contrary sympathies@
















ふつ・・・と

覚醒して、重い瞼をゆっくりと開く。

虚ろな視界が、徐々に明確になっていくのに

体は微動だにすらできなくて・・・

眼球だけを動かして

薄暗がりの中

周囲の気配だけを、うかがってみる。

鎖が絡まっているように

肢体は拘束されていて

でも

それはとても心地の良い拘束。

自分に絡みつく生身の鎖から感じる温もりに

触れている部分から、蕩けそうになる

幾度

こうして、朝を迎えたことだろう・・・









背後から感じる安らかな寝息に

不二はふっと首だけを動かそうとして、それも叶わぬことに苦笑いを一つしてから

諦めたようにまた目線を正面へと向けた。

大きなバルコニーのある窓にかかる、高級なレースのカーテンから篭れ落ちる月の明かりに

まだ夜も深いことに気づいて、小さくため息をついた。

嫌悪感を感じない程度に、しっとりとした肌

腰の辺りに当たるほんのりと熱と芯を持った、中途半端な隆起

そして自分を捕らえて離さない腕と脚・・・


不意に、意識を途切れさす前の行為を思い出し

甘やかな痺れが、頭の中に再現されて、

体の奥がズキンと疼いた。





綺麗に後始末をされている自分自身

到底、今、後ろから自分を拘束している人物からは、想像もつかぬ行為。

体中に散りばめられた所有の印

そこまで執着されるとは、思ってもみなかったこと




彼が
そう



この彼が





跡部景吾が・・・











眉の動き一つで、人を動かす男

気品溢れる口元を吊り上げて、うっすらと湛えられた不敵な笑みが似合う帝王が

こともあろうに、

自身の将来を賭けてまで手にしたのが






不二周助だった。










そういえば・・・・と

不二はふっと思い出す。










始まりは、最悪だったと・・・











10才も離れた年上の姉のおかげで、

付き合う女性は皆、年上だった。

中学のうちに、童貞を捨ててから、

後は、聞けば驚くほどの経験を積んできた。

見た目の清純そうな容姿に、友人達は勝手なイメージを作り上げていく。

それが・・・

現実の彼とは、遠くかけ離れているのだ

無理もなかっただろう・・・




テニスに勉学、

何をやっても『天才』といわしめる不二にとっては、

セックスも女あしらいさえも、容易に天才の域に達することができたのだった。

読めない

本心を決して曝さない笑顔を湛え、

悩殺してきた女性の数は、高校生となってからも、とどまることを知らなかった。

日本人離れした容姿は、見目麗しく、

妖しい淫猥さを醸し出す雰囲気は、男性さえも釘付けにするほどだった。

無駄な肉のない、しなやかな鍛え抜かれた肢体は、相変わらず細いまま。

身長は、高校になって170をようやく越えたところだった。

精悍だが、可憐さを含んだ美しさ、肩まで伸びた薄茶色の髪が

中性的で、なんともいえない曖昧な美となって、不二周助という男を輝かせていた。






その日も・・・

姉の友達の一人である美人OLに、有名ホテルでの食事に誘われ、

部活も休みだった不二は、洗練されたセンスの服装で、出かけていたのだった。


見事な立居振舞に、立っているだけでも匂い立つような気品、

的を得た会話に・・・と、年の差を感じさせない不二。

酔うような時間を過ごした彼女を、エスコートしていた時だった・・・

ホテルのロビーで、ばったり出くわしたのが、跡部だった。

跡部は、財閥の御曹司であり、青学のライバル校である氷帝の部長で、

お互い、中学の間から、全く知らない相手ではなかった。

ふっと合った目線。

不敵に微笑む跡部に、不二はピクリとも反応を示さず、

何も見なかったような顔のまま、視線をはずした。

そして、何事もなかったかのように、隣の綺麗な女性に微笑を向け、

誘うように出て行ったのだった。


そんな不二の態度に、跡部はムッとした。

「知り合い?」連れていた女性が、腕に絡みつきながら尋ねるのに、

我に返った跡部は「いや」と短く答えたのだった。

すれ違って、暫くして思い出したように口にした、連れの女性からの

「あれ?あの子・・・青学の不二周助じゃなかった?」と言う問いに

「見てなかった」と感心なさそうに答えたのだった。










そしてその翌日、



「おい」

と校門を出たところで、どこからともなくかけられた声に、不二は足を止めて

辺りに軽く気をやった。

