答えはやっぱり“阿吽”
ここ最近にもまして、ジローが無口なのは、決して眠いからではない。
むしろ目は冴えて・・・やっぱり眠るどころではない。
頭の中にはいつも同じ疑問が浮かんでは消える。
まるで水面に浮かぶ、泡沫のように・・・
ずっと考えてても、未だその答えは分からない。
それでも、ジローは考えずにはいられなかった。
何故って?
それは・・・
大好きな不二に関することだから・・・
素朴な疑問その一・・・
予定は未定だって、やりたい放題の跡部と
備えあれば憂いなしって感じの不二
ぜんぜん性格が違うのに、喧嘩とか言い争いなんかしなくて
俺たちの予定が窮地に立った時とか
どーしようもないアクシデントで訳がわかんなくなった時とか
跡部の野性の感みたいなのと
エスパーみたいな不二のアドバイスで
どんなことでもまぁるく治まっちまう・・・
不二は跡部にどんな野性のカンが働くが分かってるみたいで
跡部は、不二がそれにちゃんと対応できる備えをしてるって知ってるみたい
俺はいっつも「あれ?あれ?」って思ってるあいだに、全部が解決しちゃってて
訳分かんねぇ・・・
素朴な疑問そのニ・・・
その逆のパターンがあったりもして
えぇ!!って俺らが驚いてるスキに
何ぃ〜〜?やっちゃえー!いっちゃえー!って
不二が突然暴走しはじめる時があって・・・
でもそんな時は跡部がコエーくらい冷静で
ったく・・・とか、しゃーねぇなとか言って
ほらよ、って不二のフォローしたりして
結局、最後はまぁるく治まるんだ・・・
なんでだよ?
なんで急に役割変換してもちゃんとできてんの?
んっとに、訳分かんねぇ・・・
素朴な疑問その三・・・
みんなでカフェとか学食とか
セルフの店に行った時とかさ
跡部は何にも言わずに、勝手に席座っちゃうんだ
でも不二は俺たちのオーダー全部聞いてくれて、
しかもそれが完璧
で、
先に座っててって、一人でカウンターでオーダーして
勘定しててくれるんだ。
で、自分の荷物持ったまま、トレイに乗っけてきてくれるんだけど・・・
不二が来たらさ、どんな話の最中でも
電話の最中でも、背中向けてても
跡部ってば、さっと不二の荷物とって、イス引いたりしてさ
不二も分かってるみたいにそこに腰かけるんだ・・・
あの跡部がさ
荷物を持つんだ・・・自分から
イス引いたりするんだ・・・執事みたいに
マジで意味不明
何なんだよ・・・アレ
何なんだよ・・・アイツら
そんなこんなで、素朴な疑問は、
日々、増殖していって、数えだしたらキリがないくらいになっていた。
まるで、跡部の「今は、どうして欲しい」「今日は、こうして欲しい」
という心の声が、不二に聞こえているかのように、不二の跡部に対する行動は、
ごくごく自然で、ジローには考えれば考えるほど、不思議で仕方なかった。
「はぁ・・・」溜息をつくジローに
「どないしたんや。お前が、溜息つくなんか、めずらしいやん」と忍足が声を掛けた。
「なぁなぁ、忍足。」
「何や?」
ジローは、頭の中で堂々巡りしてた素朴な疑問を忍足に話して聞かせた。
「なるほどな・・・」と
一息ついて、忍足はふっと笑ってからジローに
「そこまで気ぃつくよぉになってんなぁ」と
今度は笑顔でジローの頭に手を置いてクシャっとした。
「やめろよー」
なんだか、物凄く子ども扱いされたようでジローは拗ねてその手を払おうとした
「別にアホにしてへんでぇ、前の時に比べて、えらいお前が細かいとこまで気ぃつくようになったて
関心してたとこやん、大人になったっちゅーこっちゃ。どらい成長やで」
依然楽しげに笑う忍足を見ながら
ジローは素直に
ちっとも嬉しくない・・・と思った
大人になったと言われても、何が細かいことで何がどうなのかが
全く分からなかったからだ。
そして、モヤモヤした心持のままの自分に対して
大人になんかならなくてもいいと思い
大人になったと言われても分からないってことは、大人になんかなれっこないとも
思ったのだった。
一人悶々としてるジローに、忍足は優しい笑顔を向けて
「はっはっは〜、悩んだらええ、青少年」と言ってから背中をポンと叩いて
ロッカーに向かい、着替えを始めた。
と、部室のドアが開いて、「ジロちゃんたち、早いね」と不二が跡部と並んで入ってきた。
「おう」と軽く挨拶をする忍足の横で
ジローは悶々としながら「おっ」と短く答えた。
と、ロッカーに荷物を入れ、着替えを始めた不二の脇に跡部がサッと立ちはだかるように立ちながら
忍足に「今日のメニュー」とバインダーを差し出した。
忍足がそれを受け取る間に、不二がシャツを脱いで、ユニフォームに着替える
と、跡部はさっと自分の場所に戻り、着替えを始めたのだった。
「ほんなら、俺らは先に行っとくわ」
と、そんなやりとりを頭の中をウニウニさせながら見ていたジローを引っ張って
忍足は部室を後にした。
「なぁ・・・忍足・・・あれって・・・」
きっと、昨夜の情事の名残が残る不二の肌を自分以外の人間に晒すのが嫌だったろう跡部の
さり気ない行動の意図に気付いたジローに
忍足は何も言わず、苦笑いで答えた。
しばらくの沈黙の後、
「はぁ・・・」と、ジローの盛大な溜息を再び耳にした忍足は
「まぁ、あれや・・・ジロー。阿吽の呼吸・・・や」
悟りきったように言った。
「分かってる」
複雑な思いを抱えたまま、ジローは短く答えて頷くのだった・・・
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