夏の残像
夏の大会が終わって暫くして、俺は待ち合わせ場所の駅前の噴水の前で
不二を待ちながら、ぼんやりと考えごとをしていた・・・
大会で見かけた不二は、見慣れない氷帝のレギュラージャージを着ていて、
かつて俺たちのライバルだった奴らに囲まれて、楽しげに見慣れた笑顔で微笑んでいた。
そして、ちょっとムカつく存在の奴の隣で、寄り添うようにして、
すっげー幸せそうな顔してた・・
俺は今までみたいな調子で不二に抱き付いていきそうになったけど、
俺の変わりに、くせっ毛の賑やかそうな奴が、不二に抱きついてるのを見て、
妬けるというより、なんか寂しい気がしたのを思い出した。
あの大会で、氷帝は団体でも個人Sでも準優勝をしてた。
認めたくはなかったけど、桁はずれに強かった・・
俺たち青学は、団体では出場は叶わなくって、
俺が大石と、個人Dで全国出るのがやっとで、
ベスト16がいっぱいいっぱいだった。
氷帝は団体ではあの跡部がS2で、Dには忍足と向日が一年生ながら頑張ってて、
そして準優勝だった個人Sに出てたのは、俺の親友の不二だった
俺は大石とその試合を見てたけど、不二が負けたのは僅差で、きっとそれは
不二が一番嫌がってる体力とパワーからくる差だったと思う。
相手は3年だったし、体格の差は一目瞭然だったから・・・
技もゲームメイクも不二は全然劣ってなかった。っていうかホントあの体が
あれほど華奢じゃなかったら絶対勝ててたと思う。
俺が青学時代に目にしてた不二のプレイとは全然違ってて、
カウンター以外にすげー攻撃的なプレイをしてるのに驚いた。
それは大石も同じだった。
けど、一番びっくりしたのは、決勝戦が終わって、
不二を探してた時に、人気のないところで見かけた時の姿だった。
今まで試合に負けて、涙なんか流したことなかった不二が
跡部の胸で泣いてて、俺は別人をみてるかと思ったくらい。
声も掛けられずに、そのままそこから逃げるみたいに大石のところへ戻ったんだ。
跡部は、今まで俺が見たことないような優しい笑顔で、不二になんか言ってた
『あの跡部が・・・あんな顔できるんだ・・・』って・・
そして、その跡部の腕の中にいる不二を見て
『あの不二が・・・あんなに感情を露にするんだ・・・』って
びっくりしたのと同じくらいショックで、俺はなんだか胸が苦しくなって
走りながら、泣きそうになってた。
跡部が不二を変えたって、はじめは思ってたけど、それは違うんだ・・・
不二は、何も変わっちゃいなくて、ただ、傍にいるのが跡部だから
今まで自分が出せなかったところまで、出せるようになったんだって・・・
それが分かった。
身につまされた現実だった。
「ごめん!英二。待った?」
ゴメンポーズをとりながら、不二がやってきた。
「おっそ〜〜い!」
俺は今までみたく、不二に抱きついてやる。
その体は、よくこれで全国2位になれたよな・・・ってくらい華奢で、
なんか妙に色っぽくって、いつものいい匂いがしてた。
「おい!猫ヤロー。やたら抱きつくんじゃねー」
偉そうな声のする方を見たら、黒い外車の窓から、誰様俺様が、顔出してムッとしてた。
「うっせーーな!」
「アーン?」
「はいはい。じゃあね、跡部」
その間に入った不二が笑ってる
「ったく・・・後で電話しろ。迎えに行く」
そう言って俺様ヤローは行っちまった。
「なんだ・・・跡部といたの?」
「あぁ。一昨日からずっとね。お守りも大変だよ・・・」
文句を言いながら、不二は楽しげに笑ってた。
ちっとも大変そうじゃないじゃん・・・って感じで。
「はぁ・・・・ごちそうさま」
あんまり幸せそうに笑うから、俺はもう拍子抜けしちゃって、
苦笑いしちゃった。
「さ、行こう!英二」
いつもみたいに不二が俺を呼ぶのが今も変わらないのは、
俺をすごい幸せな気持ちにさせる。
チームメイトじゃなくてライバルになっちゃったけど・・・
クラスメイトじゃなくなったけど・・
それでも親友であることは変わりない。
俺の大切な不二。
さ〜〜てっと。今日はどんな惚気話聞かされるのかな・・・
相手は変わっても不二の恋人の惚気話を聞くのも俺の役目の一つ・・・
それだけ跡部が不二にぞっこんだってことだし、
不二を大切にしてるってことだから。
けど、親友のポジションは誰にも譲らない。
夏の残像を、頭の中から押し出して、
俺は目の前の不二に向かって走り出した。
「待ってよ〜不二〜」
不二がいつも幸せに笑っていられるよう俺はいつでも傍にいるよ。
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