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「不二さんっ」

「ん?何?長太郎君」

「これ、この間、不二さんからお借りしてた本です」

「あれ・・・もう読んだの?早いね」

「えぇ、面白かったんで結構、スラスラと読めちゃいました」

「そっか、良かったよ」

「それでですね・・・」

「うん・・・」






なんとも、お上品な雰囲気で、会話を和やかに続ける不二と鳳。






「で?何だ?あれ」

「何て、言われてもなぁ・・・」


部室の片隅で、ふんぞり返って椅子に腰掛けて、あからさまに不機嫌そうに

そんな二人の様子を見て、一言呟いた跡部に、忍足は苦笑いするしかできず・・・




遠目に見ても、近くで見ても、不二と鳳のやりとりは、背の高い優しい彼氏と

楽しそうに会話する、初々しく可愛い彼女にしか見えなくて



「へぇ・・・そうなんだ?」

「そうなんですよ・・・・で・・・それがですね・・」

と、とてつもなくお茶目な笑顔で、鳳と語らいながら、周りの視線など全くといっていいくらい

分かっていない不二に、本家本元の旦那である跡部の不機嫌ボルテージは、ますます上がっていくのだった。





眉間に皺を寄せて、ピクピクさせながら、二人を見ている跡部を見かねて

「せやから・・・気になるんやったら、直接聞けや」呆れたように言う忍足に

「何を聞く必要があるんだ。冗談じゃねぇ」と跡部はムッとしながら答えた。

「そーゆーのんが、めっちゃ気にしとるっちゅーねん」溜息混じりに言う忍足に

「ンだと?こら!」と、跡部がガタンと音を立てて、立ち上がった。

「はいはい・・・なんでもございません、なんも見てません」

と言いながら、肩をすくめて忍足は、跡部のとばっちりの射程圏内から外れていくように動いた。






「っと・・・」と遅れて部室に飛び込んできた宍戸は、手前の不二たちに軽く挨拶をした。

「お疲れ、宍戸」

「お疲れっす、宍戸さん」

「おう」と返事をして、部室の奥に目線を向けた宍戸は、足を進めるのを躊躇った。





「なんだよ・・・今日は、何、拗ねてんだ?」と小声で避難してきて近くにいた忍足に、尋ねた。

「そこの和気藹々が、気に入らんみたいやで」と忍足は、顎をしゃくって不二たちの方を見た。

「はぁ?バカじゃねぇの」

「言うたらあかんで。聞こえたら、えらいとばっちりきそうやから」

「なんだよ・・・・ったく」





「クスっ、じゃぁ今度、お邪魔しても構わないのかな?」目をキラキラ輝かせながら言う不二に

「えぇ・・・いつでもどうぞ。母も喜びます」と、鳳は優しい眼差しで答えていた。





と突然、ガタッと音を立てて、跡部が立ち上がると、パチンと指を鳴らして樺地を呼んだ。

「帰るぞ」という跡部の一言に、樺地は答えていいのかどうか戸惑っていた。

というのも、高等部にあがってから、跡部の横は不二の場所と相場が決まっている。



「あれ?帰るんだ?跡部」不二が早いねと言いながら跡部に言った。

「うっせー。俺は忙しいんだ」

「予定あったんだ・・・ごめん。言ってくれればよかったのに・・・」

「んだよ」

「いや、今日は、こっち・・・誰も居なくってさ。帰りに一緒に買い物でも行って、

夕飯、僕が作ろうと思ってたんだ・・・それで・・・そのまま、泊まってもうらうかなとか・・・」





話の展開に、跡部のみならず部室内の誰もが

『さぁさぁどうする?』と心の中で呟いた。




一旦、用事があるように言ってしまった跡部は、それが、不二と鳳のやりとりにヤキモチを妬いたからだなんて

口が裂けても言えるはずも無く、それを知ってる他のメンバー達も、このあとの跡部の返事を

興味深く待っているのだった。









「ったく・・・しゃあねぇな。付き合ってやる。とっとと帰る用意しろ」

「え・・・でも用は?」

「俺の用は、今日じゃなくても死なねぇけど、お前は今日、一人だと寂しくて死んじまうかも知れねぇだろ」

「ありがとう。流石、跡部だね」嬉しそうに微笑む不二に

「早くしろ」と言って、跡部は一人部室を先に出て行った。



それを見て、一番ホットしたのは、何を隠そう樺地だった。



「じゃぁね、長太郎君。また今度」

「はい。僕は、いつでもいいですから。不二さんの都合のいい時に是非」

鳳は、そう言って不二を送り出した。

「じゃぁ、お先に」と、部室を不二が出て行ったのを見て、忍足と宍戸は一気に脱力をした。







