目標














心地よく響くラリーの音を聞きながら、コート脇のベンチで不二は

跡部が宍戸と向日の二人を相手にしている姿を眺めていた。





「見入ってるやん」さっきまで不二の相手をしていた忍足が、

いつの間にかやって来ていて、声をかけながらその隣にゆっくりと腰を下ろしたのだった。



「クスっ・・・」軽く笑って答える不二の視線は、コートに向いたまま動くことはなかった。


「それとも、見惚れとるんかいな?」


「・・・でもないよ」


「ホンマにぃ?目ぇが恋する乙女になってたように見えたけどな?」


「何言ってんだか・・・」呆れたように笑いながら、不二はようやく目線を忍足に向けた。


「ま、お前やのうてもあいつの姿には、惚れ惚れするけどな」

遠い目をしながら、不二と入れ違いに、跡部に目線を向けながら忍足は呟くように言った。


「クスクス、忍足がそんな目をして言うとさ・・・なんだかエロいな」


「なんでやねん、もぉ・・・」


「ははっ・・・」忍足の反応を見て、不二がいかにも楽しげに声を上げて笑った。


「笑いすぎや」そう言って忍足は不二の頭に手を載せた。


「ゴメン。ゴメン。」


「ホンマ、洒落にならん。お前の口からエロいとか出てきたら、こっちのほうが

なんや恥ずかしなるわ」


「忍足の中の僕って一体どういうイメージなんだろうな・・・」

小首を傾げて、不二が忍足を覗き込むように尋ねた。


「ほら・・それや、それ。ごっつ可愛いけどめちゃめちゃ小悪魔」


「意味不明だなぁ」


「まぁ、そんなとこが跡部にもええんやろうけどな・・・」と視線を跡部へ向けた。





「跡部には、逆立ちしたって敵わない」と同じく跡部に視線を向けながら不二が答えた


「なんでや?」と忍足が尋ねる


「跡部ってさ・・・視線で犯して・・・声でイカすんだ・・・」


「うわっ・・・なんやごっつエロいなぁ・・・っちゅーか、思いっきり頷けるわ。それ」


「だろ?」一生かかっても敵わないよと不二はクスクス笑った。






「そゆとこがええんか?」ふっ・・と笑って忍足も続けて言った。



「それもあるかな」不二は再び軽く笑って視線をコートに向けたまま答えた。


「んなら他はなんなん?」


「え?・・・それ以上は関係者以外立ち入り禁止ってとこかな」


「そぉか」

欲しい時にはいつも絶妙のタイミングで手を差し出し、必要以上に立ち入ることはない

忍足の気遣いを、不二は心底心地よいと感じ、感謝していた。

他愛ない会話も、際どい話題も、忍足とだからこそできる・・・

それは不二の楽しげな笑顔で忍足にも十分伝わっていた。









「そう言う忍足もさ・・・」


「ん?」


「伊達眼鏡のその奥の吸い込まれそうな黒い瞳と、優しく響く声・・・結構ヤバイ・・・」

と不二は悪戯っぽく笑った


「おおきに・・・えらい持ち上げてもろて、なんやこそばい気ぃもするけど。

ま、もうちょっと修行するわ」ウィンクしながら忍足は笑った。


「クスクス・・・これ以上、卒倒する女の子増やしてどうするんだい?」


「最終目標は不二やからな」


「どうして?跡部じゃないのか?」


「俺に言わせたら、お前の方がヤバイで」


「え?」


「お前は目だけで犯してイカすやん・・」

そう言う忍足と、少し驚いたような不二の目が合った。


「まさか・・・僕が跡部の上手いくはずないよ」と不二はその深い蒼い瞳で忍足を見つめた。


「ほら・・・それ。ゾクッとくるわ」


「ほんと?」


「あぁ・・・」





なんともいえない雰囲気を醸し出しながら見詰め合う二人・・・・




と、突然、忍足の足元に飛んできたボールが強くバウンドした。







「なんやねん!!危ないな〜」



コートに目をやると、不機嫌オーラ全開の跡部が二人の方へ向かってきた。

コートの向い側では宍戸と向日が自分達に返ってくるはずの球が忍足めがけて

飛んでいったのを見て唖然としていた。









「テメーら・・・いい度胸してやがるじゃねーか」


「クスクス・・・」不二は余裕の笑みを浮かべている


「なんやねん。物騒やな」忍足も少し挑戦的に答える


「折角、二人して跡部のこと褒めてたのに・・・」


「うっせー。妙な雰囲気漂わせやがってよく言うぜ」


「へぇー、見てたんだ・・・流石、跡部景吾。余裕だね」

しらっと言う不二に跡部はムッとしていた


「喧嘩売ってんのか?」


「まさか」

言い終わると同時に不二が忍足の腕を掴んでさっと立ち上がり

「行こう、忍足。休憩は終わりだ」と歩きだした。



「おい!」怒りおさまらない跡部の横を通り過ぎる時、手にしたタオルを渡しながら、

不二は跡部にしか聞こえない小さな声で



「今日も君にゾクっとさせられた。お持ち帰りしてくれるのかな」

と呟いて隣のコートへ忍足を引きずって行った。





残された跡部は不二の発言内容とその艶のある声が耳について一人立ち尽くしていた。





「なぁー不二。跡部に何言うたん?」不思議そうにたずねる忍足に不二は


「べっつにぃ〜」と笑って答えた


「あいつ・・・」耳をおさえながら苦虫を潰したような顔をした跡部が

「不二!覚悟しとけよ」と不二に声をかけ、再びコートへ戻って行った。





跡部の言葉に「お手柔らかに」と笑顔で答え、

相手コートで天使のような笑みを称えながら自分に球を返してくる不二と、

その後暫くイージーミスを繰り返し、立ち直るまでに暫くかかっていた跡部を見た忍足は



「ほら・・・やっぱり小悪魔やん・・跡部の上手いってるって」

と呟いたのだった。





















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