あの日の忘れ物
「不二周助」
「え?」
部活を終えた不二は、帰路につこうと、校門を出かかったで所で、
ふてぶてしい威圧感を漂わせながら、門に凭れて一人立っていた、
見覚えのある、ライバル校の男に、呼び止められた。
「何?僕に用?」手塚じゃないの?と、いつもの営業スマイルのような笑顔を向けて
言う不二に、その美しすぎる男は、鋭い視線を向けながら「面貸せ」と言った。
ただならぬ雰囲気に、周りの仲間達は凍りつきながらも二人の間に何度も視線を往復させて、
様子を見守っていた。
すると、
「大会前なのに、のっぴきならねぇな」と、血の気の多い桃城が、身を乗り出すように言うのを
さっと手を出した不二が、制して「ここじゃ駄目なんだ?」と言った。
「お前に、質問の余地はねぇ。早くしろ」という男に
「「「何だとぉーーーー」」」
と、飛び掛りそうになった菊丸達を、今度は大石と乾が、さっと立ちはだかるように制した。
手塚は、越前とともに、竜崎に呼ばれて職員室に寄ったままで、これ以上拗れては困る・・・
とばかりに、大石は、襲い来る胃痛と格闘するのだった。
「クスッ・・・随分とn強引だな」噂通り俺様なんだ・・・と、
不二は、綺麗に微笑んでから「分かった」と男に答えた。
「「「ええーーーっ!不二先輩!」」」
「「「行くなよ!!不二!!」」」
口々に、引き止めに入る仲間に向かって、不二はニコリと笑顔を向け、
「大丈夫だよ、見たところ、鬼じゃなさそうだしね」と言った。
「ついて来い」甘く痺れるような声で告げ、背を向けた男の後ろに、
不二は仲間に「じゃぁね」と言ってから、従って行った。
「あれ?いつも君の後ろにいる、大きな子は?」と言う不二に
「煩せぇ・・・・今日は、帰した」と彼は、答えた。
「へぇー」と、意外そうな声を上げる不二に
「いつも、一緒に居る訳じゃねぇよ」と、不貞腐れたように、彼は言うのだった。
二人が並んで歩く様子に、目聡い女子生徒達が、色めき立つのだった。
「うっそーーーっ。氷帝の、跡部様よ!」
「きゃっ!!!テニス部の不二さんよ!!いつ見ても素敵ねぇ・・・」
「すごいツーショットだわ!!」
そんな黄色い声に
「目立つね・・・君」と、不二が笑いながら、跡部に言うと
「お前もな」と、跡部が答えた。
降り注ぐ視線をやり過ごし、人の流れに逆らうかのように、
その後、二人は無言のまま、並んで歩いた。
そして、暫く歩いた先にある、人気のない小高い丘の公園に着いた時には、
すっかり日が暮れてしまっていて、薄暗い中に、月明かりだけが、
綺麗に流れ込んでいるようだった。
ここまでの無言の道のり、どちらが合わせるでもなく、一定のペースだったのだが、
二人でこうして歩くのは、初めてだったにも関わらず、少しも無理したわけもなく、
不思議に心地よい時間だったように、二人ともが感じていた。
「綺麗なんだよね・・・ここからの眺め」
そう言って、不二は、公園から見える町の風景を、嬉しそうに見つめて言った。
「へぇ・・・割といいもんだな」と、跡部はそう言いながら、不二の隣に並ぶように立った。
「・・・・で?果たし状でも、貰えるのかな?」と、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、
不二は跡部に言った。
「はぁ?・・・って欲しいのかよ」と言う跡部に
「ん・・・。一度は、手合わせ願いたい気はするけど・・・今のところは、遠慮しときたいな」と、
不二は答えた。
「ふん・・・テニスくらいでいいなら、いつでも相手してやるぜ?」と言う跡部に
「あれ?テニスじゃなかったの?」と、不二は意外そうな顔をして言った。
「ちげーに決まってンだろ・・・なんで俺様が、たかが試合の申込くらいで、
わざわざンなとこまで、来ねーといけねぇんだよ・・・お前・・・馬鹿じゃねぇの?」
と、跡部がムッとしながら言った。
「じゃぁ何かな?その貴方様が、わざわざこんな辺鄙な所まで、ご足労下さった理由は?」
少しも怯むことなく、それでいて、いいように遊んでいるかのように言う不二に、跡部は心の中で
『面白れぇ・・』と呟いた。
「お前・・・俺と付き合え」
「今から?」
「そうだ」
「何処に?」
「何処とかじゃねぇ!俺のモンになれっつってんだよ」
跡部は、不二に向かって、射抜くような瞳を向けて言った。
「はぁ?」
静かな公園に、不二の素っ頓狂な声が響いた。
「・・・耳・・・腐ってんのか?」と言う跡部に
「跡部こそ・・・頭・・・腐ってんじゃない?」と不二は言った。
「はぁ?」と言った顔をする跡部を、不二は「ははぁ・・ん」と言う顔をしてじろりと
睨んでから「君って、結構、悪趣味だよね」と冷たい口調で言った。