「あれ?どうしたんですか?みなさん」と言う鳳に



「知らんわ・・・アホらし・・・」

「冗談じゃねぇ・・・」

と忍足と宍戸が声をそろえて言った。






「結局あれやん・・・跡部の取り越し苦労ちゅーんかなんちゅーの?ヤキモチか?」と呟く忍足。

「やってらんねぇぜ。ダッセーな」と宍戸はムッとした顔で言った。

「どうしちゃったんでしょうね?」と一人お暢気なのは鳳だけ・・・



そして部室には、苦労人たちの溜息が、静かに響くのだった。










「樺地くん、置いてきちゃったけど、よかったの?」跡部に並ぶように歩きながら、不二が言った。

「別に、お前がいりゃぁいいことだ」跡部は、前を向いたまま答えた。

「跡部・・・」嬉しそうでいて、どこか複雑そうな顔で、不二は跡部を見上げた。

「ンだよ・・・」そんな不二に、跡部は足を進める速度を緩めて声をかけた。



「僕は嬉しいけど・・・皆は、どうなんだろうって思ってさ・・・」

「ん?」

「折角、上に上がってきても、僕が君を独り占めしてるみたいになってる・・・」

『何を言ってんだ?こいつは・・・』と、跡部は一瞬思ったが、その奥の不二の心を見透かすと

安直に口に出して言うことは控えた。

「誰も、お前のことを、そんな風には思っていやしねぇよ」一言だけ小さな溜息を共に跡部は

不二に言うと『んなこたぁ、どいつもこいつも百も承知だろ?』と心の中で呟いた。

「そうかな・・・」

「そーだよ。っつーか、俺様がそうだって言ってんだから、そうなんだよ」

跡部らしい回答に、不二は、ふっとそうなんだろうなと何故か思える自分に微笑んだ。



「ここ(氷帝)に来て良かったと思ってる。みんな、ほんとに良くしてくれる。

・・・きっと、君のお陰なんだなって思う・・・」



「はぁ?」『そりゃ違げーよ。俺が呼んだからっていっても、あいつらが本当に気に入らなきゃ

そこまでの付き合いしかしねぇだろうし、その証拠に、昔の俺とネタことある女で、あいつらに

特別視された奴なんて、だれも居ねぇよ』跡部はそう思いながら、少し困ったような顔で不二を見た。








「あいつらは、そんな単細胞じゃねぇよ」暫くしてポツリと言う跡部に

「ん・・・分かってるけど・・・」と不二は苦笑いをした。

「分かってんなら、くだらねぇこと考えたり言ったりするのはヤメロ」

「ごめん・・・」

「お前はお前だろ。何に遠慮する必要があるんだ。俺が俺のパートナーに、

お前を選んで、お前もそれを選んだ。それをあいつらも認めた。それだけだ。

それを認めさせるだけもモンを。お前が持ってるってことだろ。理屈なんかじゃねぇよ」



そう言ってから。跡部はさっきの事を思い出して『あぁ・・・こいつは・・・』と心の中で

呟いた。そして『好きにやりゃぁいい』とそう思えて、

変にヤキモチなんか妬いてしまった自分に。自然と苦笑いが漏れた。






「お前はもう十分、コッチ(氷帝)だ。くだらねぇことで、不安になる暇なんてねぇはずだけど?」

1000人の励ましより、何より自分を再起させて、支えてくれるたった一人の言葉に

不二は、心からの笑顔を跡部に見せた。



「そうやって笑ってりゃいい」そして、跡部もその笑みに優しく微笑み返すと

ポスっと不二の頭に手を当てた。





『こいつが俺を独り占めしてるってことより、俺がコイツを独り占めしてるっつーことのほうが

恨み買ってるってのが、ホントのとこだろうけどな』

心の中で呟きながら、その正当な権利を手にしていると確信する跡部は、表現できないような

満足を感じるのだった。









「やっぱ氷帝にしてよかった」

「ん?」

「君とずっと居られるから」

「あぁ・・・」





すっと手を差し出して不二は跡部を見上げた。

「手・・・繋いでいい?」

ふっと微笑んで跡部は「あぁ」と答えながらその手を握った。








買い物へ向かう道中、嬉しいような恥ずかしいようなそれでいてとても

満たされた幸せを感じながら、たまにお互い情緒が不安定になってしまう自分たちは、

なんだかんだ言っても、まだまだガキなんだろうと跡部は思った。



そして、どんな時でも、もっと揺るぎない自分でいて、

不二を包み込んで支えてやれる男になろうと、密かに心に誓うのだった。




























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