それぞれの・・・-後-



















「随分楽しそうじゃねーか」



「げっ。親父登場」千石が皮肉っぽく言った。



「あ、跡部・・・随分早いんだな」



「あたり前だろ、連れ込まれてからじゃ遅せーからな」



「何それ?随分な言い方だな」拗ねたような千石に



「うっせー」と跡部は上から見下ろして言った。


「座りなよ」と不二が自分の隣を空ける。



ふん・・・と言って、そこに跡部が腰を下ろした。



ふんぞり返って、肩に手を回して軽く引き寄せながら千石に牽制の視線を送る跡部の脇で

したいようにさせながら、不二はにっこりと微笑んでいた。

「久しぶりだな。三人でこうして会うのって」



「俺は不二と二人っきりでいいけど?」しらっと言う千石に



「おい!」と、跡部が身を乗り出して言った。



「はいはい。ここ、公衆の面前」さらっと言う不二に、跡部はムッとしながら元の位置に身を

戻した。

丁度、お冷を持ってきたウェイトレスに、跡部は不二の肩に回した手と反対の手を軽く上げて、

不要だと下がらせた。


そして、「ったく・・・気がわりぃ・・」と呟いて千石を睨んだ。




「個人Sじゃ不二の世話は俺が担当だね。もち跡部景吾公認で」



「やるなっつてもやるんだろ?」



「よく分かってじゃん」千石は笑った。



「・・・ったくよ・・・テメーも大概、しつけーな」



「お言葉だね。意外と俺は気が長いの。油断大敵だよ。跡部」



「言ってろ。泣きを見るのはテメーだ」



「最後に笑ったモンが勝つの。それに決めるのは不二だからね」



不二は微笑んだまま二人の会話を楽しんでいた。



「今はたまたま跡部。それにオレたち性格も体も相性バッチリだしね」



「千石・・・」



「話になんねぇな・・ったく・・・。帰るぞ」



「え・・・あぁ」


立ち上がる跡部を追うように、不二も立ち上がった。




「またね。不二。大会でね」

千石はそんな二人を見上げながら、相変わらずのマイペースな笑みを浮かべ、肩肘をついたまま、

もう片方の手をひらひらとさせて言った。



「今日はありがとう。千石」



「じゃあなー跡部」不二に向けるものとは全く違う、鋭い目線を跡部に向けて言う千石に



「うっせー」と言って跡部は、睨み返すと伝票を掴んだ。



「へぇ。ごちそうさん」と言う千石に



「テメーに借りは作らねーよ」

と不二のバッグを担ぎ、腕を引っ張って店を出た。





丁度、店を出たところで止まっていた跡部家の車に、二人は乗り込んだ。


跡部は、むっとしたように、流れる外の景色に目をやったまま、不二は不二で

それを気にすることもなく、ぼんやりと跡部とは反対の風景に目をやっていた。







暫くの沈黙の後、思い出したかのように不二が呟いた。


「クスクス・・・千石も相変わらずだね」



跡部は景色から不二に目線を戻して、ため息混じりにそれに答えた。

「ふん・・・一番タチが悪いのはお前だ」



「酷いな。それに千石は僕達の親友だろ?」



「俺はちげーよ」



「そおかな?」



「だいたい一線越えちまってる間で親友もくそもねーだろ」



「跡部・・・それってもしかして焼きもち?」



「んなわけねーだろ。」



「だよね。僕の居場所は君しか無いって、知ってるはずだしな」



「確信犯かよ・・・ったく、つまみ食いもほどほどにしとけ」



「あぁ、そうだな」



「アーン?やめるとは言わねーのかよ・・・やっぱタチわりー」



「そういう不二周助っていう男は嫌い?」



「・・・いや・・・目が離せねーだけだ」



「クスっ・・・じゃ、しっかり見ててくれ」


じっと自分を見つめる跡部の髪に、不二は手を差し出して、細い指先で梳いた。



「あぁ」

跡部はそんな不二の仕草に、満足げに微笑むと、不二の顎をすっと引き上げて口付けた。



「来るか?」瞳の奥で跡部が誘う。



「あぁ・・・」不二は静かに答えた。


車は不二家へ寄らず、跡部の家へ向かい、不二は家へ連絡をした。










跡部の部屋で風呂から上がって、ソファに並んで二人は、試合のこととかを話した。



「今日はいろいろ勉強になったよ」



「ん?」



「今まで、随分と試合をしてきたけど、必ず傍には皆がいた・・・」



「アーン?自分から個人にしてくれとか言っといて、もう泣き言か?」



「違う。君も手塚も千石も佐伯も・・・みんな凄いって思ったんだ」



「は?」



「確かに、今日は一人を痛感したけど、別にそれは嫌なことではなかった。

それより、勝っても負けても責任は自分の分だけですむ個人は気が楽だと感じたくらいだ。

でも・・・その分さ・・・団体はそうじゃないって・・・。特に、主将ってさ、皆をまとめる立場で、

全部の責任も負わなくちゃいけない。自分自身も含めて。そういういろんなプレッシャーに勝つ

跡部達って凄いって思ったんだ。到底僕には無理。考えられないってね」



「何言ってんだよ」



「何って・・・改めて君の偉大さを痛感したって言ってるんだ」



「はぁ?やろうとするかしねぇかの差だけだろ?」



「少なくとも僕には無理」



「何凹んでんだよ」



「ん・・・なんだろうな・・・内面的な強さの違い?っていうのかな・・・

見せ付けられた気がする」



「ばーか」



「バカかもね」



「あのなぁ・・お前がそう言ってる凄い奴らが束になって、躍起になって欲しがってるのは誰だ?」



「え?」



「お前だろ!」



「へ?」



「へ?じゃねーよ。そういう奴らを惹きつけるそのお前こそ、一体ナンなんだって俺は言いたいね」



「でも、僕は女の子じゃない」



「うぜぇ・・・女に何の価値があるんだ?」



「可愛いし、綺麗だし、気持ちいい」



「くだらねぇ・・・」



「そう?」



「根本がそういう意味とはちげーってことだ。お前のテニスにしたって、お前自身にしたって、

あいつらが欲しがるもんをお前が持ってるってことだろ」


「訳わかんない」



「だったらそれでいい」



「どうして」



「人それぞれ持ってるもんが違うってことだ」



「別にないものねだりしてるわけじゃない」



「自分が持ってねぇもんを持ってるヤツといりゃぁそれで済むことだ」



「人それぞれに果たす役割が違うってこと?」



「あぁそうだ、だから人を比べるとか、人を見てどうとか、ンなことはどぉでもいいってこと。

要は自分だ。自分がどうかってことだろ」



「なるほどな・・・で?跡部的にはどう?僕で足りてるわけ?」



「あぁ。十分過ぎるくらいにな」



「そっか・・・」



「俺は十分だけどな・・・ま、お前のことは俺が一番よく解ってらぁ・・・」



「跡部・・・」



「今はまだ足りねぇだろうがな、そのうち俺一人でお前の足らないもの全部を埋めてやる。」



「跡部・・・」



「で?今お前が欲しいものは・・・」

そう言って跡部は不二を抱きしめてキスをした。



「流石・・・君はちゃんとお見通しだ」



「当然だ」



「ん・・・沢山欲しい・・・」



「あぁ・・」



そして跡部は不二に埋もれ、不二は跡部に溺れていった。






それぞれの思いが絡まり

それぞれの想いが重なる




自分の求める者を持つ者

己が向かうべきところへ、それを求めてそれぞれが歩き続ける・・・





















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