本当@























僕が手塚と別れたのは、別にお互いが嫌いになったとか、そんなんじゃなかった。








手塚が、あの氷帝の一戦以来、怪我で悩まされているときも

僕は、僕なりに精一杯、彼を支えたつもりだし、

手塚が、可能性を求めて治療をしに、幾度か僕の元を離れて行った時も、

彼のいないチームを支えたつもり。










僕は、テニスをする手塚・・・強い手塚が好きだったから、

そのためには、仕方ないと・・・寂しい心に虚勢を張って、旅立つ彼の背を押した。










彼を信じ、回復の願いを込めて、その背を押して送り出す・・・


彼を信じ、寂しさを我慢し、回復を祈りながら、その帰りをひたすら待つ・・・






彼が戻って、喜んで、嬉しいはずなのに、

今度はいつまた、いなくなるのかと、不安で溢れそうになる心を抱えて、

それを隠して自分を押し殺す・・・









そしてまた・・・









我慢の限界だったのかもしれない。

僕自身の、崩壊のカウントダウンが、始まろうとしていた矢先だった










手塚がテニスで留学するという話を耳にした。

それも、本人からではなく、他人を通して・・・





何故?

どうして?





真っ先にとは言わなくても・・・

なぜ、直接、話してくれなかったのか・・・

彼にとって、僕は何なんだろう

自分自身から、彼への間の距離に、大きな隔たりがあることを

僕は、認めざるを得なかった。

そして、それを認めたその瞬間から・・

僕の、彼への想いの崩壊の、カウントダウンが静かに始まっていった。



















手塚が好きだから。

彼と共に、時間を過ごしている時は、幸せな気分で満たされる

けれど

一人になると、途端に、そこはかとない恐怖にも似た寂しさに苛まれて、

僕は、奈落の底へ突き落とされる。

彼と過ごす時の、心の甘い疼きに溺れたくて・・・その快感に酔いたくて、

僕は彼の傍から、離れることがなかなかできなかった。

大会が終わってから、幸せと奈落との格差が一層大きくなり、

生徒会や、留学の準備、部長業務の引継ぎとかで忙しい彼と

一緒に過ごす時間は、極端に減り、奈落の恐怖を味わうことが、どんどん増えていった。

ラケットを持つ気もしないまま、引退しても部活に顔を出す英二や大石達とは違い、

放課後、僕はすぐに下校して、千石のナンパに付き合ったり、マージャンしたり、

カラオケ行ったりと自分でも自堕落と思える生活を暫くしていた。


















その日、忙しそうにしている手塚に『一緒に居たい』の一言が言えず、

不二は、寂しさを抱えたまま、当てもなく町を歩いていた・・







「あ、不二やん」

と、聞き覚えのある声が、不二を呼び止めた。

「忍足・・・」

「久しぶりやな」

「そうだな」

「自分らも引退か?」

「あぁ。君達も?」

「そぉや。跡部は、もう高校の部の練習に、参加しとるけどな。」

ニッコリと笑う忍足の顔は、少年みたいに眩しかった。

「跡部らしいな」

「ホンマに・・・お前んとこの部長は、留学するんやて?」

「ん・・・らしいね」



瞬間、不二の表情が曇ったのを、忍足は見逃さなかった。



「ごめん。悪いこと聞いてしもたみたいやな。堪忍。自分、一人で、こんな時に

こんなとこ歩いてるねんから、俺ももうちょっと、気ぃつけたらよかったわ・・・」

心底すまなさそうに、忍足が言った。


「え?気にすることはないよ」不二は微笑んで忍足に答えた

「無理せんでええやん・・」

「してない」

「嘘つけ・・・泣いとるやん」

「泣いてない」

「泣いとるって、・・・ここが・・・」



そう言って、忍足は不二の胸を、人差し指でチョコンと突いた。



「何言って・・・・」不二が言いかけた時

つぅ・・・・っと、暖かい雫が、不二の頬から零れ落ちた。

「うわっ・・・ちょっと待って・・・」

忍足は、慌ててポケットからハンカチを取り出して、不二に渡しながら、人気の少ない路地へ連れて行った。








「まだこんな時間やからな、誰に見られるか分からんしな・・」

変な噂立ったらお前、困るやろ?と忍足が優しく微笑んだ

「忍足・・・」堰を切ったように、不二の涙は暫く止まらなかった。

「泣きたいだけ、泣いたらええよ」

忍足は、優しく不二を抱き寄せ、それ以上何も言わずに、腕の中で泣き続ける不二を見ていた。






張り詰めていた糸はプツリと切れた。

誰にも頼らずに握り締めていた拳を開き、

何かに縋るように差し出した手を

温かい大きなぬくもりが包み込んでくれた。

なぜ、突然出会ったこの男に、自分の心がここまで開放されてしまうのか

不二は分からないまま、ただ、差し伸べられた温もりに涙を流していた。






ひとしきりして、少し不二が落ち着いてから、

「大丈夫か?」と優しく尋ねた

「ごめん。迷惑かけちゃって・・・」

そう言う不二の目じりの涙を、忍足はそっと指で拭って

「さっきから言うてるやろ?無理せんでええって」と微笑んで言った

「ありがとう・・・君に言われて気が付いた・・・僕・・・かなり参ってたみたいだ・・・」

「気づかんふりしとっただけやろ?・・・こんななるまで自分追い詰めて・・アホやなぁ・・」

労わるように頭を撫でる忍足の手の感触が、不二の心にじんわりと染みた

「辛い思いしてるみたいやけど・・・ちょっと勇気出してみて、自分の思うようにやってみ?

ほんならそのうち、ほんまに自分にとって一番のもんが見つかるはずやから」






たまに、幼馴染の跡部の部屋で見かけて、言葉を交わすくらいの存在だった忍足からの

思ってもなかった優しい言葉に、不二は久しぶりに何か暖かいもので心までもが、包まれる気がした





「俺でよかったらいつでも甘えてきてや。どうせ閑やし・・・な。跡部よりは、聞き上手やと思うで?」




ぷっ・・・と二人は笑った。





「ほら・・・ええ顔してるやん。今の笑顔。やっぱり自分は、その笑顔が一番やな。

俺、不二のその顔好きやねんで」不二の頬に手を当てて、覗き込むように忍足は言った





それから忍足は、不二を家まで送って行った。





「お疲れさん。ほんなら、またな・・」と言う忍足に

「今日はありがとう。また・・・会えるかな?」と不二は言った。





「喜んで」そう言って忍足は、自分の携帯番号とアドレスを不二に教えて

「いつでも連絡してきてや、俺には、気は遣わんでええからな」

と言って、手をひらひらさせながら帰って行った。










その日、不二は、随分と久しぶりにぐっすり眠ることができたのだった。

























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