サクラ-1-



















春。



氷帝学園高等部の始業式。

跡部は不二を連れて高等部の門をくぐった。

本来、一貫教育の学校なので正式な高校の入学式はなく、

一部の外部からの進学者にとっては、この日が入学式のようなものだった。



青学時代の学ランも似合っていたが、氷帝のスーツの上品なデザインは

洗練された不二の美しさを十分に引き立たせていた。

優雅な身のこなし、端正な容姿は周囲となんら違和感も無く、

見た目には、不二はすっかり馴染んでるようだった。





「緊張してんのかよ?」傍らで口数少ない不二に跡部がたずねた。



「あぁ・・・少しね」

伏せ目がちに言いながら、自分の袖口をぎゅっと掴んでくる不二が、

跡部には可愛くて仕方なった。



「気にすんな。だれも取って食ったりしねーよ」



「クスっ・・・そうだな・・・大丈夫だよ。君が傍にいてくれるから」



「あぁ、離れんな」

いつになく優しい口調で語られ、頭に置かれた手の温もりに跡部の優しさを感じて

不二の顔が綻んだ。







と、パタパタ・・・・・ガバッ。

大きな足音と共に、甘い雰囲気をぶち壊す騒々しい気配がにわかに降ってきた。




「ふ〜〜じ〜〜」背後からの声に、不二は突然、背中に重みを感じた。

そして、卒業したはずの青学での朝を思い出していた。


(ん?ここは氷帝・・・英二はいないはずなんだけどなぁ・・)



「いらっしゃい〜♪まってたんだよ〜〜」

背中から前に回りこんでジローが嬉しそうに言った。



「やぁ・・・ジローちゃんか・・・」



「わぁ〜〜さすが不二ー。よく似合ってるじゃん〜、超可愛E〜〜」



「そおかい?ありがとう。まだしっくりこないんだけどね」



「全然そんなことないよ。な!跡部!!」



「ジロー・・・テメェ、いい度胸じゃねぇか。俺様の許可もなく、新学期早々、不二に

べたべたすんじゃねー」

むっとしながら跡部は不二にまとわりつくジローを引き剥がした。



「あぁ・・・もぉ、分かった分かった。ケチ部」


「ンだと?」


「あー、はいはい。それよかさ、クラス割早く見に行こうぜ!」

首根っこを掴まれた猫のような状態のジローが二人に言った。






「・・・ったく」と、3人で歩き始めた時、

進行方向から自分達に向かって忍足がやってきた。



「その必要はないで〜」不敵な微笑みを称えながら、忍足は3人に言った。



『ったく・・新学期早々・・どいつもこいつも・・・』

と跡部は心の中でため息をついた



「いや〜ほんま別嬪は何着ても似合うな〜♪」

桜舞う中、不二の匂い立つような色香に忍足は思わず息を呑んでいた。



「何言ってるんだよ」苦笑いする不二の後で跡部がキッと睨みをきかす。

それを瞬時に察知した忍足は心の中で苦笑いをしながら、不敵な笑みを浮かべた。

徐々に跡部から不機嫌オーラが放出されだすが、

そんなことはお構いなしで忍足は話を続けた。



「いや〜悪いなぁ〜跡部。」ニヤリと笑い跡部の肩をポンとたたく。



「んだよ」跡部は嫌な予感がした・・・



「岳人6組、ジロー10組。宍戸と跡部は8組。ほんで、不二と俺は9組や。

どや?いや〜なんや春から縁起がええなぁ〜〜♪もう俺はるんるん。」



「ンだと?まじかよ?それ・・・」



「こんなことで冗談言う侑士君とちゃいまっせ。信用できひんのやったら自分でみてきー」



「よぉ、跡部に不二。」向こうから宍戸と向日が歩いてきた



「ようやくだな。不二」という宍戸に



「よろしく。」

と、やわらかい微笑みをたたえながら不二が他の面子にも挨拶するように言った。






高校へ上がっても、跡部達テニス部の面子が、生徒達から憧れと尊敬の的であることには変わらない。

周囲の一年生達は他校組みも含めて、彼らが揃って歓談している姿は、眩しいほどの絵だった。

まるで別世界の映像を見るように、少し遠巻きに、羨望の眼差しでそれを見つめているのだった。

そして、その絵の中に、まるで最初からそうだったように、不二はすっかり溶け込んでいたのだった。







「跡部〜残念だけどお前とクラスが同じなのは俺」と宍戸。

「あぁ、いま忍足から聞いた」



「残念だったな、一年早々からバカップルぶり炸裂かと思ってたけど。」

興味津々の笑いを込めて向日が言う。



「アーン?」



「まぁまぁ。この中で一番アドバンテージとったんは俺ってことで」



「いいなぁ〜侑士。」



「嘆いたらあかんで〜ジローもなんやかんやゆーて隣のクラスや。」



「だね!だね!すぐいけるよね!」



「ま、もっとも同じ隣でも階段挟んで隣っちゅーのもあるからな〜」

忍足の勝ち誇ったような目が跡部に注がれる。



「忍足ぃ〜、テメェ、マジ、しまいに殺すぞ」



「はいはい、負け犬の遠吠えな」



「ンだと?」



そんなやりとりを楽しそうに不二は眺めていた。



校庭内の桜の下で写真を撮ったりしながら暫く賑やかしく時間を過ごした。



ふっと隣に来た忍足が小声で

「跡部のことでなんかあっても、俺らがおるから大丈夫や。せやからな、

遠慮せんと甘えたらええで。」と言ってから



「ま、不二の世話はまかしといて。分からんことあったらなんでも俺に聞きや〜」

と跡部にも聞こえるように言いながら不二の頭をくしゃとした。



「あぁ。ありがとう。何よりだよ」不二は忍足に言ってから



さっとみなの方を向いて不二が言った。

「みんなも・・・よろしくね。」


小首を傾げ、天使の笑みと共に言うその姿に、一同は、魂を抜かれたようになってしまった。



か・かわいいその笑顔・・・

あぁ・・ヤバイ・・・

と、各々が心の中で呟いた



「ほなとりあえず教室いこか〜」

跡部は終始憮然とした表情だった。



「跡部にはこれくらいしといて丁度ええねんで」

と忍足は不二に悪戯っぽく笑いかけた。



「クスクス・・・君ってホント策士だね」



「まぁな。さっき言うたこと、ほんまやからな。なんも心配いらんで」



「あぁ。ありがとう」














初日は、学校案内やカリキュラムの説明といった簡単なオリエンテーションと

クラス内での自己紹介でその日の日程を終えた。





氷帝内でも、テニスで全国区となった「天才」不二の名前は有名で、

彼の編入の事実と、その端整なルックス、優雅な立ち居振る舞いは

たちまちクラスを限らず学年中を虜にしていった。



『なんやろ・・・やっぱ、オーラのせいなんかな?』そんな不二の姿を

隣で目を細めて、忍足は見つめるのだった。



初日にもかかわらず、すんなりとクラスに溶け込めた不二は少し安堵した。

中学時代、ライバル校として対峙してきた氷帝は、どこか高飛車で冷たいイメージがあったが、

いざ自分が生徒として入ると、雰囲気は青学のそれと大して変わらなかった。

裕福な家庭の子女が大半を占めているが、不二も負けず劣らずの家庭環境だったため

違和感もない。加えて、以前ライバルだった忍足や宍戸達も最初から、

自分に心をくだいて接してくれるのが何より心強く、うれしかった。

























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