穏やかな情景


















風をはらんで、細い金糸が陽の光を浴びながら、サラサラと靡く。

流れるように

舞うように

その持ち主は、煩がることもなく、金糸達のしたいようにさせながら、

屋上の柵に前のめりに寄りかかり、静まり返った中庭へ、視線を漂わせていた。




午後の授業が始まり、昼休みに賑わっていたそこには、

一人しかいない。

自習とはいえ、他のクラスメイト達は、今頃課されたプリントに取組んでいる頃。

授業開始から、ものの10分もたたない間に、それを完璧に仕上げてしまっているから

別に気兼ねもする必要もなく、貸切状態のそこで、一つに束ねていた髪を解放してやると、

それを風に戯れさせながら、自分は自分で黄昏タイムを楽しんでいた。





と、そこへもう一人の男がやってくると、流れる金糸の小さな束に、指を絡ませながら

「伸びたな・・・」と呟いた。



「あ・・・妖怪だ」

抑揚の無い声で、髪の持ち主は僅かに顔を向けながら、でも、とても楽しげに言った。




「・・・俺は、妖怪か・・・っつーか、お前はいつから○タロウになったんだ?」

妖怪扱いされ、少し拗ねたような顔をしてから、男は髪から手を離した。




「かれこれ3年かな」



ある意味、質問の答えのようで、どこかずれている返事に、男は苦笑いをしながらも

「そうか」と短く言ったのだった。何を指した答えか、彼には分かるから・・・




「切ろうか?」

その気もないくせに、また、抑揚の無い声で、尋ねてくる相手に




「いや」と短く答えると




「だよな。長い方が好きだよな・・・」

最初から分かっていた風に、切り返された。





「いつ俺様がそんなこと言った、アーン?」

何故か悔しくて、口調が挑戦的になる。




「四六時中。態度で示してるだろ?」特にアノ時とかさ

今度は不敵な笑みを加えて言ってから

「分かりやすすぎ・・・」と笑われた。






一瞬、ムッとしたように、眉間に皺を寄せてから、

何も返事をせず、男は隣に並ぶと、同じように柵にもたれたのだった。






「不思議だな・・・」


「ん?」


「中学の頃は、こんなに長く伸ばすことなんか考えられなかったのにな・・・」


独り言のような呟きに、言葉は返さず、黙って前を向いたまま、耳を傾けていた。


「君に触れられるのが・・・酷く心地よくて・・・」ね?跡部・・・と

隣で黙ったままの跡部を斜に見上げながらクスリと笑った。


「俺も好きだぜ・・・」


「え?」


「不二周助に触れるのはな・・・」たとえ髪一本だろうが・・・

言いながら、跡部は不二の髪にまた指を伸ばすと、掬い上げるようにして、

軽やかな毛先に口付けた。


鼻先をくすぐる不二の香りに、跡部は満足げな笑みを浮かべると

さっと不二を抱き寄せて、少し驚いて薄く開いた不二の唇に口付けをした。


「んんっ・・・」


不二の鼻先から零れる甘い声と、溶けそうな甘い唇とひとしきり堪能してから

「続きは帰ってからな」と、言いながら跡部は腕から不二を解放したのだった。






「それにしてもさ・・・」


「アーン?」


「跡部が髪フェチとはね・・・」


本当に思ってもいないのに、からかうような事を言って

楽しげに笑う不二に、跡部は一瞬、眉間に皺を寄せてから


「別に髪なんざに欲情したりしねぇよ」と言った。


「そぉ?」


「俺が欲情するのは、不二周助だけだ」


思いもよらない一言に、不二は一瞬驚いたような顔をしてから

照れたように俯いた。


「・・・馬鹿・・・」


「お前だから欲しいと思うし、お前の匂いがするから触れたくなるんだ」

跡部はそう言いながら、また、不二の髪に愛しそうに指を絡めた。





「・・・参った・・・降参」

不二は両手を軽く挙げて苦笑いをした。





「あぁ。一生、俺様に参ってろ」


「悔しいなぁ・・・」


「うるせぇ」





目を合わせて、二人は同時にふっと笑ってから、屋上を後にした。






教室に戻る途中、不二は器用に、さっと髪を束ねながら「夜までオアズケだよ」

と微笑む不二に、跡部は「あぁ」と短く答えながら、優しい目を向けたのだった・・・




























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