のどあめ
今日、忍足は朝から不二の声を殆どまともに聞いていなかった。
いろいろと話を振ってみても
「ん」と首を縦にふって「YES」か
「んん・・」と首を横に振って「NO」か
黙って首を傾げて「さぁ・・・」でしか返事は返ってこなかった。
そして、4時間目の古典の時間・・・
古典の学年トップの不二は、授業で模範解答を求められて
指名されることがしばしばだった
そして・・・・
「じゃぁこの段落を・・・不二、訳してくれ」
と、ついにその日、初めての指名が古典でかかった。
「・・・はい」
いつもの心地よい響きをしたアルトとは、似ても似つかない音が教室に響く。
クラス中が一瞬「えっ?」と戸惑いの反応をした。
「すみません・・・風邪気味で・・」
立ち上がった不二が、辛そうに声を出した。
「なんや・・・・風邪で声が出んかったんか・・」
忍足が呟いた。
「ん・・・仕方ないな・・じゃぁ忍足、変わりにお前が訳してみろ」
「げっ!・・・・・」
忍足の呻き声が教室に響き渡り、どうにかこうにかの忍足の解答で、
無事に授業は終了した。
「不二君・・だいじょうぶ?」
「おい・・・不二・・」
休み時間、クラス中が不二を取り囲み、皆が口々に心配だと言った。
不二は、そっと苦笑いをかえすのがやっとで、声も出せないで困惑していた。
と、不意に背後から不二の腕を掴んで、ぐっと引き寄せる者がいた。
「跡部・・」
「風邪かよ」
「ん」
「来いよ」
「え?」
「部室になんか薬あんだろ?」
そう言う跡部に、不二は部室へ引きずられて行った。
「ほんま・・・跡部も可愛いとこあるやん」
忍足は、だれにも聞こえないような声で、ポツリと呟き、二人の背中を見送った。
「どうしたんだい?跡部」
「朝から首しか振らねぇ、どっかのバカが気になってよ」と
呟きながら、部室の救急箱をガサガサと漁っていた。
「あったぜ。のど飴・・」
「要らない」
「何もしねぇより、いいだろ?」
「ハッカがきつい」
「贅沢言うなよ」
と跡部は、封を開けて、一つを自分の口に放り込んだ。
そして、不二の顎をクイっと片手で持ち上げて
さっとキスをして、口の中の飴を不二の口の中へと押し込んだ
「んっ・・・」驚いたように不二が一瞬眼を大きく開いた。
「ったく・・・世話のかかる奴だぜ」
薄く湿った不二の唇を親指でそっとなぞりながら、跡部が苦笑いをして言った
「跡部・・」
「今日は早く帰って寝ることだな」
そう言って、不二の頭をクシャっとした。
目の前で優しく微笑む跡部を見て、
やっぱりちょっと苦くて、ハッカの味がキツイけど・・・
今日ののど飴は、何時もより美味しくて、なんだか効きそうな気がした不二だった。
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