サクラ-2-
「なぁ、これからどうする?教科書とか面倒な荷物になるようなもんは明日になるし」
「あぁ・・・とりあえず、跡部には待っておくようにって言われてるけど」
「あ、そうか。んなら跡部きてからまた相談やな」
「ん?」
「いや、どうせもう入る部が決まっとるんやったら、早めに挨拶行ったほうがええと思ってな、
宍戸らには、もう声かけとるんや。お前ら来るの遅かったからな。」
「なるほどね・・・そうだな。僕も覗いてみたい」
「跡部はたまに合同練習で来てるから勝手知っとるやろうけどな。
俺らはさっぱりやからな」
そうこうしてる間にジロー達が来て、最後に跡部と宍戸がやってきた。
「どないする?」
「あぁ・・・俺もそのつもりだった」
「ん〜楽しみ〜」ジローは嬉しそうにはしゃいでいた。。
「お前を連れて来いってうるせぇんだ・・・」
「え?」
「別に隠すことでもないからな・・・部長と副には話してある」
「そうなんだ・・・」
「他の連中は大したことねぇけど、あの二人はなかなかのもんだと思うぜ」
「へぇ・・・君がそこまで言うってよほどなんだろうな・・・楽しみだよ」
跡部に連れられて皆はコートへ着いた。
中学部よりも、ましてや青学からは想像もつかないような一流の設備の中で、
圧倒されるような人数が、気迫溢れる活動をしていた。
流石は全国区の高校・・・かなりのハイレベルに誰もが体の中の血が騒いだ。
「左の6面がレギュラーコートだ」
跡部の声に、言われたほうを見る。久しぶりに不二の眼が開き、鋭い眼光が光った。
横目でそれを見た跡部は「ふんっ・・・ちったぁ楽しめそうか?」とにやりと笑って尋ねた。
「ん。そうだね」
跡部達を見た、左近部長と御崎副部長がゆっくりとこちらへ向かって歩いてくると、
皆は口々に挨拶を交わした。
翌日から練習に参加するために全員がその日のうちに入部手続きを済ませる。
その間、跡部は先輩二人と親しげに話をしたりしながら、不二を紹介した。
鋭い眼光と落ち着いた大人の雰囲気と深い包容力を感じさせる左近は
不二にはどこか手塚と似た感じがした。
一方、ざっくばらんで茶目っ気があり面倒見のよさそうな御崎は
どことなく千石や菊丸を思い起こさせるところがあった。
少し話を交わしただけだったが、二人はすっかり不二が気に入り、
不二もそんな二人にすぐ打ち解けた。
「実際どうなん?」お前よぉ練習行っとったやろ?と校門に向かって皆で歩きながら、
忍足は跡部に尋ねた。
「アーン?やることに変わりねーだろ?俺達だって、もぉ中坊じゃねぇんだ」
「ま、そりゃそーだな」宍戸もなんだか嬉しそうだった。
「せやな、とりあえず明日やな」
「おつかれ〜」
「じゃあなー」
校門のところで、出迎えの車に跡部と不二は乗り込み、皆は駅へと向かって行った。
「とりあえず。俺んち」
「あぁ、でも今日は夕飯時には帰るよ。」
「ん?」
「僕にとっては、今日はとりあえず入学式だからね。どういうわけか、姉さんが張り切ってるんだ。
それにめずらしく、裕太も帰ってきてるし。きっと召集されたんだろうけどね・・・」
「へぇ〜あいつがな。」嬉しそうに裕太のことを話す不二を見て、跡部は『相変わらずブラコンかよ』
と思いつつも、裕太に少なからず嫉妬を感じてしまうのだった。
跡部の部屋へ着いて、とりとめのない話をしばらくしていると
跡部の母がお祝いにとケーキと紅茶を差し入れしてくれた。
「本当なら、うちでお祝いしたいんだけど・・・」残念そうに言いながら、
二人に小さな包みを差し出した。
「えっ・・・こんな高価なもの・・・」戸惑う不二に
「何言ってるのよ・・・本当なら、指輪の一つでもって思ったんだけど・・・
