男子のたしなみ
















氷帝は、例年通り、インターハイ出場を、個人と団体戦で決めていた。

連日の予選による試合の連続から開放され、自主練習の今日、

部室を訪れる者はなく、実質オフみたいなものだった。




1年生を除いては・・・




「今日は、僕達だけだから、コート使いたい放題だな」

着替えをしながら、ロッカーの前で楽しげに言う不二に、



「ほんまに、他人からしたら、俺らごっつ練習熱心に見えるはずやで」

と、忍足は、それに笑いながら答えた。





中等部時代では、考えられない光景。

誰もが、着替えをしている自分自身や、チームメイト達を思いながら、心の中で

苦笑いをしていた。



あの頃の自分達は、チームの勝利の為・・・とは、言いながらも、結局は心の奥のどこかで、

自分自身のプライドのために戦っていたところが、ほとんどだった。

だから、自主練など、全員で参加したことなど今まではなかったのだ。



特に、跡部に関しては、いつも、おかかえのコーチ達による特別メニューで、

校内での練習は、必要最低限。部長として顔は出すものの、

本当のところの重要な練習は、個別で行っていた。





それが・・・・

不二という存在が、一人加わっただけで。

何もかもが変わってしまっていた。

気が付いたら、それまでずっとそうだったように、

皆が自然に集まってくるのだ・・・


跡部と不二の二人の元へ。






そして、今日も、

「コート、貸切だよ?」

の、不二の一言に、気づけばこうして、皆が集まって来ていた・・・・








「帰りに、駅前のス▲バ行こうぜ〜」と、ジローが言ったのを受けて、


「じゃあさー。ゴチ賭けようぜ」と宍戸が提案し、


「ノルノル〜」と、皆が口々に言う中、




「あれ?・・・財布どこに入れたっけ?」

と、財布の所在を確認した不二が、突然、何かを思い出したかのように跡部に体を向けた。


「ん?」と、その気配に首を傾げて不二に向いた跡部に、


「あ・・・跡部」と、言ってから、不二は、手のひらを差し出して、

「ゴム」と言ったのだった。


「アーン?使っちまったのかよ」

差して驚くわけでもなく、それに答える跡部。




二人のこの会話に、それまでヤンヤと騒いでいた他のメンバーが、一斉に口をつぐんで石化した。




「なぁ・・・不二よ・・・ゴムって・・・」

と、恐る恐る尋ねる宍戸に、


「ん?ゴムだよ。何?今更・・・。男子のたしなみ。常識だろ?」

と、事も無げに答えた不二は、跡部に続けて言った。

「使ってないよ。昨日、英二に会った時に、ちょっとそういう話になって、

僕の持ってるの見せたらさ、使ったことないって言うし、じゃぁ、試しにどうぞって、

あげたんだよ。」


「あぁ、あれか?甘ったるい匂いのするやつ・・・」跡部が眉間に僅かに皺を寄せながら言うと


「そうだよ。最後の一個。君には不評だったけどね。女の子って、あぁいうの好きみたいだよ」

と、不二が言った。


「ちげーよ。匂い自体も好きじゃねぇけど、俺様には、ちょっとばかり小せぇんだよ」


「見栄っ張り!」


「見栄じゃねぇよ!」


「ムカツクなぁ・・・」


「ちょい、待ちぃ」

ようやく石化が解けたような忍足が

「こんなん言うたらあれやけど・・・それって使うンか?・・不二が」と、尋ねた。


「失礼だな、忍足。僕も男なんだけど?」と不二が答えた。

「まぁ、ここ最近は、用がないけどね。」と付け加えて・・・

「けど、跡部の使っても、大きいとは思わないけどな!」と、勝ち誇ったように微笑んでいる

跡部をにらみつけた。


「ま、その辺の詳しいことは、後で二人でよぉ話おうてやな・・・」

忍足は、何故か、気恥ずかしそうに言葉を濁す。


「いや・・・そういう話題がよ・・・イメージに合わねぇって・・・」と宍戸は困ったように呟いた。



「それよか、不二って経験済み?」と、向日が尋ねた。


「え?何がさ?」と不二が答える。


「だから〜〜ほら・・・」と言う向日に


「え?・・・あぁ・・・初めては、跡部だ」

と不二は、跡部のほうをチラッと見ながら答えた。


「んなことわかってるよ!じゃなくてさ・・・」と、含みを込めて言う向日に


「あぁ・・・そっちのほうか・・・もちろんだよ」と不二が答えた。


「もちろんだよって・・・?」と皆が頭を傾げた


「どうかした?」と不二が言うと、思わず全員が無言で頭をブンブンと横に振った。






「なぁ〜、ぶっちゃけ、跡部にはいつ奪われたん?」と忍足が聞いた。


「え?・・・言ってもいい?」と、不二が跡部を見る。


「好きにしろ」と、跡部が呆れたように言うと、


「6年の時」と、不二が答えた。


「へぇ〜、跡部らしいな」と、忍足は、妙に納得したように頷きながら呟いた。


「悪いかよ!」と、跡部が、居心地悪そうに突っ込むと


「別に〜」と、忍足は、不敵に笑って、

