a pair
「邪魔するよ」
「あぁ」
晴れて二人して同じ高校の生徒になった入学式以来の、初めての休日。
珍しく一日オフの跡部は、少し遅めの朝食を済ませ、適度に吹き込んでくる風を感じながら自室の
窓際で、お気に入りのソファに深く身を沈めて、得意の独語の小説を読んでいた。
そして、半時間くらい過ぎた頃に、不二がひょっこり尋ねてきたのだった。
どうせ、昼頃には呼び出そうと思っていた跡部は、勝手知ったるでツカツカと入ってくる不二を
吹き込んでくるそよ風のように心地よく感じるように、静かに心の中で歓迎しながらも、いつものような
ふてぶてしい返事を返し、本から目を離すことはなかった。
不二もそんな跡部に別段どうこう思うこともなく、近づいていくのだった。
部屋に入るや否や、不二は手にしていた袋に片手を突っ込み、ごそごそと何やら出しながら
「・・・あのさ・・・跡部」と跡部の傍に立つと唐突に話しかけたのだった。
「アーン?」
「これなんだけど」
袋から出したものを片手にしながら、不二は跡部に話し続けた。
「昨夜、姉さんが要らないっていうからさ・・・」
読みかけの本を手にしたまま、怪訝そうな視線をずっと向けてくる跡部に、
不二は見向きもしないで自分の言いたいことだけを言いながら、
ソファにふんぞり返っている跡部の隣に腰を下ろし、
「見て」と、手にしたそれをぐっと跡部の顔に向けて差し出して見せた。
「ンだよ・・・」
何時もながらの唐突な不二からのネタフリ。しかも今日は小道具付きときて、
跡部の綺麗な眉がぎゅっと中央に寄ってくるのだった。
「さて、なんでしょう?」
弄ぶような、食えない笑顔で答える不二に
「はぁ?」と跡部はムッとしたように言った。
「ほんとに分からない?」
「だから聞いてんだろ」
「あのさ、ちょっとくらい想像力とか使ってみようとか思わないか?」
「何のために?」
「あきれた・・・少しは考えようとしな」
「その必要があるならな」
「何それ?」
「無駄な時間と労力だっつーの」
「まったく・・・しょうがないな」
「それはこっちの台詞だ」
お互い一歩も譲らないままだったが、不二が諦めたようにフッと小さく息を一つついてから
「ピアサーだよ」と、跡部に言った。
「は?」
「これで・・・ホッチキスみたいにパチン・・・って、ピアスホール作るんだ」
「で?どうして、それをお前が由美姉から貰ってんだ?」
「姉さんの友達が空けるからって買ったらしいんだけどさ、さぁって時になって、
怖くなってやめちゃったんだって。姉さんはもう空けてるから、要らないって・・・
で、僕がもらったんだ。セットで入ってるピアスがシンプルで気に入ったからね」
消毒液も持ってきた。と不二は跡部に説明するように言った。
「空けるのか?」
「あぁ、是非とも君に手伝ってもらおうと思ってさ」
「どうして俺が手伝わなきゃいけねぇんだよ」
「いいじゃん・・・それとも、怖いとか?」
と不二が不敵に笑った
「んなわけねぇだろ」
「じゃあ、よろしく。これは2個セットだから左に2つかな・・・」
不二はぶつぶついいながら準備をし始めた。
「2つも空けるのかよ・・・」
「あぁ、折角2つあるんだし・・・」
跡部は無言で不二を見つめた。
「なんならさ、もう1個は君に進呈しようか?」楽しげに聞く不二に跡部は
「俺にフルか?・・・」と苦笑いをした。
「勇気と誇りの象徴らしいよ」と不二が付け加えながら微笑む。
「俺はそんなもんで表現する必要はない」と跡部が言った
「そんなことくらい知ってる」
「だったらどうして・・・」
「少しは怖いとかさ・・・」
「ちげーよ」
「ホント?」
「たかが耳に針通すくらい、痛くも痒くもねぇよ」
「ふぅ〜ん。じゃぁさ、折角親からもらった体に傷つけるなんて・・・とか?」
「はぁ?俺は俺だ。それはお前もそうだろ。自分が決めたことで他人にどうこう言われる
筋合いはねぇ。俺が言いたいのは、お前がその、狂気じみた思いつきで俺を振り回すのを
楽しむのをどうにかしろってこと」
「僕は僕に与えられた特権ってやつを有意義に使ってるだけ」
「お前なぁ・・・」
「それに、これは思いつきなんかじゃない。魔除けだよ」
「迷信だろ?」
「信じるものは救われるって言葉あるだろ?それに女の子の間ではさ、
ピアス空けると男運が良くなるんだって」クスクスと楽しげに言う不二に
「変えたいのかよ・・・」と跡部がムッとしながら言った。それまで、なんだかんだ
言いながらも、まともに取り合っていないような態度だった跡部が、あからさまに
