our life
あいつの精神状態は、摩訶不思議。
何年一緒に居ようと、俺には到底理解不能。
別に解りたいとも思わねぇが、
なんとなく、解っちまうところが、俺としちゃぁ、たまに忌々しく思えたりする。
どいつもこいつも、あいつの見てくれと、建前に、
面白れぇほど騙されて、いいように手懐けられてるが・・・・
俺に言わせりゃ・・・馬ッ鹿じゃねぇの・・・ってな。
ま、あいつの本性知ってるってのは、
由美姉ぇか・・・俺か・・・裕太か・・・佐伯くらいなもんだろう。
それでも、あいつの意味不明な言動に、みんな振り回されたりしてるがな・・・
なーんか俺だけ・・・
頭で思うより
体が反応して
言葉が勝手に口をついて出たりして
それがどうやら、ピンポイントで、あいつの的ってのをちゃっかり
押さえてるらしくて
今に至ってるんだろうな・・・
それはそれで、あいつにとって、
俺が、唯一の存在である、証みてぇなもんだから
気には入ってるが・・・
そんなこんなで、あいつはたまに、意味不明なお願いごとやらを、俺にしてくる。
奇妙奇天烈奇奇怪怪・・・突発発作みたいな感じで・・・
ま・・・俺も、まんざらじゃねぇから・・・
跡部景吾たる所以を最大限に発揮して、叶えてやれる望みは、全部聞いてやってる。
つーか、今まで不可能だったことはねぇけどな・・・
多分・・・
いつだったか・・・あいつがポツリと言った・・・・
俺たちは、本当は一つで、生まれてくる時に、神さんかなんかの気まぐれで、
二人になっちまった・・・ってのが、ぶっちゃけ、そうなんだろうって、思ったりしてる。
だからだ・・・
あいつにとって、俺以外じゃだめで
俺にとって
あいつ以外は、だめってことなんだろう・・・
最近では、すっかり日常となった・・・
跡部家で過ごす、不二の生活
二人で、一人のように寝食を共にし、
多くの空間と時間を、共有する。
まるで、生まれたときからずっと、そうだったように・・・・
毎日とまでは言わずとも、
跡部は、不二を求めて、不二も、それを受け入れる。
不二が、跡部を求める時は、跡部はそれに応える。
ただ単に、二人で同じ空間にいることで、満足する時もあれば
骨の髄まで、貪るように交わらないと、満足できない時もある。
素直じゃねぇこいつも
素直なこいつも
俺にとっては、かけがえのない唯一の存在。
「今夜は、ちゃんとパジャマ着なよ」
風呂から上がってきた跡部に、先に済ませていた不二は、ベッドの上に座って、
手にしていた本から顔を上げて言った。
跡部の部屋で過ごす時は、たいていマッパで眠ることになっていた。
空調の行き届いた部屋、キングサイズのベッドで、肢体を絡ませて眠りにつくが故の事で、
それが、普通になっていた。
「はぁ?」
ほら始まった・・・跡部は、頭にかけたタオルで髪を拭きながら、不二からの突拍子もない
依頼に、呆れ顔で答えながらも、文句を言い返すこともせずに、黙ってクローゼットの前に立った。
シルクの肌触りのいい、不二が身につけているものと色違いのそれを纏ってから、
跡部は、不二の待つベッドへと向かった。
「DVDでも見るのかよ」
「うん」
見透かしたような跡部の問いに、当然のように、不二が答えた。
「ふん・・・」枕を背に当てて、不二の腰に手を回した跡部は、ぐっと
不二を引き寄せながら、正面の画面を見つめた。
不二は、跡部に寄せられるままに、身を預け、手にしたリモコンのボタンを押した。
あらかじめ、不二によってセットされていたDVDが、スタートする・・・
癌に侵された男が、愛する妻へ・・・まだ見ぬわが子へ
ビデオに自身の全てを託しながら、病と死に対して、正面から向き合って、生を全うしていく姿が
