時には小銭で
「跡部・・・小銭」
「アーン?」
「100円玉・・・あるったけ」
「お前なぁ・・・・」
手を差し出す不二に呆れながらも、跡部はズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「無ぇよ・・・」
「もぉ・・・いつもは使いもしないのに、ポケットでじゃらじゃら言わせてるくせに、
肝心な時に役に立たないんだな」
「あのな!・・・」と言いかけた跡部の言葉を遮るかのように忍足が
「跡部も不二にかかったら形無しやなぁ・・・」と笑いながら
「おいでーや、不二。2PLAYでやろ」と不二に声をかけた。
「サンキュ」嬉しそうに不二が忍足の方へ掛けて行った。
「なんなんだよ・・・」不二の背を見ながら跡部はぶつくさ言いつつも、
両替機に向かって歩き出す。
ほとんどの買い物を顔パスで済ませるような店でしかやらなかった跡部が、
不二と四六時中一緒に居る様になってから、ポケットに小銭を持つようになっていた。
発作のように、思いつきで自販機の前に立ったり、スーパーにふらりと立ち寄って、
アイスクリームなどを手にする不二に、臨機応変に対応するためだった。
不二にしてみれば、自分の買い物くらい自分でする・・・と言うところなのだが、
跡部はそれをよしとしていないようで、最初は言い合いになったりしていたが、
最近では不二が折れて、跡部のしたいようにさせていたのだった。
両替機の前に立ち、高級ブランドの財布から万券を取り出すと、それをどんどん小さな額へと
変えていく・・・かつての跡部からは想像もつかない現実の目の当たりにし、
そんな彼の姿に、他のメンバーは改めて驚きを覚えるのだった。
「ジャラ銭跡部・・・」向日が跡部を見て呟いた
「激ダサっ」宍戸が続いて言った
跡部が両替を終えて忍足と不二がやっているゲームの傍に来ると
溜息をつきながら二人を見ている何人かの人が目に入った
「やるなぁ〜不二」
「君もね」
絶妙のコンビネーションでハイスコアをたたき出している二人。
周りの人間もそんな二人に釘付けになっていた。
「他に勝てるもんねぇのかよ・・・」宍戸は呟きながら、麻雀のゲーム機へと足を向け、
「ほんとにな」と向日は格闘系のゲームへ、ジローを連れて向かうのだった。
「ほらよ・・」両替してきた100円玉を渡しながら言う跡部に
「気が利くね。けど怖いや・・・」と不二が苦笑いをして言った。
「うっせーよ」拗ねたような跡部に、不二は笑顔を向けると、忍足と何度か同じゲームに
挑戦を繰り返した。
何度目かにハイスコアを叩き出した不二は、次のゲームを探して立った。
「ちょっとブーム過ぎちゃってるけど」と言いながら不二は次のゲームを始めた。
もの凄い速さのステップを間違えることなく華麗に踏み続ける不二に
またしても周囲から溜息が漏れた。
自分のゲームを終えたメンバーも、それにつられるように、集まってくる。
「をい・・・あれ」と不二の荷物も持ったまま不二の姿に見入っている跡部を見て宍戸が言った。
「荷物持ち跡部・・・」と言う向日に
「やってらんねぇ・・」と宍戸が言った。
ゲームを終えた不二に
「お前・・いつの間にこんなのやってんだよ」と跡部は怪訝そうに言った。
「ん?随分前だけど、橘と遊びに行った時に神尾が来ててさ、そん時に教えてもらった」
と不二は答えた。
「はぁ・・・神尾ねぇ・・・」と溜息をつく跡部の手を引いて
「あれ、一緒にやろう」と不二が言った。
二人で並んで銃を構えてゲームを始める。
次々と早々に場面をクリアーしていく二人に周りは溜息にも似た感嘆の声を上げていた。
「流石だね、跡部」という不二に
「お前こそな・・・」と跡部が言った。
暫く同じものを、リプレイした後、次は、曲に合わせて光を押すゲームに、
不二は跡部を引きずっていった。
反則だけどね・・・と言いながら、不二はそれを跡部と一緒に楽しんだ。
ようやく不二と一緒に楽しむ時間を共有できたと跡部は実感し、
次々と小銭を消費していった。
「最後に残ったこれで・・・」と不二が辺りを見渡して
「行こう!」と跡部の手を引いて小走りに、最後の目標に向かって移動した。
「何だよ」
たどり着いた先はプリクラだった・・・
「はぁ?」と溜息混じりに呆れる跡部を無視して
「ほら、入って」と不二が跡部の背を押した。
「冗談じゃねぇ・・・」と言う跡部だったが、不二に半ば強引に押し込められて
少しムッとした表情をしていた。
男同士だけど、いいよね?と、不二は楽しげに画面の前に立った。
「プリクラ跡部・・・」少し離れた先で宍戸と違う格ゲーをしていた向日がボソリと呟いた。
「超ダサっ・・・」宍戸の声が返ってきた。
「いいなぁ〜俺も不二とプリクラしたいなぁ〜」と言うジローに
「ハハハ・・・跡部に殺されてもええんやったらチャレンジしてみ?」
と忍足が言った。
「それははこれで・・・・それから・・・」
と画面を見ながらボタンを押す不二を眺めながら跡部は
(勘弁してくれ・・)と心の中で呟いた。
浮名を流していたときも、譲らなかった一線の一つに、これがあった。
まさか、不二に連れられてくることになるとは・・・
跡部は馬鹿らしく思えて仕方ないように、心底呆れたようにため息をつくのだった。
「ほらっ!ポーズして!」と腕を組んでくる不二の言われるままにポーズをとると
カシャっという音がした。
「跡部?」分かってるよね?と言わんばかりの不二に促されて、
やや引きつりながらもご希望通りに跡部は微笑んで見せた。
そして、不意に思いついたかのように、ニヤリと笑って、
最後のショットの時に、クイッと不二の顎に手を当ててキスをしたのだった。
装飾用の別画面を見ながら、不二は跡部を一瞬睨んでから、
恥ずかしそうに他の視線からそれを遮るように隠したのだった。
そして、でプリントが出てくるのを待つ二人の後ろに、他の面子が集まってきた。
「はぁ・・・」
「ごちそうさん」
取り出し口から出てきたシートを覗き見ながら、皆が口々に言った。
「はい、半分」と言いながら、不二は傍にあったはさみで自分の分と跡部の分を切り分けた。
「あぁ・・・」と答えながら跡部はそれを手にした。
後日、跡部の超高級な財布に、カードと一緒にそれが入れられているのを
確認した面子が絶句したのは言うまでもない・・・
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