跡部だけが解る「不二語」
5日前の午後一番のメール・・・
『景吾・・・アイタイ』
『はいはい。放課後な』
3日前の2限目の後に届いたメール・・・
『会いたい・・・』
『昼休みに弁当食うんだろ?』
そして・・・今・・・
場所は、教室。
時は、授業中・・・
『逢いたい・・・空は眩しいよ・・・』
隠すようにメールを覗いていた跡部が、
ガタっ!!!
静かな教室の中、大きな音と共に、バッと立ち上がった。
一斉に降り注ぐ、クラス中からの視線、
「どうしたんだよ」と、隣の宍戸が怪訝そうに見上げる・・・
と同時に、前で説明をしていた教師が
「どうした?跡部」と声をかけた。
「あ・・・っと・・・頭痛が酷くて・・・」
と、切羽詰まったように言う跡部に
「そぉか・・・保健室へ行ってこい」と教師が言った。
「はい・・・失礼します」
そう言って跡部は、教室を後にした。
「どうしたんだ?アイツ・・・突然」
と、宍戸は、不思議そうに、その背を見送った。
教室を出た跡部は、保健室へ向かうための階段を下らず、
反対の階上を目指した。
「ったく・・・何やってんだ」
屋上の片隅で、携帯を握り締めたまま、ごろんと空を見上げている不二に、
やって来た跡部が声をかけた。
「あ・・・跡部だ・・・」
体を起こして、綺麗に微笑みながら、不二が嬉しそうに呟いた。
「どーしたよ」
優しい微笑みを不二に向けながら、跡部は不二の傍へ歩いていった。
「何だかね・・・跡部景吾欠乏症みたいでさ・・・」
隣にしゃがんた跡部の肩に、もたれるようにして不二が言った。
「そんな病気はねぇぞ」と言う跡部に
「僕にはあるんだよ」と不二が答えた。
ったく・・・と舌打ちしながらも、跡部はそのまま、
不二と並んで、同じように眩しそうに空を見上げたのだった。
単身赴任をしている不二の父親が、1週間の休みをとって帰国しているため、
部活が終わった後、二人は一緒に帰るものの、どちらの部屋に寄るということもなく、
各々の生活を過ごしていた。
学校内でも、昼休みと部活で一緒に過ごすくらいで、
この数日、こうしてまったりと、二人っきりで時間を過ごすことがなかった。
「ま、俺もだけどよ・・・」
そう言って、跡部は、不二の頭をくしゃっとした。
「授業はよかったの?」と聞く不二に
「最上級の呼び出しかけたくせに、よく言うぜ」と、跡部が呆れたように言った。
「クスっ・・・流石、跡部だね」
「当たり前だっつーの・・・」
そう・・・
跡部は知っている。
不二が使う言葉の、一つ一つに含まれる意味を・・・
そして、たった一言でも、呼び出しには、いくつかの段階があるということを・・・
メールでも手紙でも、不二は、くどくどと想いを告げるということはしない。
ただ、日本語特有の言い回しを使ったり、
漢字や言葉遣いで、微妙に自分の気持ちを表しているのだった・・・
不二がそのことを説明することがないため、気づく人間はごくごくわずかで・・・
それでも、細かいところまで一見しただけで分かるのは、跡部くらいなものなのかも知れない。
「アイタイ」とメールがくれば、
それは、まだ余裕がある呟き程度のことで、とり急いだ要求ではない。
「会いたい」と書かれていれば、
少し余裕をなくしてきている状態で、
都合がつくもっとも近いタイミングで、跡部は、不二に会いにやってくる。
そして最後の
「逢いたい」は・・・・
不二の切羽詰った心の現われで、
しょっちゅう使われる表現ではないだけに、何をおいても跡部は、不二の元へ飛んでくる。
まさに最上級
「良かった・・・来てくれて」
そう言って、不二は、隣で自分を優しく見つめる跡部にしがみついた。
そんな不二が愛しくて、跡部は。頭を優しく抱えるように自分に引き寄せて、
そっとその薄茶色の髪に唇を落とした。
「お前の願いは、叶えるって言ってんだろ?」
「そうだね・・・こうして、飛んで来てくれるのは、君だけだよ」
「他にいたら、洒落ンなんねぇよ」
「いるわけないじゃん・・・僕の微妙な表現分かってくれるのって・・・」
「単純明快に見えて、ある意味一番回りくどいからな・・・」
そう言って、跡部は苦笑いをした。
「けど、君には全部お見通し」
「俺様を誰だと思ってんだよ」
「誰様、何様、泣く子も黙る跡部景吾様・・・」クスっといたずらっ子っぽい笑みを浮かべる不二に
「でなきゃ、お前を満足なんてさせらんねぇだろ?」と、跡部もクッと、笑みを見せた。
「ん・・・」
頷く不二の顎に、そっと手を当て、クイッと引き上げると、跡部はキスをした。
「ん・・・はぁっ」徐々に深まる跡部のキスに、
青い空の下、静かな屋上に、不二の甘い声が漏れる。
「今日は・・うちに来てよ」
「ん?親父さんいるんだろ?っつーか、裕太も、帰ってきてんじゃねぇの?」
「明日、発つんだけどさ・・・父さんが、久しぶりに、君に会いたいって・・・」
「まぁ、いいけどよ・・・どうなるか知らねぇぜ?」その後・・・と、
含みのある微笑を見せて、跡部が言った。
「クスッ・・・そうありたいね・・・泊まってくだろ?」
「あぁ・・・覚悟が出来てんならな・・・」
「ご無沙汰だったからね・・・お手柔らかに・・・」
「裕太もいるからな、あんまり無茶はできねぇけどな・・」
「その前に、姉さんと母さんの機関銃トークにつき合わされると思うけど?」
「あ・・・」大変なことを思い出したかのように、跡部が苦笑いをした。
イヤではない。むしろ楽しいのだが、今日のような場合は、できれば遠慮したいこと・・・
「クスクス・・・」そんな跡部を見て、不二が笑って
「ま、僕も今日は余裕ないから、早期開放のために尽力するつもりだけどね・・」
とウインクした。
「あぁ・・善処してくれ」と跡部も微笑んで答えた。
「いつも僕のために・・・ありがとう」と、不二は、跡部に口付けた。
「好きでやってんだ・・・気にすんな」照れくさそうに、跡部が答える。
「だったら、なおのこと嬉しいよ」
そう呟く不二の頭を、跡部はそっと優しく抱きかかえるように腕を回した。
その頃、すぐ後の休み時間・・・
「なんだよ・・・不二もフケってたのかよ」宍戸が忍足に言った。
「そおや。なんや。朝から溜息多いなと思っとったんやけどな」
「メールと思うけどよ、携帯見た瞬間、いきなり立ち上がるからよ・・・」
「二人でどっかしけこんどるとちゃうか?」
「あの跡部がねぇ・・・」と宍戸が呟いた。
「跡部も跡部やけど・・・・簡単なメッセージ一つで、跡部を呼び出す不二も不二やで・・」
はぁ・・・っと溜息をついて二人は黙って頷いたのだった・・・
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