不如帰

















「殺すよ」


「え?なっ・・・何?」


「いい加減にしないと、殺すって言ってるんだ」


「やっ・・・もぉ・・・物騒だなぁ〜」


「マジだ」


「不二らしくないよ」


「何を基準に、そう言ってるのか知らないけど、これが僕だ」


「・・・・・」


「そんな目でみてもダメ」


「ちぇーーっ」


前を歩く不二の少し後を、困ったような笑みを浮かべながらついてくる千石を、

不二はうざったそうに冷たく突き放すように話を返していた。







「前はそんなことなかったのにさ・・・」


「状況は変わるものだ。生きてるんだから、時間だって流れてる」


「そりゃそぉだけどさ」


「どうしてここまで、君が僕にこだわるのかが僕には理解不能だよ」

不二は、ふっとため息交じりの息をついた。


「どっちもどっちの、今更なんじゃない?」


「違う」


「そうかな」


「君は知らないだけだ」


「あいつのホントのとこ?」


「あぁ」


「何様俺様なんじゃなかったっけ?」


「表向きだよ」


「へぇ・・・」


「それに、僕が嫌なんだ」


「何が?」


「彼のあんな顔を見るのがだよ」


「え・・・意外・・・」


「煩い。ホントしまいに、刺すよ」


「だからさ・・・不二らしくないって・・・怖ぇ」


「あぁ、おおいに怖がってくれ」


「可愛がって啼かせたいのに」


「千石っ!」

キッと不二に睨まれて、千石はうな垂れた犬のように肩をすくめたのだった。


「もぉ・・・困った奴だな」苦笑いをして、不二はまた、目線を前に向けた。


「そんなに惚れちゃった?」


「惚れさせられたんだ」


「うわっ・・・何がそんなによかたのさ?俺ってこれでも結構テクってたろ?」


「悪くは無かったな・・・いや、むしろ良かったよ」


「じゃ、なんでさ。性格だって、俺の方が優しいはずだけどな」


「それこそが、彼故のなせる業ってんじゃないの?」


「曖昧だな・・・」


「いや、明白だ」


「あぁ・・・なんか何気にブロークンハート?」


「とっくにだろ?」クスっと不二は笑った。


「そこ、笑うとこじゃないっしょ?」もぉ・・・と千石は情けないような顔で、
不二を覗き込んだ。


「千石・・・」


「とりあえず。これ以上、嫌われたくないから、今回のところは引くけど、

諦めないからね」


「とりあえず聞いとく」


「生きてるんだから、時間だってながれるんだろ?形勢だって変わるっしょ?」


「どうかな」


「どっていでもいい。鳴くまで待つよ。不如帰を」


「ふんっ・・・君がそう言うなら。好きにしな」

じゃ!と、不二は前を向いたまま、千石に振り向きもせず、目的の場所へと駆けて行った。

千石は、目を細めながら、その背を見つめて見送った。

そして、ずっと向けた目線の先に、小さく見える黒い車と、その傍に立つ男の姿。

その男に向けて、不二がどんな顔を向けているのか分からないが、

きっと、弾けんばかりの笑顔を向けているだろうと想像できた。

随分と古い記憶の中で、かつて、自分にも、何度か向けられたことがある、あの笑顔を・・・






男同士という関係が要因だったとは思えなかったが、男同士だったがゆえに、

固執することなく、ステディな関係ではなかったが、情を交わす関係を続けていた。

ぬるま湯のような、居心地良さに、どっぷり浸かって、慣れきったころに、

揺ぎ無い思いをぶつけて、中に割って来たのが、あの男だった。





数多の浮名を流しながら、そのほとんどが面白半分、嫉妬半分で流されたデタラメだったと

知ったのは、不二が、その男を唯一と選んで直ぐだった。

それでも、千石は、諦めずにいたのは、不二自身が強く拒否ることもなかったため、

だらだらと半年近くも関係を続けてきた。




ところが、最近になって、不二が露骨に拒否の意思を示すようになって、

千石も戸惑いを感じていたところだった。








『口にはしないけど、顔に出てさ・・・そんな顔をさせるのが嫌なんだ』







惚れたんだろう・・・と千石は思った。

本気なんだろう・・・二人ともが・・・とも思った。






それでも一縷の望みを求め、おどけたふりで、関係の継続を口にしたが

返ってきたのは、「殺すよ」の一言だったのだ。








しょーがないよね・・・

惚れてるのは・・・

きっと自分もそうだろうから・・・

ただ、不二が幸せでいてくれるなら、それでいい




不二を乗せて走り去っていく車を見つめながら、「あーあ」と千石は少し自虐的に呟いてから、

ポケットに両手を突っ込んで、一人歩き出したのだった。












「で?」


広い外車の車内、隣に座り、僅かに怪訝そうにしている男からの言葉に、不二は、


「いい加減にしないと、殺すって言った」と、窓の外の風景に目をやりながら、独り言のように

答えた。


「ふんっ・・・」


不二はちらっと、横目で盗み見るようにとなりの男を伺うと、どことなく、彼は嬉しそうな
笑みをうっすら浮かべているようだった。








「君は鳴かない不如帰はどうするタイプ?」


「はぁ?」


「はぁ?じゃない」


「ふんっ・・・俺様の前で、そんな真似は許さねぇ」


「なるほどね。でも、それでも鳴かないなら?」


「殺して、最後の断末魔の鳴き声を聞いてやる」







「いいね・・・それ」


「ん?」


「ゾクってくる」不二は小悪魔のような笑みを浮かべ、男を見つめた。







ふんっと、小さく男は笑ってから、不二の顎を掴んで、口付けた。


貪るような

食い尽くされるような

そんな強い情を含んだ口付けに、

不二は溶けそうになる自分がたまらなく心地良く感じて仕方なかった。









「僕が啼かなくなったら、君の手で殺してくれ・・・」


「いいぜ。お前がそう望むなら」


「でも、一人は嫌だよ」


「あぁ・・・そん時は俺も後で行ってやる。お前が居ない世界は意味がねぇからな」










「跡部・・・愛してる」


「あぁ・・・」


二人は引き合う磁石のように、再び口付けをしたのだった・・・




















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