チャンス到来 - 4 -
「んっ」
熱烈で、だけど思いやるようで、甘く蕩けるようなキスに、
不二の腰は、砕けそうになる。
それを、跡部は強く支えてやった。
チュッと、音を立てて、跡部は不二を解放すると、
上から慈しむような優しい目を向けて、じっと腕の中の不二を見つめた。
記憶のずっと彼方にある、かつて自分に向けられていたのと同じ目が
そこにあった。
「イヤか?」俯く不二の顎に手を当てて、それを引き上げながら
跡部は囁くような声で尋ねた。
嫌悪感どころか、腰砕けになってしまっている自分に、
不二は戸惑いながらも、黙って小さく首を左右に振った。
「男とか女とかな・・・そんなことはどーだっていいことだ。
伊達や酔狂で、男にキスするほど、俺はイカれちゃいねぇ」
こんなに真剣に、そして間近で見詰め合ったのは、一体いつ以来だろう・・・
有無を言わさない跡部の目が、不二を徐々に困惑させていった。
そして、それと同時に、頭の中に警報が鳴り響く。
何故かは分からないが、今、これ以上ここにとどまることは避けなくてはいけないような
そんな気がして、ありったけの力を込めて、跡部を押しのけると、
わき目も振らずに部屋を飛び出し、自宅へ戻ったのだった。
「ふんっ・・・ま、今日のところは、これで勘弁しといてやる
折角のチャンスだ・・・慌てることはない・・・な」
声を掛ける間もなく、去っていった不二が出て行ったドアを見ながら、
跡部は満足そうに微笑み、呟いた。
跡部に聞かれた問いに、何故首を縦に振ったのか
何故、自分が逃げるように帰ってきたのか
跡部のあのキスの、本当の意味するところはなんなのか
跡部が自分に何を求めているのか・・・
帰って来た不二は、部屋に閉じこもったまま、答えの見つからない
堂々巡りを繰り返しながら、必死に思考を整理し、落ち着きを取り戻そうとした。
が、半時間ほど、うだうだと自分の中で、すったもんだを考えても
埒が明かないと思い切ると、深くため息をついてから、大きな決意をしたような顔で
部屋を出たのだった。
バンっ。
大きな音に、ソファでくつろぎながら、読書をしていた跡部は、
顔をあげてその方を見た。
「アーン?」
さっき出て行ったはずの不二が、再び部屋に入って来たのを見て、
僅かに驚いたように眉を上げて、本を伏せた。
つかつかと自分に向かってくる不二に「忙しい奴だな・・・」と跡部は
苦笑いをしながら『今度は何だ?』と言った。
「いくつか君に、尋ねておくのを忘れたことがあった・・・」
不二はそう言うと、ソファに座りなおした跡部の前に立った。
「何だよ」
「さっきの君の話・・・それが意味してる俺達の関係だ」
「それがどうした」
「あれは、今までみたいな幼馴染じゃく、恋人って意味か?」
「それ以外に何があんだよ」
「ってことは・・・けど・・・俺達は男同士じゃないか・・・」
困ったように口ごもる不二を見て、跡部は何か幼い頃を思い出すような気がしながら、
楽しげにニヤリと笑った。
「ヤロー同士でもセックスはできる」
自分が言いよどんでいた事を、跡部に単刀直入に言われ、不二は絶句したまま
目を見開いて跡部を見た。
「突っ込む場所が、全然無いってわけじゃねぇからな」
ふんっと、跡部は余裕を含んだような笑みを不二に向けた。
「ちょ・・・ちょっと待て」
「何だよ」
「突っ込むって・・・もしかして、それは俺じゃなくて君の方なのか?」
「当然だろ」
「と・・・当然って・・・」
「俺様の美技で、天国見せてやる。安心しろ」
「冗談じゃない!」自分のあそこに、アレを・・・と想像した不二は
思いっきり大きな声で否定を叫んだ。
「結構いいらしいぜ?」跡部は構わず言った。
不二の中で、次々と思考がシャットダウンしていく。
聞きたかったことだったが、こんなことになるくらいなら
あのまま、部屋で堂々巡りを続けていたほうが良かったかもしれない・・・
「バカが・・・」自分とも、跡部にともつかない言葉を、
不二は俯いて、ポツリと呟いたのだった。
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