画面に映し出されていた・・・
『前にも観たよな・・・』跡部は、心の中で呟きながら、何も言わずに不二と共に
画面を見ていた・・・
画面を見たまま、時折絡めた指先に力を込める不二に、跡部は『・・・ったく』と
思いながらも、応えるように手を握り返してやった。
画面の中の父を見つめる彼の子どもの姿に、不二の頬に涙が一筋流れていた。
『またここで・・・っつーか、同じとこで泣くなっつーの・・・』
前もそうだったよな・・・と思いながら跡部は『しゃーねぇーな』と
不二の肩に手を回して、そっと抱き寄せた。
跡部の肩に頭を乗せ、黙ったままの不二に跡部は
「ったく・・・」と呟いてから「心配すんな」と言った。
「え?」
「しょーがねぇ・・・お前より、長生きしてやる。っつーか、お前を置いていけるはずねぇよ」
「跡部・・・」
「多分、お前は、耐えられネェだろ?アーン?」
「・・・多分・・・きっとね・・・」
不二は、苦笑いしながら跡部を見上げた。
と、待ち構えていたかのように、跡部は不二にキスをした。
驚いたような顔を一瞬してから、不二は、嬉しそうに微笑んだ。
『わけ解んねぇけど・・・解りやすい奴・・・』
しょうがないと、跡部が不二をそっと抱きしめると、不二はそうしてほしかったと
言わんばかりに、跡部にぎゅっとしがみついた。
「長生きしてやるけど、一日だけな」
「うん・・・」
「どうせ、あっちの世界でも、お前は耐えられねぇだろ」
「うん・・・」
不二を一人にさせない・・・
それは、言い換えれば、自分も一人にはならない。
跡部は、ふっと心の中で苦笑った・・・
パジャマを着ろと言ったのは、きっと、DVDが観たかったから。
前に観たそれを、もう一度観たかったのは、跡部に嘘でもいいから、
『俺は、お前を置いていかない』と、言って欲しかったから・・・・
不二が、敢えて口にしなくても
それを、理解しようとしなくても
跡部には、本能で解ってしまう・・・・・何もかも。
テロップが流れる画面を切り、跡部は、リモコンを放り投げると、不二の頭に手を置いて
「寝るぞ・・・」と言った。
「ん・・・」
すっかり落ち着いた不二は、既に半分眠ったような目をして、跡部に返事をすると、
ごそごそとシーツの中に沈んでいった。
跡部は、そんな不二を愛しそうに見つめてから、照明を落として、
不二の直ぐ傍に、自らの身を滑り込ませた。
優しく不二の細い薄茶の髪を梳きながら、不二の頭を撫でてやると、
不二は瞬く間に、安心しきった顔を見せて、眠りの淵へと沈んでいった。
暫く不二を見ていた跡部だったが、気持ち良さそうに、不二が立てている寝息に、
つられるように、ウトウトと、まどろみ始める。
と、ぐっすり眠っているはずの不二の手が、ぎゅっと跡部のパジャマの襟元を
掴んだまま、擦り寄るように体を寄せたのだった。
一瞬、困ったような顔をして、目を開けた跡部だったが、
ふっと溜息をついてから、少し窮屈だが、今夜は、そのまま眠りにつこうと、開き直り、
体勢を寛げることなく、不二のしたいままにさせて、眠りについたのだった・・・・
目覚めるまで、不二はそのままの体勢で、跡部にしがみついていた。
跡部の襟元は、しわくちゃになっていて、無理して眠ったせいで、跡部の半身は暫く
痺れたままだったとか・・・・
摩訶不思議な不二と、まったく普通で付き合えるのは、
世界広しといえども、帝王、跡部景吾ただ一人・・・・
俺様跡部景吾相手に、普通でしたいようにできるのも、
やはり、世界唯一、不二周助だけ・・・
なぜなら
二人は、お互いのために、生を受けた者同士だから・・・
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