本当B
裕太が帰って来たこともあって、久しぶりに跡部が不二家にやってきていた。
賑やかに皆で食事をしながら話に花を咲かせた。
そして、夕食後。不二は自分の部屋で、跡部と話をしていた。
「で?お前の気持ちってのはどうなんだよ」一通り不二の話を聞き終わって、跡部が言った。
「分からないから、君に相談してるんだ」
「はぁ?テメーの気持ちも分からねぇ奴の気持ちが、どーやって俺に分かんだよ!」
「だって、君ってそういうの得意そうだろ?」
「はぁ・・・勘弁してくれよ」
「そう言うなよ。僕も相当参ってるんだから」
はぁ・・・っと再び、一際盛大な溜息をついてから、跡部が真面目な顔で言った
「お前が手塚に気を使うのはなぜだ?」
「余計な気を遣わせたら、テニスに支障がでる」
「ふーん。ならよ、手塚がテニスできなくなったらどうよ」
「それは・・・・考えられないことだ。手塚からテニスを切り離すなんて、想像もできない」
「じゃあな、忍足がテニス辞めたらどうよ」
「えぇ?ま・・・残念だけど・・・だからどうってことにはならないよ。第一、普段から
テニスばっかって訳じゃない・・・」
「アーン?お前さ、手塚に抱かれてる時どんな感じなんだ?」
「えっ・・・何言い出すんだよ・・・・・って・・・ドキドキして緊張するけど?」
「じゃあさ、あいつとテニスしてる時はどうよ?」
「同じかな・・・ドキドキして凄い緊張するけど、それが楽しいって感じ」
「忍足とはどうよ?」
「侑士とは、そんな関係じゃない」
「へぇー。あいつまだ手ぇ出してねぇのか・・・・」
「跡部とは違うよ」
「をい!こらっ!・・・ったく・・・
まぁいい・・・ならよ。忍足といる時はどうなんだ?」
「凄くドキドキするけど・・・同じくらい心が安らぐ。心地良いっていうか・・・」
「はぁ〜〜ん・・・・でさ、お前なんか気がつかねぇか?」
「え?」
「お前のさ・・・その手塚が好きってのはよ、手塚のテニスが好きってんじゃねぇの?」
「えっ・・・」
「けどよ、忍足に対しては、それとは違うだろ?」
「手塚のテニスが好きな自分を勘違いして、恋愛にしてねぇか?だからあいつが
目の前から居なくなると寂しくなるんじゃねぇの?」
「忍足はそれとは違げーから。寂しくならねぇんじゃねぇのか?」
「あ・・・」
と跡部の言葉を聞きながら混乱し、自分の気持ちを整理しながら、不二は、ある一つの結論に
行き着く。すると、不二の顔が見る見る真っ赤になっていった・・・
「ぷっ・・・ったくよ・・・世話が焼けるぜ」
苦笑いをしながら、跡部は不二の頭をクシャっとした。
「まぁ、ガキにはありがちだけどな。憧れってのと恋愛感情ってのを同じだって
勘違いしちまうことがよ・・・」
「君もガキじゃないか・・」
「違げーよ。テメーらよりよっぽど成長してらぁ」
「手塚は・・・どうだったんだろう・・・」少し寂しそうに不二が呟いた
「さぁな・・・けど、はっきり言えるのは、あいつはお前が居なくても
やっていけてるってことぐれぇかな」
「そうだな・・・」
「俺達ゃまだ若いんだからよ。いろんなことがあるさ・・・」
そう言って笑う跡部は、心底優しかった。
次の日の夜。不二は、手塚の家の前へ行き、携帯で電話をかけた。
窓の下にいる不二を見つけて、手塚が慌てて家から出てきた。
「こんな遅くに。。。危ないじゃないか・・・」
「・・・大丈夫だよ。手塚ってば心配性だね」
そして二人は、近くの公園へと歩いて行った。
「久しぶりだな。こうしてここに二人して来るの」
「あぁ・・そうだったな」
「誕生日おめでとう。手塚」
「あぁ・・覚えていてくれたのか」
「当然・・・」
今年も大変そうだったね、と昼間の女子学生からのプレゼント攻撃を
思い出して、不二が笑った。
「お前も人のことは笑えんはずだ」
「まぁね。それも、今年で終わりだよ」
「高校へ行っても続くだろ?」
「さぁ・・・どうだか」