「ほなら、童貞さよならしたんは、いつなん?」と続けて不二に聞いた。


「中一」と、その一言だけを、突き放すように、不二は言った。



それを聞いたほかのメンバーは、すでに目が点になっていた。



「その答え方は、詳細聞いても、教えてくれそうにはないな〜」と、忍足が言うと、


「そうだな。その辺は、黙秘権を行使するよ」と不二が答えた。


「なー、どっちの方がいい?」この時とばかりに。向日が聞く。


「え?そんなの、比較なんかできないし、するものでもないだろ。行為よりも気持ちの問題。」

そうじゃない?と、皆に向かって言いながら、不二はジャージを羽織った。


「ほらよ」と、跡部が、ポケットから出したそれを、タイミングよく不二に投げてよこしながら、

「自分の分くらい自分で買え!バカ」と、言うと、


「『女は、ややっこしいから持っとけって』言ったのは、君だろ?

ま・・・とか言いながら、結局、君が使うんだよね。予備みたい」と、不二が跡部をみやった。


「うっせー」跡部は、気まずそうに言った。




「跡部〜俺もちょうだい!」と、突然、ジローが不二の背中に飛びつきながら言った。

「はぁ?」と跡部が言うと

「だって、俺も使うようなことしたい〜〜不二と〜〜」

と、言うのと同時に、残りのメンバーも「俺も!」と言った。



「テメ〜〜〜〜〜〜らなぁ〜〜〜〜」

と、跡部の周りに、怒りオーラが出現すると同時に、不二がポソっと


「あのさ、皆・・・その冗談は、笑えないな」とジロリと睨んだ。


すまんすまんと、苦笑いする忍足たち。





「ってことで、ほら。跡部も、いちいち冗談に、目くじら立てない!」

と、なだめるように、不二は言って、跡部の背中に抱きついた。

「あのさ。分かってると思うけど、へそ曲げたら、ご機嫌とるの大変なんだよ?」

と、跡部越しに、みんなの方を見て言った。



不二の行動に、若干驚きながらも、嬉しさで少しニヤケ顔になりそうになるのを

堪えながら跡部は「テメーら覚えとけよ」とだけ言って、不二と先に部室を出て行った。






「え〜〜、オレ、結構マジで言ったのに〜」と悔しそう言うジローに


「ほんま、ジロー・・・お前は、洒落ならんで・・・」と、忍足はぼやきながら言った。


「オレ・・・なんか、すっげー、やな予感すんだけど?」と向日。


「ゴチゲーム・・・気をつけねーといけねーな」と宍戸も言った。


「早よ行こ。これ以上ご機嫌そこねたら、難儀や」と、忍足は出て行った。


「あ〜〜あ〜〜」と言うジローに




「おいおい・・・」と皆が突っ込んだ。








向日達の予想を反することなく、不二と跡部が勝ちを収め、

他の5人は、均等に散々な目にあった。

結局、カフェではなく、不二のご指定のイタリアンレストランで、

晩御飯をおごらされるはめになった。





「皆、悪いね。今日はご馳走様」ご満悦の笑みを浮かべる不二。


「ちったぁー懲りたかよ」と、跡部が、それにに続いて言った。




「はいはい、十分です」と宍戸。




ジローは、まだ納得がいかないみたいで、何か言いそうだったが、

それは、忍足が抑えていた。







「ところでさ、跡部。今日は、こっちに来てよ。いいだろ?」


「アーン?いいのかよ」


「いいよ。だれもいないし」


「わーった」

すっかり二人の世界が、出来上がっていた。








そして、「お先に・・・」と二人が帰っていった後



「俺らは一体なんやってん・・・奢らされにおったんか?」と、呟く忍足の傍で、


ジローはずっと、不服そうに、唇を尖らせていた。


そんなジローに向日が、名案を思いついたかのように、

「なぁジロー。別に跡部にもらわなくても、自分で買えばいいんじゃないか?」

と、言った。



「あ〜そうだった〜〜その手があったね」と途端に元気を出したジローは、

「じゃ!お先に!」と、とっとと帰っていってしまった。





「おい・・岳人・・あれは、まずいんじゃねーか?」と宍戸が言うと、


「跡部に知れたら、確実にシバキやな。ジロー・・ご愁傷ん〜」と忍足は笑ってから、。

「せやけど、オレは、何にも知らんからな」と、自分に言い聞かせるように、そして、

皆にも、念を押すように言った。


「オ・オレに知らない〜〜」と向日は反省しながら苦笑う。


そして、暫しの後、


「あっ」と忍足が声を上げた。


「何だよ!」後の二人のツッコミに、





「何て・・・ジローのヤツ・・・金、置いていかんかったやんか」







「え〜〜〜〜〜〜っ」










跡部に不二に・・・・

ジローにまでも、振り回される哀れな面子の、

後の祭の虚しい声が、小洒落た店に響くのだった・・・























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