自分が自分でいられること
自分が自分でいられること・・・
簡単そうで、難しいこと
難しそうで、自然なこと
そして、何より心地よいこと・・・
「もうじきやなぁ・・・」
例年よりも、少しばかり気温が高めのその日、
エアコンによって作られた、心地よい空間で、
何よりも愛しい人の股に頭を預けて、
ソファに寝そべっていた忍足は、見てもいなかったテレビからの
耳に流れ込んできたワードに、ふっと気づいたように呟いた。
「そうだね」お天気だといいのにな・・・
主語が欠けたままであったが、それが分かる不二は、
手にした雑誌に目を向けたまま、忍足の言葉に続けたのだった。
「来年くらいどぉや?」いっぺん行ってみぃひんか?
ポツリと言う忍足に
「ん・・・夜は、先斗町あたりでもてなしてくれるんなら・・・」
と言って、不二はふっと微笑んだ。
「ええで、お前がそないしたいんやったら、
綺麗どころ総増員の貸切で、ぱぁ〜っとやったるわ」
下から、覗き込むように、忍足は言った。
「豪遊だな・・・」
「ある意味、男の浪漫やで」
「そうだな・・・でも・・・」と言って、手にした雑誌をテーブルに置く不二を
忍足は「ん?」と言って見た。
「賑やかに過ごすより、隠れ家っぽいところで、君とさしつさされつってのがいいかな・・・」
願ってもないことだが、少し予想と違う不二の言葉に、忍足は驚いたような顔をした。
「クスっ・・・」それを見た不二は、楽しげに笑った。
「本当はさ・・・君が曳方とかやってる姿を、見てみたいって思うんだけどさ・・・」
小さい頃、やったことあるんだろ?あのすごい役・・・
「ずっと住んどったらなぁ・・・」と言ってから、忍足は「あれは、おかんの夢かなんか知らんけど・・・
えらかったわぁ・・・」と少し懐かしそうな目を不二に向けた。
「だってさ・・・いいところの子って感じじゃん?」
「俺は別にそない思わんけど、なんせ、えらい金かかったて、親父が後で言うとったんだけ
覚えとるわ」
「へぇ・・・」やっぱり、見たかったな・・・と不二は言った。
「実家に帰ったら、写真見たらええ」
「ん・・・」
「なんや、俺やないみたいな感じやけどな」苦笑いをする忍足に
「馬子にも衣装っていうだろ?」不二は言った。
「えー、なんやそれー」起き上がって、不二にじゃれ付く忍足。
二人は、そのままもつれ合いながら、ソファとテーブルの間のファーに、滑り落ちた。
「どんな君でも、君は君だろ?」
忍足の眼鏡に手を添えながら、不二は言った。
「今はな・・・」上から、不二をじっと見下ろし、忍足が静かに言った。
「え?」
「借りてきた猫みたいな時もあったし、全然、腹ン中とはちゃうこと言うたり
したりした時もあった。分かっとって、自分で自分が嫌になった時かてあったんやで・・・」
「忍足・・・」
切なげに揺れる不二の目をじっと見つめながら、そう告げた忍足は、眼鏡にかかったままの
不二の手に、自分の手を添えて、ゆっくりと眼鏡を外した。
「お前と会うてからや・・・いつでもどこでも、俺が俺でおれるんは・・・」
忍足は、不二の額に自分のそれを重ねた。
「簡単そうで結構ままならんもんやった・・・自分らしいっちゅーのはな・・・」
今度は、鼻先を擦り合わせた。
「けど、お前がそれを、めっちゃ簡単にしたんや」
おおきに・・・と、唇を動かしてから、忍足は、不二の唇に自分のそれを重ねた。
ひとしきり・・・甘くて、蕩けそうな唇を堪能してから、忍足は、ゆっくりと顔を上げた。
「好きや・・・」
「愛してる・・・」
それぞれの言葉で、思いを伝える。
それは、決して不自然ではなく、不似合いでもない。
「きっとな、お前がおったら、俺は今ここで、仮面ライダーに変身しても、
『これが俺や』て思えると思うねん」
「極端すぎだよ・・・」不二は、包み込むような笑みと一緒に忍足に言った。
「せやけど、ほんまのことやん」
「ん・・・そうだな・・・僕も、君と同じだよ」
「え?変身するんか?」
「何言ってんだか・・・」
二人はまた、じゃれあいながら、声を上げて笑った。
「なかなかおらんで・・・っちゅーか、簡単には、出会えへんもんやと思うけどなぁ・・・
まんまで一緒に居れる奴って・・・」
「じゃぁ、大切にしないとね」
「せやな・・・っちゅーか、放せへんよ」
「ん・・・僕も」
強く抱きしめ合って、二人は何度もキスをした。
「よっしゃ、来年は、絶対行くで」忍足は、勢いよく体を起こしながら言った。
「ほんで、的屋食い回って、ちまき買うて・・・」
「え?」
「おばがな、『あんな非衛生的なもんあきまへん』って、俺、向こうにおる間、
一回も食わしてもろたことなかってん・・・」リベンジやと拳を握る忍足を見て、
「やっぱ、いいとこの子だったんだ」不二は、可笑しげに笑った。
「行こな?。絶対やで」
小指を立てる忍足に、
「ん・・・約束」と不二は自分の小指を絡ませた。
「もう一個、ずっと一緒やで」
腕をクロスさせて、もう片方の小指を立てる忍足、
「うん・・・ずっとね」
不二も、頷いて、指を絡めた。
きっと大丈夫、
自分が自分でいられるから
君が君でいられるんだから
とても難しい確立だけど
とても自然に出会えたから
これからも
ずっと
*特定の祭を題材にしておりません。慣習や詳しいことは分かりませんので。
誤解の無いようにお願いします
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