本当A
それ以降、不二は忍足とよく一緒に時間を過ごすようになった。
最初の2〜3回は、不二からの会いたいコールだったが、
それからまもなく、お互いがどちらともなく呼び出すようになっていた。
だからと言って、先約があればお互いそれを優先する。
けれど断るにしても、気を遣うという雰囲気はなく、ごくごく自然なものだった。
単に帰りにお茶をしたり、映画を観たり、公園でまったり、ただただ、くだらないような
話をしたり。そんな些細な事が、不二の心を満たしていった。
「な〜んか最近、不二が居ないからさー、ナンパの成功率悪くって・・」
暫くぶりに会った千石が、苦笑いをしながらこぼした。
「よく言うよ・・」
「ほんとだってばさ、でも、最近なんか楽しそうなとこ見たら、なんかいいこと見つけたのかなって・・・」
「えっ?」
「俺達と居てもさ、結局、それは不二にとって、その場しのぎにしか過ぎないってことに、
やっと気づいたのかなってね。まぁ、俺としちゃあ気付かないままでも良かったんだけど・・」
千石が苦笑いをした。
「ありがとう・・・千石」
「いいってば!それよかまた、気が向いたら一緒に遊ぼうよ」
「あぁ」
「大事にしなよ。折角見つけたその、なんかいいことを」
「あぁ」
今まで不二は、相手の思いばかりを優先させてきていた。
別にそれが嫌だったわけでもなく、相手を想えば当然と・・・そうしてきた。
手塚に想いを告げ、受け入れられて以来、肌を合わせる時以外に
手塚から甘い言葉を受けたことが、不二にはなかった。
それでも、手塚は不二を裏切るわけでもなかったので、不二はそれで十分だった。
それで十分だと、思おうとしていただけかもしれないが・・・
けれど、忍足は違っていた。
一緒に行動するようになって、暫くすると、お互いを名前で呼ぶようにしようと言った。
ドンドン自分のペースで、不二の心に入り込んできたと思えば、あるところでは
きちんと線を引いているようで、不用意に踏み込んできたりすることはしなかった。
「周助のその表情が好き」とか「その瞳がええな」とかと言ったかと思えば
「おまえのそういう性格は、やめなあかんで」と言いにくいこともきっぱり言う
「周助に用がなかったらでええんやけど・・・・」といいながらも
「今日はお前に会いたいねん!」と強引に誘うときもある。
不二のお願いにも、なんだかんだ言いながらも「しゃーないなぁ・・・ええよ」と
頭をクシャっとしながら、微笑んで答えてくれる
別れ際も、喪失感よりも、その日一日の充実感と、次に会うときの期待感の方が強く、
寂しく感じることはなかった。
そして、不二は、自分の気持ちの本当が、どこにあるのかじっと考えるようになった・・
「手塚ってば、ほんとにいいのか?このまま不二をほったらかしにてさ」
菊丸が放課後、教室に一人で残って日誌を書いていた手塚に話しかけた
「仕方あるまい。俺はあいつの相手をしてやれん。あいつの時間をどう使おうが
それは不二の勝手だろう。相手をしてやれん俺がとやかく言う問題でもない」
「それってどういう意味だよ・・・もうどうでもいいってことか?」
「そうは言ってない?どうしようもできんことは、仕方ないと言っているだけだ」
「それってホントにどうしようもないことなのか?どうにかしようと思えばどうにかなることでも、
不二がいっつも無理言わないで我慢して笑ってるから、それに甘えてるだけじゃないのかよ」
そういう菊丸は、少し涙ぐんでいた。
「どれだけ不二に寂しい思いさせて、我慢させて、待たせたら気が済むんだよ。留学の話だって、
あいつ、よそから聞いて知ったんだせ。なんで自分の口から、言ってやらなかったんだよ。信じらんない。
なんか不二に恨みでもあるわけ?逃げて、傷つけて、決断するのはいいけどさ、一言もなしに決めた上に、
言いにくいことだらって言わないのはひどいよ。手塚がそんな奴とは思わなかった。もう知らないかんな!」
ずっと傍で不二を見てきた菊丸にも、相当の思いが溜まっていたのだ。
我慢していた分、吐き出された言葉の意味は深く思いものだった。
思いの丈を吐き出した菊丸は、手塚を一睨みしてから、走って出て行った。
会えないのを寂しがっているのは自分もなのだ・・・と思いながらも、菊丸の一言一言が
手塚にとっては、ショッキングだった。
確かに自分勝手に決めて、言い出しにくかった留学の話も、結局は、言えずにいるうちに
大石からそれを聞いた不二の方から「よかったね。がんばって」と声をかけてきたのだった。
「不二?」
暫く動くこともなく、ただボォッとしていた手塚は、ふと見ると廊下からこちらを
覗いている不二を見つけた。
「ごめん、邪魔かな?」
「いや。大丈夫だ」
「明日・・・・忙しいかな?」
「明日は、留学先のコーディネーターと、竜崎先生との打ち合わせがはいってる」
「そっか・・・夜は?」
「遅くならずに帰るとは思うが?」
「ん・・・じゃあ適当に連絡するよ」
「すまない」
「いいよ。じゃあね」
「あっ・・不二」
「何?」
「今日はこれから・・」
「今日は、裕太が帰ってくるんだ。姉さんが車でもう門まで来てるから」
「そおか」
「じゃあね」
「あぁ」
一人残されるということを、しみじみ感じる手塚の頭に、菊丸の言葉が響いていた・・・
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