空を見上げてポツリと言った後、不二は深く息をしてから
手塚の方へ向き、深く蒼い瞳を見ひらいて、真剣な顔で言った
「僕から君への贈り物はね・・・君の自由。
手塚、君を解放してあげる。僕にもう囚われないでいいよ」
一瞬手塚は目を見開いて、そして寂しさとも怒りとも驚きともとれる顔をして、不二に言った。
「どういうことだ・・・」
「そのまんまだよ。」
「何故?」
「疲れたんだ・・・それに気付いた・・・僕が好きなのは、手塚のテニスだってこと。
僕が手塚に抱いていたのは、恋愛感情じゃなくって、憧れだったんだって。
そんな僕が、君を恋人って言葉で縛っちゃいけないってことに・・・」
「不二・・・」
「僕は僕なりに頑張ってきたつもりだ。想いも伝えて、君を精一杯愛したつもり。悔いはない。
待ってた僕の元へ君は戻って来てはくれるけど、一緒に時間を過ごせるのは、いつもほんの僅かな間だけ。
君からは、一緒に居たいとか、好きだとか、言葉は何も返してもらえなかったよね。
憧れにしても恋愛にしても一方的ってのに・・・疲れたんだ。君にはテニスがある。
僕がいなくてもやっていける。現に、今だって十分に頑張ってるし。
春になると、また君は羽ばたいていく。その時、僕は、一人の友人として、君を送り出したいんだ」
「寂しい想いをさせすぎたのか・・・俺は。留学の話も俺が直接話さなかったからなのか?
もう、どうにもならないことなのか?」
「手塚・・・君の一番大切なものは、今は僕じゃなくてテニスだよ。その気持ちを大切にして、
向こうへ行っても頑張って欲しい。」
「俺は・・・お前に甘えすぎていたのかもしれない。与えられるものばかりに満足して
与えてやるということに気付かなかった。お前に対する甘えも、好きだから許されると思っていた。
お前が傍にいるのが当然と胡坐をかいてしまっていたんだろう・・・すまなかった。。。」
「謝らないで・・・僕は、君にたくさんの思い出をもらった。
君を一生懸命好きでいれたことは、僕にとってとても大切な想いだから・・」
「お前にとって、俺が一番ではなくなっても、それは俺にとって自業自得なんだろうが・・・
迷惑かも知れんが・・・今度は、俺がお前を追いかけることになるかもしれない」
「駄目だよ。手塚・・・君は、もっと大きくて、高いところのものを目指すんだよ」
「何故だ・・・俺はお前を愛している。本当だ」
「違う」
「俺がそうだと言っている」
「君もいつか・・・本気で誰かを好きになったら分かるよ・・・」
「不二・・・何故そんなことを言う・・・誰か好きな奴でもできたのか?」
「居ないよ」
「じゃぁ・・・」
「手塚。お願いだ。冷静になって・・・」
「好きだ・・・不二。俺は・・・お前が好きだ」
「けど、それは愛じゃない・・・手塚・・・」
「不二っ」
「憎しみ合って、嫌いになってする・・・さようならじゃないから・・・ね」
優しく紡がれる不二の言葉が、手塚の心に染み渡った。
不二にそこまで決心させたものは何か・・・
不二をここまで頑なにしているものは何なのか
そして、何故・・・こうなってしまったのか・・・
考えてはみたものの、そこまで追い詰めたのは、他の誰でもない自分だったから・・・
既に、不二の瞳は、自分を通り抜けてその先を見ていて、決意の固さを物語っていた。
これまで苦しめてしまっていた分、せめて最後は、不二が決めた心を、大事にしてやろうと思った・・
今更ながらに、菊丸の言葉が頭の中を駆け巡った・・・・
諦めとともに、がっくりと肩を落とした手塚に「ありがとう手塚」と言って、不二は左手を差し出した。
最後の握手・・・
受ける手塚の思いは、複雑だった・・・・
目指して・・・頂点を・・・
それが、恋人しての不二からの、手塚への最後の言葉だった
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