distanceB















「離れてるって言っても、それは物理的なもの。捉え方の問題と思うから・・・」大丈夫・・・

そう言って不二は、鳳に綺麗な笑顔を向けた。

細部に渡る引継ぎを終えたのは、出発の予定日の、未明のことだった。



一度ならずの泣き言に、不二から叱咤を受けてからの鳳は、自分の不甲斐なさを挽回すべく、

必死になって頑張った。


あの時、痛かったのは、頬ではなくて、確かに心の奥の一点だった。

赤く腫れ、ジンとする頬よりも、ぐっと自分に視線を向ける不二に、

心が押さえつけられて、締め付けられるように苦しかった。



よく考えれば、自分は、そのために二人に呼ばれて、ここへ来たのだ。と、

鳳が冷静に、判断できるようになるまでに、少し時間はかかったが、結果的に、

普段から不二に依存することが多かった状況に、メスを入れるいい機会になった。





自分の業務は終わっていた跡部だったが、何も言わずに、不二と鳳の仕事が終わるまで、

社長室で未明までの時を、一人で過ごしていた。




「ごめん。遅くなった」

不二は、鳳が帰った後、跡部の待つ部屋に、ゆっくりと入っていった。


「時間がねぇ。とっとと帰るぞ」跡部は、それだけ言うと、さっと椅子から立ち上がった。


「そうだね」不二は、跡部の後ろに従い、二人は、社を後にしたのだった。












「明日は、鮫島が迎えに来るってな」

「あぁ」


「ま、こっちのことは、気にすんな。俺がいる」
ハンドルを手に、前を見据えたまま言う跡部に、不二は、少し意外そうな顔を向けた。


「ンだよ」そんな不二の様子が分かったのか、跡部が、ムッとしたように呟いた。

「いや・・・やけに素直だなって思ってさ・・・」不二は、苦笑いをした。

「はぁ?」

「なんでもない」不二は、困ったような笑みを少し浮かべてから、静かに呟いた。

跡部は、それに対しては何も言わず、ただ前を向いたまま車を走らせた。



車窓に肘をついて、不二は、流れ行く明かりを、ぼんやりと見つめるだけだった。











「利息は、先に払って行け」家に帰る早々、跡部は、そう言って、不二を抱き上げた。

え?と、一瞬驚いた不二だったが、ふっと微笑むと、「そうだね」とだけ答えて、

跡部の首に手を回して、しがみ付きながら、黙って身を委ねたのだった。





時を惜しむかのように、跡部は、不二の体を貪った。

次に会うまでに、消えないようにと、所有の朱を刻み、声を上げて更なる熱を乞う不二を

執拗に追い詰めていった。



荒い吐息と、か細い喘ぎが湿った音と、乾いた音とが混ざり合って、これ以上ない淫猥な響きを

漂わせていた。

めり込む不二の指先に、跡部は、顔をしかめながらも、満足げな笑みを浮かべていた。



放った精に汚れる不二の姿態が、さらに跡部を煽り、汗と混ざり合った卑猥な匂いが、

二人の脳を、奥の奥まで侵していった。





たった何日か・・・

冷静に考えれば、どうってことないようなことでも、

それは、二人にとって理由にはならなかった。



修行という名の、1年の離れ離れの、あの過去の時間に比べれば・・・

きっと、二人以外の人間なら、そう簡単に言うのだろう。

けれど、今の二人には、そんな考えは、異次元からのメッセージにさえ思えてしまう。






それほど

二人は、既に一つで、

何よりも、近い存在として、融合してしまっていると、いえるのだろう。






時であれ

空間であれ


二人を隔てる『距離』は許さない





そんな思いを断ち切るために、

跡部は今、無心で、本能の赴くままに、不二を求め

不二も、それを受け入れるのだった。



そうすることで、

二人を隔てる距離を、くだらない一時のものと、

思えるようになると・・・二人は、意識の奥深くのところで、分かっていたのだろう。











「跡部っ・・・もっと・・・・奥まで・・・もっと・・・」


「あぁっ・・・不二っ・・・引きちぎられそうだ・・・」


「ん・・・あっ・・・いいっ」


「もっと・・もっとだ」


「あっ・・あぁっ・・・」


「一緒に・・・」


「あぁっ・・・イクっ」


「くっ・・・」







何度目かも分からないほどの絶頂に、不二が放ったそれは、ほんとうにごく僅かの量しか

なく、それは、跡部も同じだった。



ただ、ヒクつくそこと、それに絡まれることを喜んでいるそれ、

滑る体と、溢れる欲に、二人は酔うように、何度もキスを繰り返したのだった。









意識を手放した不二を抱きかかえ、跡部がその身を清めてやったのは、空が白んできた頃だった。

あと数時間で、不二は機上の人となる





跡部は、静かに寝息をたてる不二の額に、優しく壊れ物に触れるかのように口付けると、

華奢な体を胸に掻き抱いて、暫しの安らぎに、自らも意識を手放したのだった。



















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