wishA
春休みを利用して、不二は、忍足の実家のある大阪へとやってきた。
地元の名士というだけあって、立派な屋敷の玄関先にたった二人を
「お久しぶりやね・・・周ちゃん。ほんま、相変わらず可愛いわぁ・・・
侑士は困らすようなことしてへん?」と、綺麗な微笑みを湛えた母が快、く迎えいれてくれた。
「人聞き悪いなぁ・・・」と苦笑いする忍足に
「あんたは、あてにならんからね。周ちゃん泣かすようなことしてへんか、いっつも気が気でなかったわよ」
と忍足の母が、奥の間へ案内しながら言った。
「お邪魔します・・」
忍足の父がいる部屋へと通された不二は、そう言って頭を下げて入っていった。
「久ぶりやなー。一段と綺麗になったんちゃうんか?ほんま、そこのアホにはもったいないなー」
と、豪快な笑い声をだしながら、忍足の父が声をかけた。
「親父までなんちゅーこと言うねん!!」忍足が拗ねたように言う。
「もぉ、何偉そうに言うてんの?・・・あ、はじめまして。私、このアホの姉の深雪。
こっちが、主人の宗司よ」
「やぁ、君の噂はいつも、深雪やお義父さんたちから、聞かせてもらってるよ」
「あ・・いえ・・・こちらこそ。はじめまして」
「いっつも、侑士が世話かけててごめんなぁ・・・せやけど、ほんま別嬪やわぁ」
何の偏見も含まない笑顔で、忍足の姉夫婦は、不二と接するのだった。
「僕のほうこそいつもお世話になってて・・・」
「めっちゃ可愛いやない・・・侑士がベタ惚れするだけのことはあるわぁ」
感心しきりの姉から目線を忍足に戻した不二に、忍足は『大丈夫やろ?』とウィンクをしたのだった。
「すまんなぁ・・びっくりしたか?」肩をすくめて言う忍足に
「うぅん・・」不二は微笑みながら答えた。
暖かく自分を迎えてくれる人たちに、不二は心が休まる思いを感じたのだった。
それから暫く真剣に、これからの二人のことについて、皆で話しを進めていった。
ひとしきり、それぞれの思いを打ち明けてから、忍足の父が口を開いた。
「一つ提案やけどな・・・今度、うちのグループのアメリカ支部が独立するんや。
ちょうどお前らが卒業するころにな・・・で、どうや?と思ってな・・・」
「は?」忍足が声を上げた
「こっちにおるより、向こうのほうが自由やろ?周ちゃんに肩身の狭い思いさせんですむやろし、
なにより、実力がもの言う世界やからな、お前が頑張ればそれだけ認めてもらえるっちゅーこっちゃ。
周ちゃんも、テニスかカメラかしたかったらあっちの整った環境でやればええし、
企業の方がええんやったら、侑士と一緒に頑張ってみたらどうや?