「こっちだ」

ん?と声のするほうを向くと、黒塗りの高級外車が目に入った。

半分ほど開いた窓が、すっと下がって、その奥に、自分を射抜くような

瞳を向けた跡部がいた。

「何?試合の申し込みか?顧問なら、職員室だ」

「ちげーよ」

「あ、そ」不二は、「じゃぁ」と呟いて歩き始めた。

「待てよ」慌てたような声に呼び止められて

「何だよ」と今度は、面倒臭さそうに振り返った。

「お前に用があんだよ」

「僕にはない」

「俺があるんだ。乗れよ」

「用なら、ここで、今すぐ言え」

「はぁ?」

「知らない人の車に乗っちゃいけないって、今時、幼稚園の子でも知ってる」

「お前なぁ・・・」

呆れ返ったようなため息とともに呟く跡部に、不二はつかつかと近づくと、

身を屈めて、覗き込むようにして

「いつでも何処でも、自分の世界だと思うな。自分の思うままだと勘違いをするのは、

自分の世界だけにしておけ。僕のことは僕が決める。他人に指図は受けないし、

言いなりにもならない」つらつらと告げてから、さっと身を翻した。

「ふんっ・・・面白れぇ。上等じゃねぇか」跡部は楽しげに笑ってから

「ビビッてんじゃねぇなら付き合えや。取って食ったりやしねぇからよ・・・

逃げるなよ」と静かに言った。

「はぁ?」不二は徐に振り返って跡部を睨んだ。

「それとも怖いか?アーン?」

挑むようで試すような跡部の目を、不二はキッと睨みつけてから

「いいだろう」と呟き、跡部の隣に乗り込んだのだった。






「出せ」跡部の指示に、車は、ゆっくりと走り出した。

お互い前を見つめたまま、言葉を交わすこともなく、暫く沈黙が続いた。






「お前が、年増好きだったとはな・・・」突然ククッと嘲笑を含むように

跡部が沈黙を破った。

「ガキは面倒なんだよ」不二は、ムッとしたように呟いた。

「ま、それは言えてるな・・・」

「何だよ」

「説明しろよ。俺に気づいてなかったわけじゃねぇだろ」

「はぁ?」

「昨日だ」

「君は無粋者か?ああいう場面では、普通そうだろ」

「別に、関係ねぇんじゃねぇの」

「デリカシーがない男だな」不二は、心底呆れたように呟いた。

「うるせぇ」跡部は、むくれたように言ってから「そんな大事な女かよ」

と呟くように不二に言った。

「別に。食事に誘われただけだから、欲しけりゃどうぞ」不二は答えた

「要らねぇよ。ったく・・・」

「他人の庭は、赤く見えるらしいね。僕には、分からないけどさ」

「要らねぇっつってんだろ」

「あ、そ」

そっぽを向く不二に、跡部は一瞬言葉を詰まらせた。

調子が狂う・・・心の中で呟いた。

物心付いた頃から、自分の周りの人間達は、自分に傅き黙って従う者ばかりだった。

腫れ物を触るように、だれもが自分に接してきて、自分の考えが、そこでの全てとなっていた。

テニス部の仲間達でさえ、自分に対してタイマンのような態度をとるが、

それでも、一団のトップとしての畏怖や尊敬の念を、僅かながらも見せている。

自分に声をかけられて、尻尾を振らぬ女もいない。

自分に取り入ろうと必死になる輩ばかりの中。

それは、学園内にとどまらず、跡部景吾現るところでは、必ずそうだったのだ。

それが、

自分の隣にいるこの男は

今までの自分の法則が、まったく当てはまらない

それどころか、

全くこの男自体が、読めないのだった。

下手をしたら、自分の方が詰められて

いいように弄ばれているような、

そんな気さえしてしまう。

初めてだった

こんな華奢なみてくれの男に、

自分が食われそうになるのは・・・



けれど

どこか、違和感が拭えない・・・

きっとそれは、彼が今、自分に見せているその姿が

本当の彼ではないと、直感として感じているからだったかも知れない。





「お前・・・」言いかけた跡部に

「用がないなら、ここで下ろしてくれ。君が知りたかった事も分かっただろう」と不二が言った。

「送ってやる、乗ってろ」

と信号で車が停止した途端、不二はドアを開け「言ったろ。思う通りにはならないって」

と言葉を残して飛び降りたのだった。

「えっ・・・」と声もかけられないまま、不二は掛けて行き、直ぐにタクシーを止めると

それに乗り込んで行った。







「ふんっ・・・ますます面白れぇ・・・」

跡部はふっとそんな不二を見送りながら呟いたのだった。




















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