チャンス到来 - 3 -














ゆっくりと近づいてくる跡部を、不二はじっと睨みつけた。

射抜くような不二の視線、同じチームメイト達なら、

背中に冷や汗もので、生きた心地がしないものだが、

跡部はまったく関せずで、それを受けていた。



目の前に立つと、ふんっと小さく鼻で笑ってから、

物凄い力で、不二を壁に押し付けた。




「何をするっ」

瞬時のことで、驚いて声を上げる不二を、

跡部はしっかりと抑え付けたまま、不敵に微笑みを湛えた表情で見つめた。

無駄な肉のついていない痩身ながら、身長も体型も不二を上回る跡部は、

余裕を漂わせるようで、不二はそれに苛立ちを感じるのだった。




「ったくよ・・・俺が節操なしっつーなら、

お前はとんでもねぇじゃじゃ馬になっちまったもんだな・・・」


「はぁ?」


「ビービー泣きながら俺の後ついて回ってたガキの頃がウソみてぇだ。

いつから『俺』とか言い出した?アーン?ま、外では『僕』とかっつって

カマトトぶってるらしいがな」


「俺の勝手だろ」


「ったくな・・・お前の勝手に付き合ってる俺も大概物好きってもんだぜ」


「はぁ?」


「お前な、ガキの時、『絶対傍から離れないでくれ』っつって、

俺に約束させただろ。無理だっつってんのに、『大きくなったら

景吾のお世話をするのは僕だ』とかってきかねぇし、

散々俺様を振り回しといて、『僕は同じ学校には行かない』とか言い出して

勝手に青学なんざに行っちまいやがって・・・

ま、お前のことだから、テメェの言ったことなんかとっくに忘れちまってんだろうがな、

俺はあの時から、ずっとあの約束に縛られたまんまなんだ」



跡部の話に、不二は最初、反抗的な瞳を崩さなかったが、

徐々に辿っていく記憶の糸の先に見えてきた過去の姿に、

迷いと戸惑いの色を映し始めた。



「だったら・・・」この有様はどうなんだと不二は跡部に

残っていた抵抗をぶつけた。



「お前が先につまみ食いを始めたんだろ。

待ちぼうけもバカらしいから、俺は懇願してくる女に情けをかけてやっただけだ。

勝手に俺を縛り付けといて、勝手にそれを忘れたまんまな。

それなりにヤってりゃ、ちったぁ情でもわくかと思って俺も足掻いてみたが、

結局、三つ子の魂、ガキの時の不二周助って奴に対するモン以上は

どの女にも感じねぇし、最後はやけクソになってきた時に、あれだ。

お袋に気付かれたのは、俺のそのヤケクソがバレたっつーので、

お前に相談相手になってくれって言ったのは、お前をそれでも

俺に繋ぎとめておくための、お袋なりの策ってやつだ」



さっきまで、散々コケ下ろしていた跡部に、

その原因を作っていたのが、他でもない自分だったと

しかもそれをきれいさっぱり忘れていたことに

不二は愕然としたまま、頭の整理もつかない状態になっていた。




確かに・・・

物心つく前から、小学校を卒業するまで、

自分にとって、跡部景吾だけが唯一の存在で、

それ以上のものはなかった。


家族よりも

跡部といることが当たり前のようで

それを黙って受け入れてくれている跡部に

すっかり全てを委ねてしまっていたのだった。



けれど、高学年になり、男女のことや、跡部の家柄など、

世間というものが、はっきりと見えてくるようになって

今のままではいけないと、跡部とは違う中学に進学を選んだのだ。



それからの日々は、不二は新しい環境で新しい自分を築いてきたつもりだった。

高校に上がり、さらに充実した日々をと思っていたところに、

跡部の母から連絡があったのだ。



「このところ何か悩んでいるみたいだから、よかったら話を聞いてやってくれないか」と。


そして、それから始まった尻拭いの日々。








「覚えてないにしても、意識のどっかには残ってたはずだぜ。

その証拠に、お前だって、長続きした女は居なかっただろ」





確かに・・・

どこか何時も無理をしていた・・・

と、不二は思った。

だから続かなかった。

自分の殆どを隠して、そしてそのまま、後腐れなく別れていた。

それがどうしてか分からないまま、同じことを繰り返す日々。









「とっくに俺達はお互いの人生に巻き込まれてんだ。

俺にふさわしいのは、お前だけで、

お前にふさわしいのは、他の誰でもねぇ、俺だ。

お前が悪あがきしてる間は、俺も黙ってるつもりだったからな

こうしてお前に目を覚ませてやるチャンスがなかったんだ」





「それでも・・・」お互い男だと言いかけた不二の唇を

跡部は自分のそれで塞いだ。




















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