こんなせせこましい世間より、よっぽどええと、わしは思うけどな・・・
なぁ、侑士。なんでもええんや・・人より秀でたもん掴んでな・・
誰にも何も言わせんくらいになって周ちゃん幸せにしたらんかい」
忍足の父の言葉は二人の心に染みわたった・・
「親父・・・おおきに」
このとき初めて、忍足は父親に心からの感謝と尊敬の思いを涙とともに伝えた。
「ま、あとはお前が頑張れや。お膳立てはなんぼでもしてやるけどな」
と父は優しく微笑み、それに姉夫婦達も笑顔で頷くのだった。
「で?不二のお父さんはいつ帰国しはるんや?」と忍足の父が不二に聞いた
「えっと・・・・来月の第1週です・・」
「そおか・・・ほならその頃の日がええ時にいっぺんいかせてもらおか」
「そぉやねぇ・・・」
と話を始める忍足の両親に、不二は驚きを隠せなかった。
「ちょっ・・待ってーな。なんで自分らが行くんや?」と慌てる忍足に
「物事はちゃんと筋を通さなあかん!うちもひっくるめてのことなんやから、ちゃんとせんとな」
と父が言った
「マジかいな・・・」言い出したら聞かない両親に忍足は頭を抱えるのだった。
「あらあら・・・まぁ・・・・どうしましょ・・」
不二家の唯一の和室で、対面する忍足親子の話に、不二の母は、柔らかい微笑みを湛えたまま
呟くように言った。
不二が、高校を外部進学するきっかけとなった人物は忍足で、その忍足と、不二は大学へ進んでからは
一緒に生活をしていた。部屋の手配など、金銭的にも忍足の実家が援助をしていてた分、
不二家は、地元へ戻って行った忍足の両親に代わって、身元引き受け人となって、
二人の生活をサポートしていた。食生活で偏りのないようにと、週に一回は、不二の母が手料理を振る舞い、
父はたまに帰国してきた時には、必ずといっていいほど忍足も含めて、酒を酌み交わしながら
語り明かしたりしていた。
そんなこともあって、帰国した日に、忍足が上京してきた両親を連れて訪問してくると聞いて
いつもの調子でいた不二の父は、微笑んでいる母とは違い、「むぅ・・・・」と唸って、
暫く一点を見つめて考え込んでいた。
そして、かなりの時を経過して不二の父がポツリと言った
「で?お前はどうしたいんだ?周助」
否定的な言葉を想像していた不二は、一瞬驚いたように目を見開いたものの、すぐに冷静さを取り戻して、
穏やかに父を見据えて
「僕は侑士と一緒に生きていきたい」と答えた
「侑士君の気持ちを、もう一度聞かせてはくれまいか?」
と不二の答えの後、不二の父は少し間をおいて忍足に尋ねた。
「俺も・・・周助くんと一緒に生きていきたいです。というよりも一緒に生きていきたいのは、
周助くんだから・・で。周助くん以外はありえない・・・・と思てます」と忍足が真摯に答えた
しばらくじっと忍足を見据えていた不二の父は「ふぅ・・・」と溜息を一つついてから
「なら、私から言うことはなにもない」とポツリと言った
「父さん・・・」不二がじっと父を見詰めた
「仕事のために、ずっと傍にいたわけではないが、、私は、自分の子供達が間違った育ち方をしたとは
思ってない。周助、特にお前は幼い頃から思慮深かった。こうして、成人して大人になったお前が
考えて決めたことなのだろう。私はお前を信じるし、お前の決心を尊重してやりたいと思う」
父から紡がれる言葉が、不二の心ばかりでなく忍足の心にも染みていった
「ただ、お前も男だ。侑士君に幸せにしてもらうのではなくて、お前も彼を幸せにするために
努力しなければいけないだろ?責任においては、対等であるということを肝に命じておいてほしい。
お前達が幸せにならないと、周りも幸せにはなれないのだからな」
「ありがとう。父さん・・必ず・・・約束するよ」
頬を零れ落ちた涙の跡を拭って、顔を上げた不二は綺麗な顔で微笑んだ
忍足はその不二の清々しく、幸せそうでいてけれど瞳から感じられる
決意のようなものを感じとり、自らも固い誓いを心に結んだ。
「ちょっと・・裕太。もう少しそっち行きなさいよ」
「うっせーな」
「何ですって?」
隔てられた戸の向こうから事の次第を見守っていた由美子と裕太は、ほっとしていた。
二人とも不二と忍足の関係は早くから知っていて、いろいろと気を遣いながらも応援をしていたので
この結果には心から良かったと思えた
「ったく・・・周助に先こされてんじゃねーよ。姉貴」
リビングへ戻る廊下で、裕太が意地悪っぽく笑いながら言った
「うるさいわね!」由美子が言い返した
「ま、ここは俺が継いでやるから、安心していいぜ」
兄のことも踏まえての裕太の発言に、裕太らしい優しさが含まれていた
「ありがとう・・・・・ほんとよかったわ・・・」と由美子が呟く。
「あぁ・・」裕太も頷いた。
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