「何や、気付いてへんかったんか?」忍足はそんな不二に、苦笑いしながら言った。
「あぁ・・・君しか見てなかったよ」
「ちゃんと周り見とかな・・・車に引かれたらどないするんや?」
にこりと微笑みながら、忍足は不二の頭をクシャとした。
「クスッ・・・でもそんな時は、君がちゃんと守ってくれるんだろ?」
下から甘えたように見上げる不二に
「そんな時やのぉても、どんな時でも俺はお前を守るで・・・」
と忍足は優しく返事をした。
「ありがとう」
二人は一瞬見つめてから、ふっと笑うと、駅へと向かって歩き始めた。
「なんや巷では、俺はいっつもヘラヘラしてて、チャランポランで頼りない奴て
思われてるみたいやどな・・・」そう言って、忍足は苦笑いをした。
「それは、君がワザとそういうふうに振舞ってるからだろ?
皆さ、その名演技にまんまと騙されてるんだよ・・・
忍足侑士って男の凄さは、僕は誰より分かってるつもりだ。
君以上の人なんて、広い世界探したって、そうそういない・・・」
そう言う不二に
「それはちょっと、かいかぶり過ぎとちゃうのん?」と忍足は言った。
「そうかな?だいたい、君の化けるのが上手過ぎるんだ」
「まぁ、あれや・・・爪は、隠しとる方がええっちゅーやん?」
「クス・・・そうだな。いざって時のためにね」
「お前は、モテるからな・・・そうそう隠してもおられんような気もするけど・・・
なんせ、ライバル多すぎや・・・えらいこっちゃで・・・」
楽しそうに笑う忍足に
「それは僕の方さ・・・学校も違うし・・いつだって気が気じゃない」
と不二は苦笑いを浮かべて言った。
「俺は、心配要らんよ。お前しか目に入らんからな」
「ほんとかな?」
「あぁ、信じてもろて、損はないで?」
「そっか・・・。僕もさ、信じてもろて損はないよ」
デタラメな発音の関西弁で、返事をしながら、不二がはにかんだように微笑んだ。
「ほんまお前は・・・可愛らしぃなぁ」
そう言って自分を見つめる忍足の瞳が、優しくて心地よくて、
不二の心は満たされていくのだった。
「君を好きになって良かった」
「そぉか?おおきにな。俺もや」
人気の無くなったところで、不二はそっと忍足の手に自分の手を絡める。
ふっと優しく微笑んで、忍足はその手を強く握りかえした。
『悪いけど・・・相手がだれであろうと、周助だけは譲れんわ・・・
俺は・・・命がけで守るからな・・・』
忍足は心の中で呟いたのだった。
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