それもどうかと考えたのよ。これから、いつまでも二人で同じ時間を重ねて欲しいって・・・
これはそんな私の願いも込めてのものなの」
「おばさま・・」
「貴方はもう、景吾だけの大事な人ではないの。分かるわよね?だから受けとって。
それから、景吾が居ようが居まいが、あなたが来たいと思ったらいつでもいらっしゃい」
「はい・・・ありがとうございます」
「いいのよ、じゃ」軽く不二にハグをすると、跡部の母はにっこりと微笑んで部屋を出て行った。
「ほんとうにいいのかな・・・・」
跡部のものと一回り小さいサイズの時計を腕に回しながら不二が呟いた。
明らかにオーダーメードのそれには、今日の日付とネームが刻印されていた。
「ふんっ、いいじゃねーか。本人が、いいっつてんだから」
「恐縮しちゃうよ」
「無愛想で可愛気のない俺より、お前のほうがよっぽど可愛いらしい・・・いつも言ってら
俺よりあいつらの方が昨夜っからはしゃいでんだせ?」」
「えっ・・・」
「ま、それだけ、お前は俺にとっても、この家にとっても大事な存在だってことだ。忘れるなよ」
「ん。ありがとう」
「不二・・・」
そっと呟くと、跡部は不二を抱きしめて甘く優しい口付けをした。
「跡部・・」そっと不二が跡部にしがみつく。啄ばむように角度を変え、何度も口付けを交わしながら、
お互いの唇を堪能した。
「このまま押し倒したい気もするけどな・・・裕太に免じて勘弁しといてやる。
明日っから練習だしな・・・しょーがねぇ、ま、今度の休みまでお預けだ」
「クスクス・・・じゃ。今度の休み・・・どこがいい?」
「そーだなー、親父が久しぶりに逢いたがってるし、とりあえずウチへ来い」
「了解」
不二の体にそっと手を回し、包み込むように抱きながら、跡部は愛しそうにその髪に顔を埋めた。
「なぁ」
「ん?」
「思いっ切り・・・お前の思うように、お前のテニスをやれよ」
「あぁ・・・そうだね・・・うん・・・」
「俺がいるんだ、誰にも何も言わせやしねぇ。心配すんなよ」
「うん・・・いきなりトップギアってのも無理だろうけどさ」
「バーカ。お前、全国でも、ちょっと本気になったてのは決勝ん時ぐらいだろ?」
「あれ?・・・バレてるし・・・」
「何年付き合ってると思ってるんだ。」
「かれこれ10年超えちゃっいましたか?クスっ」
「だろ?俺を侮るな」
「だね」心地よい空間に、心地よい会話、不二は心底ホッとしたように、跡部に身をゆだねていた。
「ま、君の足手まといにならないように頑張るよ」
「バーカ。それはこっちのせりふだ」
と、不二の携帯にメール着信。
「あ、英二からだ・・・・クスクス」
「ん?」
「英二達も入部したって」
「そーか」
「楽しみだな・・・」
「あぁ」
跡部は、腕の中の不二の温もりを感じながら、
自分はこれから先、どんなことでもやれそうな気がした。
自分の腕の中に、天使が舞い降りてきたようで、最強の力を得たようだった。
その声と、笑顔と・・・それだけで頑張れると・・・
不二自らが、同じ道を歩くことを選んだことに心から感謝にも似た思いを感じた。
桜舞い散る中で、氷帝の制服を着て、綺麗に微笑んでいた不二は、
夢でも幻でもなく、現実の姿で・・・・
「跡部・・・」ぎゅっとしがみつく不二に、同じ学校になったということが
ようやく実感として跡部の中に溢れてくるのだった。
跡部は幸せそうに微笑む不二を見て、これからの日々にガラにもなく、心高まった。
そして、決して離さない・・・と。そう思ったのだった。
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