二人の常識















「・・・でさ」


「あぁ・・・」


「・・・それで・・・こうなる訳」


「そうか」


「で・・・これでいいかい?」


「ん?・・・あぁ・・・いいんじゃねぇ?」


「ありがとう。それから、こっちなんだけど・・・」


「はぁ?それは、お前が好きにすりゃいい」


「でも・・・」


「いちいち、そこまで関わってらんねぇって」


「そっか・・・・じゃぁ、適当にやっておくよ」










部室の上座で、繰り広げられている光景。

生徒会長の跡部と、書記の不二の会話。

それは、いつものことで、文化祭が近い最近では、生徒会室以外のそこここで、

よく見かけられるようになっていた。





放課後、生徒会での打ち合わせがない時は、部活が始まるまで、

部長業務もある跡部のため、不二は、部室に資料を持ち込んでいた。






「じゃぁ、これも副会長と決めてもいいかな?」

不二の一言に、跡部の眉がピクリと動き、眉間に皺がぐっと寄った。


「ンだと?」


「え?ほら、これを好きにしていいんなら・・・」

と、言いかけた不二に、突然、不機嫌オーラをマックスで噴出したように、跡部が

「駄目だっ!」と怒鳴ったのだ。


「え?」どうして?と言った顔をする不二と


『何だ?何だ?』と、その光景を見やるレギュラー陣。


部室内に、緊迫した空気が流れたのだった。








「だったら・・・どうしたらいい?」尋ねる不二に


「後で、俺が決める」と、跡部はつっけんどに答えた。


「そっか・・・分かったよ」


「あぁ・・・」くれぐれも、勝手に決めるなという跡部に、


不二は「ごめんね」と答えた。







と、その時だった。







「おい!跡部っ!何だよ?その口のきき方は!」

と、反対サイドから声が上がった。




「え?」と、声の方を見るレギュラー陣と不二と跡部。

その視線の先には、お怒りモード炸裂の、ジローが立っていた。



「はぁ?」と言う跡部に


「いい加減にしろよ!さっきから聞いてりゃ偉そうに・・・不二を何だと思ってんだよ!」

マジモードで訴えるように言うジローに、そこに居合わせた全員が、鳩に豆鉄砲状態だった。


「ジロちゃん?」小首を傾げながら、いつもならぬジローの様子に、不二が声をかけた。


「不二も不二だよ!どーしてあんな言い方されて、フツーでいられるんだよ!」


「え?」


「あんな偉そうに・・・」

半泣きで言うジローが、痛いほどいじらしく、周りで見ているほうが辛くなるほどだった。


「ジロー、あのな・・・」と、言いかける忍足に、跡部は、すっと手を上げてそれを制して

不二とジローの二人に、話をさせるようにしむけた。


「ありがとう」ジローの前に立って、不二は静かに言った。


「不二ぃ・・・」


「でも・・・あれは、いつもの跡部だから、僕は、何とも思ってないんだよ」


不二の言葉に「どーして?」と言った顔をするジロー、

さらに、何か言おうとするジローに、不二はふっと柔らかく微笑むと、

「そういうところもひっくるめて、僕は、跡部が好きだから」と静かに言った。


「不二・・・」


「だからね・・・」いいんだよと、不二は、ジローに言い聞かせるように言うと、

すっと、ジローの首に手を回して抱きつくと、耳元で「ありがとう」と言った。


はっ・・・と、皆がその様子に釘付けになるが、跡部は、それを黙って見ているのだった。


「不二・・・」

突然の不二からの抱擁に、幽体離脱したような状態のジローは、不二が身体を離した後も、

鼻先に残る不二の残り香に、呆然となるのだった。









「この件については、また後で」と、生徒会資料を腕に抱いて言う不二に

「あぁ」と跡部は短く答えた。







着替えが終わって、コートへ向かう途中、ジローの横通り越しながら、不二は小さな声で

「いつもはあんな言い方だけどさ、かなり恥ずかしくなるような台詞を、

しらっと言ってくれたりするんだ」と、悪戯っぽく言って、駆けていくのだった。






「チャチャ入れる間なかったか?」という忍足に


「訳わかんねぇ・・・」とジローは答えた


「ま・・・しゃーないか・・・あいつら二人だけの世界には、何をどないしても、

他の人間は入っていかれへんから・・・」自分のものさしで、あいつらを測ったらあかんで

と、忍足は苦笑いしながら、言ったのだった。















「で?どうしてこれはだめだったの?」という不二に、


「だから、お前は、何もわかっちゃいねぇってんだよ」と跡部が答えた。


「何?それ・・・」


「お前が、一人で決裁できることは、お前がすればいい。けどな・・・

誰か他のやつを巻き込まねぇと決められねぇことには、ちゃんと、俺は顔を出す」


「訳わかんないよ・・・」困ったように言う不二に


「他の奴と、お前がタイマンになるのは許さねぇっつてんだよ」





「跡部・・・」


「分かったか、アーン?」





「もぉ・・・」

暫くして、ようやく跡部の言わんことを察した不二は、頬をそめて呟いた。








「・・・にしても、ジローのやつ・・・」と、言いかけた跡部に


「見逃してあげてね?」と、不二が言った。


「今回だけな」


「ありがとう」








跡部と不二の、特別な関係が作り出す独特な空間。

それは、たとえだれであろうと、決して立ち入ることができない

特別なもの・・・・





跡部に食ってかかるジローの姿に、


「しゃーねぇな」と思う跡部と

「ありがとう」と思う不二




そして、そのジローが、二人の関係を本当に理解するのは、

いつのことなのだろうか・・・・























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