真昼の月


















「ほら、見て。跡部」

そう言って、不二が空を指差した。





休日の昼間、跡部邸のバルコニーで、お気に入りの紅茶とケーキを前に、

ベンチに凭れて、二人は本を読んでいた。



不二はいつものごとく、さっと斜め読みでストーリーを一通り流すと、

視線をあっちこっちに移す。



気になるものを観察した後、今度は、じっくり腰を据えて細かな描写の

一つ一つを、消化していくように読み返す。



その作業に入ろうと、ふっと空を見上げた時、その視線の先に、

空の青の中に、薄く白い月が浮かんでいるのを見つけたのだ。





「んだよ」指された先を見ようと、跡部が本に落としていた視線を上げた。



「綺麗」



「別に珍しいモンでもねーだろ」



「そりゃそうだけどさ」



「なんだよ」



「自分が綺麗だって思うものを、君と一緒に見たいじゃん」

と言った不二は、心地よい陽射しの中で、

空に儚くうっすら浮かぶ月に負けないくらい、綺麗な姿で微笑んでいた。



一瞬、見とれて言葉を失っている跡部に



「どうかした?」と不二が尋ねる。

薄茶色の髪も白い肌も、陽に透けるようだった。



「なんでもねぇよ」

ボソリと跡部は答えた。



「僕が綺麗だって思うものを、君もそうだって、思ってたらいいかなとか

思ったんだけどな・・・」



「誰も、そうじゃねぇって、言ってねーよ」



「ほんと?」



「あぁ。綺麗だ」



「よかった」ホッとして微笑むと、その顔は一層美しさを増した。



「お前もな」とつい口にした跡部



「え?」



「なんでもねぇよ」



「え〜っ。何だよー。教えてよ!」

そう言いながら、不二が跡部にじゃれかかる。



跡部はくぃっと不二を引き寄せて、驚いたような顔をする不二の

深い蒼い瞳を見つめた。



「跡部?」



不二の顎に手を当てて、引き上げて跡部が言う。。

「ゾクっとくるくらい、綺麗じゃねぇか」



ぱっと顔を染めた不二の唇に、跡部がキスをした。



「んっ・・・」

声を漏らす不二の口内を、深く貪るように、跡部は舌を絡ませた。

熱く蠢くそれが、蕩けるように甘美に思える。

徐々に力の抜けていく体を、跡部は強く抱きしめた。







「勝手にどっかに、行っちまうんじゃねーぞ」と跡部が呟くように言う。



「行かないよ・・・どこにも」潤んだ瞳の不二は、この上なく、扇情的に見える。



「俺と一緒に見ればいい。俺と一緒に感じればいい」跡部は片方の手の指先で、

不二の体を辿っていった。



「ん・・・」



再び、引き寄せられるように、二人は唇を重ねた。

陽の光の下、滑り込んでくる跡部の指先に触れられた部分が、

痺れるように熱くなる感じがして、不二は、自分がのぼせていくような気がした。


肌蹴られたシャツから、外気の流れを感じながら、

跡部に強く求められ、

そして、その背に縋りついた。








「あっ・・・んっ」甘い不二の声を聞きながら、跡部はその身に溺れていく。









お前が、綺麗だと言うものを、一緒に見よう。



お前が、悲しいと思う時は、一緒に悲しんで、その悲しみを

癒してやる。



お前が、楽しいと思う時は、一緒に楽しんで、その喜びを

増やしてやる。



お前が、いつも幸せでいられるように。

俺は・・・お前のなんにでもなってやる・・・








そう思いながら、跡部は、目の前にさらけ出された、不二の首筋が、

薄く白い月よりも綺麗だと思うのだった・・・






















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