釣りをする人














「クスっ・・・」


「ん?」


「つくづく不思議と思ってね」


跡部と並んでソファに座り、TVの画面を眺めながら不二が呟くように言った。


「何がだよ・・・」




このところ、部活がオフの前日は、不二は必ずと言っていいほど、跡部の部屋で過ごしていた。

それは跡部からの暗黙の要求で、不二もそれを暗黙の承諾としていた。

まったりとした時間を過ごしていたのだが、たまたまつけていたチャンネルの中国史の番組で、

太公望の話をしている中、不二は顎を杓って跡部に突発的なネタフリの要因を知らせたのだった。




「それさ」


「はぁ?」


「向いてないと思うんだけどな」


「ンだよ」


「釣りさ」


「アーン?」


「だってさ、跡部。・・・気・・・短か過ぎ・・・」クスクスと不二は楽しそうに笑った。


「うっせーよ」拗ねたように跡部は言ってから「知ってるくせによ・・・」とそっぽを向いた。








跡部の多彩な趣味の一つに、フライフィッシングがあって、何度か不二は跡部家所有の別荘の

近くにある渓流にそれを目的で連れて行かれたことがあった。

流れるようなロッド捌きに、見事に綺麗なフライを、自在に操る跡部に、思わず

見惚れてしまうほど、流れに向き合う跡部は清清しく美しく気高く、不二には眩しいくらいだった。







「分かってるけど・・・」と不二は跡部の部屋の一部の特製のガラスケース内に綺麗に飾られている

ロッドや様々なフライに目をやりながら「だから尚更なんだ」と言った。


「どーゆー意味だよ」


「そのまんまさ」












「クスクス・・・」笑い静かに笑い続けている不二に


「言っちゃぁなんだけどよ・・・気が短い奴のほうが向いてんだぜ」少し得意げに言う跡部に


「え?」


「釣り」


「へぇ」


「へぇじゃぇねよ」


「じゃ、説明してくれよ」


「気が長ぇーんだかボーっとしてんのか知らねぇけどよ・・・釣れなくってもバカみてぇに

動かねぇだろ?そういう奴ってよ・・・・」


「あぁ・・・」


「気が短けぇっつーかフットワークのいい奴っていうのはな、ちゃんとマメにポイント変えんだよ」


「あぁ、なるほどね・・・そういう考え方もあるんだ」納得したように言う不二に


「ってか、そうなんだよ!」と跡部が言った。










「でもさ、太公望って自分の探し求めてた人物に出会うまでずっと同じとこにいたんだろ?」


「そりゃ目的が全然、違げーよ」跡部は苦笑いしながら言った。


「ふーん」


「魚じゃねぇだろ?目的は・・・人だろ?魚を釣るんじゃなくて、人を待ってたって意味合いだろ?

えさもつけずに釣り糸垂らしてんだからよ・・・そういうんで、意味は全然違がってるってことだ」


「そっか」


「ったく・・・・バカじゃねぇの?」ニヤケて言う跡部に


「うっさい」拗ねたように不二が言った


フフン。と笑う跡部に


「ま、どっちにしても、やっぱ君と釣りはミスマッチ」と不二がしらっと言う


「をい・・・」


「格好いいけどね・・・君のロッド捌きはさ・・・でも、太公望っていうなら彼みたいな

釣りのやり方は君のイメージじゃない」


「相変わらず意味不明だな・・・お前」


「跡部景吾って男は、は待ってるっていうより、自分から探し物があったら

向かってくってタイプだってことさ」


「あぁ・・・なるほどな・・・」


「でさ、それでダメなら、いっそのことって感じで殺しちゃいそうだし・・・ホトトギス・・」

開眼しながら言う不二に


「お前さ・・俺を何だと思ってんだよ」と跡部が真顔で言った


「生まれ変わりかな・・・いつかの時代の誰かさんの・・・」


「ったく・・・」


「いいじゃん・・信長だよ・・・」


「けっ・・・」吐き捨てるように言う跡部に


「あれ?暴君ネロの方が良かった?」と楽しそうに不二が言った


「お前なぁ!」


「うそ、うそ。冗談」


「ったく・・・・いい加減にしやがれ」フテる跡部に


「僕達ってさ・・・・太公望とか・・そんな例えられるようなものじゃないよね」

と不二がしみじみ言った


「ん?」


「探して・・・待ってたわけでもなく・・・まして釣ったわけでもないじゃん・・・」


「あぁ」


「お互いがさ・・・惹かれあって、今に至ってる」


「あぁ・・・っていうかよ・・・」


「え?・・何?」


「初めっから『対』だったんじゃねぇ?」違うか?と言う跡部に


「かもね・・・・」と不二が答えた

そして「じゃぁ離れるなんて、在り得ないこと?」と言う不二に


「当たりめぇだ・・・・」と跡部が返した


「クスクス・・・何?跡部・・・たまにはいいこと言うじゃん」

といたずらっぽく笑う不二に


「をい・・・たまにとはなんだよ・・・」と跡部が苦笑いしながら言った


「クスクス・・・・愛してる」





「あぁ・・・・俺も・・・・」





クスクスと、暫く続いた不二の笑い声は、

次第に甘い声と吐息に変わっていったのだった・・・

























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