contrary sympathiesA
吐き気がした。
あの、絶対神のような手塚でさえ、踏み入ってこなかった領域に
土足でずかずかと、何の遠慮も無く、入りこんでくるあの男の出現に
ムカつき、腹が立った・・・
不二は、帰宅すると直ぐに、母や姉の声かけにも、おざなりに応じただけで、
自室に引きこもってしまったのだった。
堅く封印しているはずの自分を
曝け出そうとしてくるあの男が
何者をも恐れない、あの男の目が
脳裏から離れない
バスルームへ走ると不二は、
とりあえずの吐き気を収めるために、
何も出るモノが無いと分かっていても、指を喉の奥へ突っ込んで、
胃の中にある、僅かなモノ全てを、無理やり吐き出したのだった。
「冗談じゃないっ」
熱いシャワーを頭から浴びながら、
滴る雫を見つめ、拳でバスルームの壁を殴った。
中学の頃から、たまに見かける度、跡部という男は、全く自分とは
相反するタイプの人間だと、不二は思っていた。
水と油
裏と面
決して混ざることはなく、全く異質のもの・・・
ところが、高校に入って直ぐに、自分を取り巻く女子生徒たちを
適当にあしらっている姿を見た菊丸に、しみじみと
「不二って、跡部みたいだにゃ」と言われ、いつになく、激しく
反論してからというもの、たまに試合で目にする跡部が、目障りで仕方なかった。
だから、
あの日、ばったりと出くわした跡部を、無視したのだ。
他の奴なら、そんなことはしない。
完璧なまでの、心も無いような笑顔を向けて、「やぁ」くらいは言ったはず。
忘れようとしていたところに、
わざわざやってきて、無視した理由を聞かれるなんて
放っておいてくれ
うざいにもほどがある
バカじゃないのか
次から次へと、怒りが湧いてくるのだった。
何様だと思ってるんだ・・・
もう一度、拳で壁を殴ってから、不二は、全てを脳から排除するように
頭を振ると、浴室から出たのだった。
自分に負けぬほどの浮名を流す男、
天才と謳われるほどのテニスに学力
あの手塚が、越前が
一目も二目も置く存在
真意を伺うことができぬ、あの笑顔
その完璧な微笑みは、神さえも、欺いてしまうだろう・・・
かねてから、気にはなっていた。
そして、突然出くわしたのに
こともあろうに、その男は
自分を無視したのだ。
あり得ない
跡部は思っていた。
あの上品な口元から、
ガキは面倒だ、という言葉を吐かれ、
無粋と言われ、
デリカシーが無いと言われた。
そして、
決して従わないと・・・
何様だ?あいつ
全く、自分に興味の欠片さえも示さない。
今まで、そんな人間は、一人もいなかった。
この
天下の跡部景吾に・・・
自分が相手を、無視することはあっても、
自分がされたことは、おそらく、それが生まれて初めてのことだっただろう
それほど、インパクトあったのだ。
あの、似非笑顔の化けの皮を剥いでみたい・・・
言いようのない征服欲と支配欲が、跡部の中に沸き起こるのだった。
以来、跡部は、事あるごとに執拗に不二を追い詰めていった。
不二は、それを完璧なまでにかわす。
手を伸ばして届くと思うのに、実際には寸前のところで逃げられてばかり。
「なんや、欲しいモンが手に入らんっちゅーて、意地になっとるガキんちょみたいやな」
最近の跡部の、らしからぬ行動に、ある日、忍足が笑いながら呟いた。
「うるせぇ・・・」
「せやけど、ストーカーの一歩手前やん」
「だと?」
「ま、あいつにしても、あそこまで、なんでお前を毛嫌いしとるんか、分からんけどな」
初めてちゃうんか?片思いと、忍足は笑った。
「殺すぞ」すっかり不機嫌になってしまった跡部に、忍足は
「手に入らんから、欲しいだけなんちゃうんか?」と尋ねた。
「はぁ?」
「お前は、今まで何でも手に入らんもんは、なかったやろ?初めてなんちゃうんか?
自分の言うことも聞かへん、手にも入らんっちゅーの」
まじめな顔で言う忍足に、跡部は、一瞬考え込むような顔を見せた。
「そないに追わい回して、どないするつもりや?っちゅーか、どういうつもりで
そこまであいつにこだわっとるんや?ちょっと一遍、自分な、冷静になったほうが
ええで」
まさにその通り・・・
跡部は、言い返すこともせず、忍足の言葉をじっと考えるのだった。
「いつの間に、跡部と仲良くなったのさ?」
このところ、連日のように、校門で待ち伏せされてる不二に、菊丸が
お昼の弁当をつつきながら尋ねてきた。
「え?」
「意外だにゃ〜」独り言のように呟く菊丸に
「英二?誰と誰が仲良しだって?」不二は、引きつった笑顔を菊丸に向けた。
「え?跡部と不二じゃん」と言ってから、菊丸は不二の顔を見て、
しまった・・・と思った。
明らかに、今の話題は、地雷みたいだった。
「あれ?・・・・ははっ・・・違ってた?」
「あんな傲慢な男と、一緒にしないでくれないかな?」
「あっ・・・そ・・・そーだよね。ははっ・・・ごめん、ごめん」
とりあえず、その場の雰囲気を納めて、菊丸は、ため息をつきながら
、
本気で嫌なら、もっと強く拒否ればいいのに、どこかゲームを楽しんで
いるかのような、不二の態度に、真意を探れないままでいた。
さっきまでの嫌のある顔つきと変わり、いつもの笑みを湛えながら
弁当をつつく不二の横顔を見ながら、謎だにゃ・・・と、心の中で呟くのだった。
テニス 強ぇ 強ぇ
べんきょー 賢い 賢いらしい
女 モテる モテる
顔 きれー 悔しいけど男前
家 金持ち チョー金持ち
イメージ お姫さま 俺様
王子様
怖いもん なし 多分ない
性格 なんか怖ぇ 怖ぇ・・・かな
授業中、ノートの隙間に、こんな走り書きをしながら
菊丸は、鼻の下にシャーペンを挟んで
一緒じゃん
と呟いた
分かってんのかな・・・不二。
ふっと不二を見て、その延長線上の窓の外を眺めて、再び呟いたのだった
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