表情を変えて、じっと見つめてくる姿は、不二にしか見せない跡部の一面で、
不二はそれも特権の一部として、堪能するのだった。
「例え話さ、僕の場合、女の子じゃない。さっき言ったとおり、勇気と誇りの象徴と魔除けだよ」
「嘘つけ」
怪訝そうに見つめてくる跡部に、不二は構わずに説明を続けた。
「昔、男性が左、女性が右で、恋人同士が一対のピアスを一つずつ分け合って、
願掛けしてたんだって。離れないようにって・・もし離れることがあっても
生きて必ず再会できるようにって・・・」
「フンッ」と跡部は聞いてるのか聞いてないのかわからないような返事をして不二の方を見た。
「何?」
「耳、出せよ・・・空けてやるよ」跡部が言った。
一瞬、え?といった顔をした不二だったが、とっととしろというような跡部の顔を見て、
その心の内を察したように、ニコリと微笑んでから「あぁ」と頷いたのだった。
「ちょっと待って。消毒済ませて大体のところに印つけるからさ・・・」と言う不二に
「一箇所でいい」と跡部が言った。
「え?」
「その後で、お前が俺のを空けろ」
「跡部・・・」
何もかも分かったような目で不二を見つめながら話す跡部を、
不二はじっと見つめた。
「願・・・掛けんだろ?付き合ってやる」
「ありがとう・・・跡部」
「ったく・・・最初っからはっきり言えっつーの・・・」
耳たぶに脱脂綿を当てる不二を見ながら、跡部は呆れたように呟いた。
「男同士だし・・・」少し切なそうに拗ねて言う不二に、
「関係ねぇんじゃねぇの?一対のを二人で分けるってのに意味があるんだろ?
信じる者は救われるっつったのはお前だ」と跡部が言った
「君の口からその発言がでるとは思わなかったよ・・・」苦笑いしながら不二が言った。
「うっせー・・・ってかよ・・・お前、俺を何だと思ってんだよ」
「はいはい・・・失礼しました」
そう言いながら不二は鏡を覗いて印をつけた。
「ここ・・・お願いするよ」
さっと説明書に目を通した跡部が、その印のところめがけて「行くぜ?」と器具を当てた。
「ん」と不二が答えると、バネ入りのそれは簡単な力で不二の耳朶を貫いた。
カチっ
一瞬のチクリとした痛みはあったが、不二の左の耳朶にはきれいにファーストピアス
がはまっていた。
そして交替して不二が跡部にする。
「何気に緊張したりして」
「はぁ?」
「跡部景吾様に、恐れ多い・・・」
「うっせー、とっととやれ」
「はいはい・・・行くよ?」
「あぁ・・」
パチン・・・
もう片方のピアスが、不二と同じ側の跡部の耳たぶに、小さく光っていた。
「流石跡部景吾君。男の子は泣かないね」
鏡に写るその箇所を見つめる跡部の脇から、不二が顔を覗かせて、楽しげに言った。
「テメー殴られたいのか?」
「クスクス・・・」不二は笑って、跡部を見つめて
「似合うな。ぐっとセクシーさが増して・・・また女の子が喜んじゃうね」と言った。
「どーゆー意味だよ・・ったく」
「そのまんま」
「だったらお互い様だ」
拗ねたような跡部の横で、不二は楽しげに笑った。
「一月半くらいでホールがだいたいできるから・・・それまでは取ったりしないで
化膿しないようにケアしないといけないけど・・・半年もしたら大丈夫かな・・・」
そう言いながら説明する不二をじっとみつめていた跡部は
「そそられるな・・・」と、不二の耳元に触れるか触れないかくらいまで唇を近づけて
囁いた。
「んっ・・・こら」かかる息に、一瞬だけ艶のある声を上げて、不二は跡部を諌めるように見た。
「うっせー」体を離して、ソファに背を深く沈める跡部に
「手伝ってもらった上に、つき合わせちゃったね・・・痛くなかった?」
と、打って変わって静かに不二が言った。
「どうってことねぇ」
「そっか」
「あぁ」
「ありがとう・・・」
跡部はポスと不二の頭に手を置くと
「別に願なんて掛けねぇでも、俺はお前を放したりしねぇ・・・
けど、それでお前が少しでも気が安まるんなら・・・俺はいくらでも付き合うぜ」
と言って、不二の髪を優しく梳いた。
「ん・・・」
嬉しそうに微笑む不二の後頭部を掌で抱えるようにして、そっと自分のほうへ引き寄せると
跡部は不二に優しくキスをした。
「何も心配すんな・・・お前は安心して俺の傍にいればいい・・・」
そう告げる跡部に不二はぎゅっと抱きついた。
「跡部・・・」
そして、優しく包みこむように抱きしめる跡部のぬくもりを感じながら
「永遠に共に・・・」と心の中で願ったのだった・・・
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