チラリズムの誤算















「・・・ったく・・・」


「え?」


「はぁ・・・っ。冗談じゃねぇ・・・」








目の前で、盛大に溜息をつかれて、組んだ足に肘ついて、頭を抱えたまま憮然とした表情で、

ソファに座ったままピクリとも動かずに、下から自分を見上げている跡部に、不二は、

理由が分からず、困惑したまま苦笑いを浮かべて、跡部からの言葉を待っていた。





「・・・俺様としたことが・・・」小さく呟いた跡部の言葉に、不二は


「さっきから一体どうしたのさ・・・」と尋ねた。




「お前さ・・・その下に、Tシャツ着ろ」

不二の質問には答えずに、跡部は不二に言った。


「はぁ?」


「耳、遠いのかよ」


「聞こえてるよ!跡部こそ何だよ、イキナリ。意味不明!」


「シャツ着ろっつてんだよ」つべこべ言うなと、跡部は不二に言う。


「冗談じゃない。透ける生地じゃないし、第一、暑苦しいだろ」

口を尖らせて、不二は跡部に抗議した。


「着ろっつてんだから着ろ!」


「うっさい!ヤなものはイヤ!」


しばしの睨み合いの後、



「あぁ、そうかよ!だったら、今日は行くな!」一歩も引く様子もなく、跡部は言った。


「何それ?!ばっかじゃないの!」付き合ってらんないと言って、

不二は、跡部の部屋を出ようとした。





「待てよ!」跡部は、不二の腕を掴んで引き止める


「放せっ!」不二は、それを振り払おうと、力を込めた。






「朝から、キャンキャンうっせーんだよ」

そう言って、跡部は不二の唇を、自分のそれで塞ぐと、強く抱きしめて、

蕩けるような、濃厚なキスをした。




「んっ・・・・ふっ・・・」

ガクリと力が抜けた不二を、ソファに寝かせて、手早くシャツを捲り上げると、

跡部は、不二の白い柔らかな脇腹に、噛み付くようにしてチュッと吸い上げた。


チリッっと、所有の印を刻む痛みに、不二は、はっと我に返って身をよじるようにして、

「何やってんだ!」と、大きな声を上げた。



跡部は、何も言わずに、不二を強く押さえつけたまま、反対側の腰の辺りにも、

また一つ印を刻んで、不敵な笑みを浮かべたのだった。






解放された不二は、朝からの跡部の不可解な行動に、すっかりご機嫌を損ねた様子で、

登校途中の車の中でも、一言も口をきかなかった。








「大人しくしてねぇと見えるぜ?」

並んで黙って歩いていた廊下から、自分の教室に入ろうとした不二の耳元で、

跡部は小さく囁いて、不敵な笑みを浮かべたまま、さっさと自分の教室へ行ってしまった。



「え?」

一瞬、唖然としてから不二は

「待てよ!跡部!!」と叫んだが、既に跡部はいなかった。


「どないしたん?朝から大声あげて、おまえらしないなぁ」

背後から掛けられた声に、不二は振り返ると「おはよう」の挨拶もなしに、

カバンを持ったまま、もう片方の手で忍足の腕を掴むと、おもむろに走りだした。


「ちょっ・・・不二・・・なんやねん」


登校してきた生徒達の注目を浴びながら、不二は階段を一気に駆け上がって、屋上へやってきた。






「どないしたんや・・・」心配そうに不二を見る忍足に、泣き怒りのような顔で、

不二が黙って自分のシャツを引き上げた。



「わわっ・・・」忍足は、心臓が飛び出るかと思うほどの驚きで、思わず顔をそらして叫んだ。


昨日までの冬服とは違うのだ・・・これ以上ない不二のセクシーポーズ・・・




「ごめん、忍足。悪いけど、ちょっと見てくれないか?これ・・・」

不二の困ったような声に、忍足は、大きく息をしてから、ゆっくりを不二の方へ顔を向けた。







「わっちゃ・・・」

素っ頓狂な忍足の声が屋上に響く。




「こっちもだ・・・」

そう言って、不二は片手でシャツを上げ、もう片方の手でズボンと下着のウエスト部分を引き下げた。




なだらかな腰から、際どい窪みにかけてのラインが、朝陽の下に曝される・・・


「わわっ・・・」

次々と忍足に襲い来る不二のリーサルウェポン

忍足は、今朝のこの瞬間で、一日のエネルギーを使い果たしたかと思うほどだった。










「あらぁ・・・」

そして、不二が自分に見せようとしたものを目にして、今度は、溜息交じりの呆れ声を上げた。






「酷いと思わないか?あのエロ跡部・・・」完全に拗ねてしまったように、不二が忍足に愚痴る。





「気持ち、分からんでもないけどなぁ・・・」思わず呟いた忍足に


「何が分かるんだ?僕の気持ちか?それともあのバカの気持ちか?」

と、不二はまくし立てた。






「いや・・・まぁ・・・それはやな・・・」と言ったきり、忍足は頭を抱えてしまっていた。












『厄日や・・・俺の今日は終わった・・・何で俺が、跡部のケツ拭きせなあかんねん・・・
 
矛先ちゃうやろ・・・不二・・・ホンマ、頼むわもぉ・・・堪忍してぇな・・・』











「はぁ・・・っ」と、溜息をついてから、忍足は不二を見て

「あいつのやったことを、どうこう言うても、しゃーないもんはしゃーないやん。

とにかく、それを、人目に曝したなかったら、白々しいけど、そこに絆創膏でも貼ってやな、

むやみに手とかあげへんようにせなあかんやろ?」と言った。


「ん・・・」忍足の言葉に、不二も徐々に冷静さをとりもどしていく。


「部室行こか?保健室はまずいやろ」


「ん・・・」












「あいつも素直に言えばええのに・・・」

不二に救急箱から出した絆創膏を渡しながら、忍足は呟いた。


「ん?何を?」


「お前の身体を見せたないっちゅーんをな・・・」


「そんな・・・無理だよ」呟く不二に


「それは分かるけどなぁ・・・あいつにとったら、命より何より大事やん。お前が・・・」

忍足は、諭すように話続けた。

「せやけど、それを素直に口に出して言う性格ちゃうやろ?とくにこういう類のことはな」


「ん・・・」


「言うとおりにしたれとは言わんけど、ちょっとは、気持ちも分かったられへんか?」

ポス・・・と、忍足は不二の頭に手を置いて言った。






「はぁ・・・・っ、困った君だね・・・」しょうがないな・・・と、

不二は、苦笑いをしながら忍足を見上げた。



「けど、好きやろ?」優しく言う忍足に


「ん・・・」と不二は、頷いて答えた。








『掌中の玉て・・・ほんまに・・・跡部が不二を大事にしてる、こういうことを言うんやなぁ・・・・』

忍足はふと思った。











「あーあ。けど夏服って、始まったばかりじゃないか・・・」と呟く不二に


「ほんまやなぁ・・・」と答えながら『先、長過ぎや・・・』と心の中で呟いた。


「それに、毎年こんなだったらって思うと、ゾッとする」


「ほんまになぁ・・・」『跡部に早よ免疫つけてもわらんと・・・・』






朝の部室に、二人のため息が、深く深く響くのだった・・・





まだまだ、夏はこれからが本番。

それにしても、忘れてませんか?お二人さん・・・

夏は、プールがあるんだよってことを・・・・

















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