背負うべきは背徳という名























これ以上ない・・・というくらいの熱を交わして

これ以上溶け合えない・・・というくらい、お互いの四肢を絡ませあって

静かなる闇の後に訪れる、緩やかなる光を向かえ

僕らは今、堅く手を握り合って

朝陽を望む海岸に立っている









背負うべきは背徳という名









「辛いか?」

短くだが、思いやりをこめた口調で、跡部は、傍らの不二に尋ねた。


「大丈夫」

包み込むように見つめる跡部に、不二は綺麗な笑みを向けて答えた。





「そうか・・・」


「あぁ」




言葉は短い

けれど、繋いだ手を、どちらともなく、さらに強く握りながら

昇りゆく陽を、二人はじっと見つめていた。







「なぁ」
「ねぇ」




時を同じくして、二人は互いの顔を振り向きながら声を出した。



「ん?」先にそれに答えたのは、跡部だった。


「いや・・・」不二は思わず口ごもった。


「言えよ」有無を言わせぬような跡部の声。

強く、揺ぎ無い口調だが、その奥に、溢れんばかりの優しさが込められていた・・・


「君の方こそ・・・」少し、俯き加減に言う不二に


「どーせ同じだろ?」と跡部は言った。






『やっぱり・・・』

不二は悟ったように心の中で呟くと、小さく息をしてから、跡部をじっと見つめた。





「ん?」

不二が口を開くのを、跡部は急かす様子もなく、静かに待つように言った。


「堕ちるのかな・・・」そう言ってから、不二は口を噤んで、暫くしてから

意を決したように「地獄に・・・」と続けた。





同じ性の体で

不毛な交わりを続ける自分達・・・

いくら、周囲から理解を得ていようと

禁忌を犯しているという背徳の念は、いつもお互いの心の奥につきまとっていた・・・





「さぁな」跡部は、一言言ってから、真上を見上げた。



「ま、それが嫌だとか思うのなら、最初っからやってねぇし・・・」

手の中の不二の手を、強く握りながら、跡部は独り言のように言った。






「別に・・・僕だって・・・後悔なんかしてないさ」

静かに言う不二に、跡部は、その真意を見透かしたように





「たとえそうなったとしても、俺は痛くも痒くもねぇよ」と言った。






「跡部・・・」不二が、はっと顔を上げて呟いた。







「これは、俺がそう望んだ結果だ。別に、お前のせいだとか、そんなことは、

これっぽちも思っちゃいねぇ。敢えて言うなら、お前が、そうやって辛気臭いことを

考えちまうことに・・・ちょっとばかり参るくらいかな・・・」

跡部はそう言うと、繋いだ手をぐっと上げて、不二の手の甲にキスをした。


「悪い・・・」







「跡部・・・」


「辛いか?」


「違う・・・」

不二は、跡部の頬に、空いている方の手を当てた。




「もし、たとえ、今すぐ地獄へ連れて行かれて、永遠の業火に焼かれるとしても・・・

僕は、君を愛したことを決して悔いたりしない・・・ただ・・・それに、君を道ずれに

してしまうことが・・・・・苦しいだけなんだ・・・」






「ばーか」跡部はそう言うと、優しい笑みを、泣きそうな顔と一緒に、不二へ向けた。





「お互いが選んだ時点で、俺達は運命共同体だ。これは・・・何人たりと、干渉できねぇ・・・

俺とお前だけの繋がりだ。だから、この件に関して、お前がそんなことを考える必要も

クソもねぇんだよ」






『時間の無駄だ』最後に跡部はそう言って微笑んだのだった。






その笑顔は・・・不二を酷く安心させて、包み込むものだった・・・







「誰の基準でそう決めるのか知らねぇけどな・・・背徳や禁忌なんてものは、

俺様の中じゃ、存在しねぇんだよ。だからな・・・お前は、なーんにも心配することは

ないんだ。俺を愛してるっていうなら、俺だけを見てろ。俺だけを信じろ。

迷いも憂いも、全部俺に包み隠さずぶつけてこい。俺が全部受け止めてやる」




跡部は、強く不二を引き寄せ、その身を自身の腕の中に収めた。






「悪い・・・」不二のつむじに顔を埋めながらポツリと呟く。


「え?」という不二に


「あと少しだけ・・・辛抱してくれ」と言い、


『何を?』と言いそうな不二に


「お前に、こんなことを思わせないくらいの男になるからよ・・・」

と、跡部は誓うように言ったのだった。







「跡部っ・・・」不二は、空いた手を跡部の後に回し、強く抱きついた。







「後悔も、迷いも、憂いもさせない・・・お前が、ずっと笑顔で俺の傍にいられるように

俺は・・・もっと・・・強くなる」



朝陽の光を全身に浴びながら、跡部は不二に誓いの口付けをした。








『僕もだ・・・』跡部の口付けを受けながら、不二も心の中で誓った。







確かに禁忌

けれど・・・それを不毛だとか背徳だとか言うのなら、

自分は、胸を張ってそれを死ぬまで

いや・・・死してなお・・・

背負ってやる・・・




けれど

目の前の、この人だけは

決して離さない











二人は、心の中で、強く自分にそう誓ったのだった・・・




















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