distanceC
「どうだ?その後・・・」
「その節は、お手数を、お掛けしました・・・」
「いや・・・詫びるなら、わしのほうじゃよ。些か、スキを作り過ぎた」
機内のファーストクラス。
そこには、蒼雲と不二と鮫島と、3人のSPだけ。
そして、入口には、更にSP達。
政府の要人でも、こんなに警備は、厳しくない・・・
周りを見渡して、苦笑いをする不二に、蒼雲は、『こうでもしないと、あのバカが、首を縦に振らなんだ・・・』
と、言ったのだった。
「あんなことは、再々起こるものではありません・・・どうか、お気になさらず・・・」
不二は、綺麗な笑みを湛えながら、蒼雲を気遣って言った。
「いや・・・あれにとって、もわしらにとっても、お前は最早、なくてはならぬ存在じゃ。
同じ轍を踏む訳にはいかぬ・・・」蒼雲は、目を瞑って静かに言った。
「蒼雲さま・・・」
「あれは・・・よくやったと思う・・・あれだけ、狼狽しながら・・・」
「それは・・・彼が、跡部景吾だからですよ」
「お前はよく、それを言うな・・・」
「そうですか?」
「わしにはよく分からんが・・・血ということか?」
「いえ。彼自身が、という意味ですよ。だから僕は、傍に居たい・・・そう強く願って止まないんです」
「そうか・・・わしが思っていた以上に、お前たちの絆は、深く強くなったのだな」
「そう思って頂けるようでしたら・・・嬉しい限りですよ」
蒼雲の隣で、綺麗な笑みを、終始湛えている不二を見て、鮫島は、どこかほっとするような、それでいて、
身の引き締まるような思いをしていた。
朝、マンションの玄関先まで、出迎えに行った鮫島の前で、いきなり跡部は、
見せ付けるように、不二を抱きしめて、濃厚なキスをした。
「んふっ」と漏れ聞こえる不二の声は、なんともいえない色香を含んでいて、
思わず直視を避けるほどだった。
そして、不二を越して向けられる、跡部からの凍てつくような視線が、鮫島に、
いつかの事件を、思い出させた。
どれだけ・・・跡部景吾という人間が、この不二周助という男を愛しているか・・・
無言の提示が、胸に突き刺さる。
エレベターの中で、二人は、一言も会話を交わさなかった。
それも驚きだったが、跡部がわざわざ、不二が車に乗り込むまでを、
見送りについてきたことも、鮫島には十分な驚きとなっていた。
「じゃぁ・・・行ってくるよ」
「あぁ・・・俺もすぐ行く」
「うん・・・いい子で待ってる」悪戯っ子が浮かべるような笑みを向けながら、
不二が、車の後部座席に乗り込んだ。
ドアを閉め、跡部に一礼をして、運転席に向かおうとした鮫島の腕を、跡部はぎゅっと掴み、
ねじり上げながら、背後に詰め寄ると
「分かってンだろーな・・・」と、ドスの利いた低い声で、静かに言った。
ゾクリ・・・と鮫島の背に、冷や汗が流れる・・・
それはまるで、背中に刃物を突きつけられているような感覚と、同じだった。
「はい・・・命に代えても・・・必ず」誓うように言う鮫島に、跡部は「上等だ」と一言、
短く言って、その腕を解放した。
「では」と頭を深々と下げる鮫島を、跡部は見向きもせずに、
開いた窓から「何やってるんだ?」という顔を見せる不二だけを、
慈愛に満ちた瞳で、じっと見つめるのだった。
あの跡部の顔が、脳裏から離れない・・・鮫島は、苦笑いをして、はっと目を前に向けると、
不二に対して、通常では考えられないような、優しい顔を向けている、蒼雲の姿が見えた。
『わしは、あの子の・・・これからの『生』に、とんでもない重荷と枷を、課してしもうた・・・
あの子は聡い・・・故に、何も言わんがな・・・甘んじて、黙って全てを受け入れてくれたことに、
我々は、本当に感謝をせにゃならん・・・そして、あれは・・・あの子のその、命がけの決意に、
己が生を賭けて、応えねばならん』
あの事件のすぐ後だったか・・・
蒼雲が、ポツリと口にした言葉を、鮫島は思い出すのだった。
「たまにはな・・・こうして、こちらから出向いて行って、築いた絆を、より強くすることもまた、
肝心なんじゃ」静かに告げる蒼雲に、不二は黙って頷いていた。
「あれが活かすのは、マクロの目だけで十分だが・・・お前は、それと同じか、それ以上に、
ミクロの目を活かさねばならん」
「はい」
「あれのカリスマ性は、跡部家の中でも秀でたものだと、ワシは思うが・・・
得てして、ワンマンになりがちなあれを、フォローして支えるのは、お前の務めじゃ」
「心しております」
「うむ・・・着いたら予定は、分刻みじゃ・・・今のうちに、休んでおきなさい」
「はい・・・」
蒼雲が休むのを確認してから
不二は、そっと瞳を閉じた・・・
そして日本では・・・
跡部の叱咤が飛び交う中、
鳳が、正念場を迎えていたのだった。
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