チャンス到来 - 2 -
「言いたいことはそれだけか?」
出て行こうと、ドアのノブに手を置いた瞬間、背後から掛けられた跡部の言葉に、
不二は動きを止めて振り返った。
「はぁ?」
眉間に思いっきり皺を寄せて、跡部を睨みつける不二だったが、
中性的な面差しは、跡部に少しの脅威を与えることもなかった。
「『はぁ』じゃねぇ」
跡部は不二の怒りオーラをもろともせずに、静かに言った。
「・・・今さっき、俺が言ったことを、ちゃんと聞いていたのか?」
不二もそんな跡部には慣れっこで、冷たい目線と共に返した。
「あれだけデケェ声、聞こえるもなにもねぇだろ」
ふんっと、鼻で笑うように跡部は言った。
「そうか、だったらいい」
再び背を向けようとする不二に
「で?俺の質問の答えは?」跡部は再び言った。
「君はバカか?」再び振返った不二は、心底あきれ果てた様に跡部を睨んだ。
「アーン?」今度は跡部が心外そうに不二を見た。
「君はバカかと言ったんだ」
「ふんっ・・・俺様がバカなら、世の中の殆どの奴らはクソだな」
ふてぶてしく答える跡部に
「じゃぁ、間違いなく君は、クソ以下だ」不二は当然と言った。
「くっ・・・言うじゃねぇの」
「当然だ。子供の頃はそれでも、もう少しマシな跡部景吾って男の未来像を
描くこともできたけど、よくもまぁ、ここまで節操なしに育ったモンだって
あきれ果ててモノも言えないね」
「もうすこしマシ・・・ねぇ?」跡部は含みのある笑いを浮かべた。
「好き勝手して、いつか来る大きな責を背負うことから逃避するのもいいけど、
いざって時に、おば様達に迷惑をかけることになるようなことだけはするなよ。
お気の毒に、君って男を信じてらっしゃるからね」
「そうでもないだろ」
「どういうことだ?」
「こないだので、お袋にはバレちまってる」
「へぇ、そうなんだ。それはそれは。自業自得だったな」
「親父はどうだか知らねけどな」
「だったら、尚のこと。己の愚かさを少しは悔いて、誠意をもってこれからを生きてみれば?」
「ふん・・・他人事みてぇに言うな」
「他人事だ。俺には関係ない。ま、この間約束したから、おば様の相談相手くらいなら
いくらでも協力はさせてもらうけどね」
「ふん・・・今度はお袋かよ・・・。お前、ガキの時はうぜぇってくらい俺の後、
着いて回ってきてたくせしてよ。」
「そりゃ申し訳なかったね。でも、それは、俺が他の子と居るのを君がことごとく阻止して
くれたからだろ」
「くだらねぇ奴らとつるむからだろ」
「くだらないクソ以下が言うな」
「俺様のどこがくだらないだと?」その日、跡部が初めて不二に対して怒りを表したように
眉を吊り上げた。
「揺ぎ無い未来があるにもかかわらず、それを直視しようともしないで
おざなりに生きてるところ」
「だと?」
「君くらい頭がいい奴や、テニスが強い奴なんて俺の周りに他にもいる。
それに、彼らは君のようなバックグランドがなくても、人に後指を指されることもなく
胸を張って一生懸命生きてる。人の心を大切にして、女の子をモノ扱いしたりしない。
ちゃんと、人と付き合えて、人を愛せる奴らだ。本来なら、君という男はもっともっと光輝いて
自分に与えられたファクターを最大限に利用して、違う形で人の上に君臨しているはずだ。
少なくとも、俺はそう信じてた。でも、今の君はそうじゃない」
冷たく言い放つ不二をみて、何故か跡部は自虐的な笑みを浮かべてから
「お前は何も分かっちゃいねぇな・・・」と呟いた。
「分かりたくもない。だから、これ以上俺を君の人生に巻き込むな」
「それも分かっちゃいねぇな・・・」
「何?」
「・・・ったく・・・」跡部はそう呟くと、ゆっくりと腰を上げたのだった。
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