跡部は、眉をピクリと上げて、心外とばかりに不二を睨み返した。
生まれてこの方、恵まれすぎた環境の中で、洗練され尽くされた生活をしてきた自分は、
知的・美的センスのみならず、あらゆるものに対しての感覚は、超一流と自負している。
そして、跡部にとってその究極の結果が、現在の状況なのだ・・・
今までの経験上、男でも女でも自分と関われるだけで、喜んで傅くのに・・・・
その自分が、付き合えと言っているのに、返ってきた返事は『悪趣味』の一言だったとは・・・
「どーゆー意味だ、喧嘩売ってんのか?アーン?」
『仕掛けて来たのは、そっちだろう!』と、言わんばかりに不二は跡部に顔を向けてから、
「それは君のほうだろ。こんな所まで来て、わざわざ呼び出して、挙句がタチの悪い冗談で、
僕をからかうなんてさ、酷いな・・・」
キッと、跡部を睨んで言う不二の姿を見て、跡部は、相手が勘違いしていることが分かった。
『さて・・』どうしたものかと考えながら、跡部は不二の方を見た。
月と街灯の薄明かりは、勝気な瞳を見せる不二の、中性的な魅力を、一層引き立たせた。
スラリとしたスタイルに、白く透き通るような肌、サラリとした日本人離れした薄茶の髪、
媚びず、物怖じしない肝のくせに、どこか小動物のような、庇護欲をそそる雰囲気。
ちょっとした仕草の一つ一つが、育ちの良さを窺がわせるのに、ちょっとしたところで、
少女のような可愛らしさも、持っていた。
『まいったな・・・』と、心の中で呟いてから、跡部は満足そうに微笑むと、不二の腕を掴み、
もう片手を腰に回して、自分に引き寄せると、驚く不二に向かって
「俺は、、くだらねぇ冗談は、言わねぇ」と言ってから
「よく聞け。不二」と続けた。
「何?」
跡部の迫力に、彼の本気が伝わってきて、不二は、身構えながら、ポツリと言ってから、
怯えるように、跡部を見上げた。
「俺のモノになれ。・・・・いや、俺だけのモノになれ」跡部の本気の声が、不二を捉える
「僕が、君のモノになってしまったら、君は・・・僕に何をくれるの?」
「俺様の全部を、おまえにくれてやる」
跡部の言葉に、ふっと微笑んだ不二の身体から、力が抜けていく
跡部は、自分の腕にぐっとかかる不二の重みを感じて微笑むと、腕を掴んでいた手を不二の顎に当てて、
ぐいと引き上げた。
不二は、腕を跡部の首に回して、ゆっくりと瞳を閉じた。
二人は、きつく抱きしめ合って、お互いの気持ちを確かめるように、何度も何度も口付けを交わしたのだった。
「で?なんでわざわざ、ここなんだ、アーン?」
公園のベンチに、ドカリと腰を下ろして、跡部は、楽しそうに微笑む不二を睨み上げた。
「ちょっと、思い出したくってさ・・・」不二が答えた。
「はぁ?」
「それに、忘れ物もあるし」
「一年も前の忘れ物?!・・・・・・頭沸いてんのか?」
跡部は、呆れ果てたように言った。
あのね・・・と、言いかけて、不二は溜息を一つつくと、
「違う・・・そうじゃなくてさ・・・もう少し、分かりやすく言うなら、
欠けたままのところを、埋めたいってことになるかな・・・」と説明をした。
「やっぱ頭痛ぇな・・・お前」口では毒を吐きながらも、あの日、不二を手に入れてから
のことを思う跡部の心は、とても満たされていた。
あれから卒業した不二は、跡部と同じ氷帝へ、外部入試で進学していたため、青学近くの
この辺りに来ることは、殆どなくなっていた。
つき合い始めて、一年目の記念のデートにと、この場所を選んだのは、不二だった。
「なぁ、跡部」と言って、不二は跡部の手をとって、ベンチから立たせると、ぐいと引っ張った。
「おいっ」と言う跡部を、そのまま引き連れて、あの時の場所へと移動する
「あのさ・・・僕、まだちゃんと君に、告白してもらってないんだけど・・・」
あれからまた、差が広がった目の高さ・・・・不二は、跡部を見上げながら、少女のように
気恥ずかしそうに言った。
「はぁ?」跡部は、そんな不二に、一瞬ドキリとしたものの、どういうことだと大きな声を上げた。
自分にしたら、精一杯の告白劇を、あの時、やってのけたつもりだったのに・・・・
だが、不二にしてみれば、ちゃんと気持ちを言って欲しかったのだろう。得意のおねだり目で
跡部に向かって「跡部?」と、小首を傾げて言葉を促した。
「マジかよ・・・」呟く跡部に
「僕は、くだらない冗談は、言わないよ」と不二は、言ってニヤリと笑った。
『やられた・・・』と、跡部は心の中で呟いてから、はぁ・・・っと溜息をついた。
そして、ふっと決意したように、さっと不二を抱き締めて「愛してる。不二」と静かに告げた。
「僕も・・・愛してる。跡部」不二は、満足そうな笑みを跡部に向けて言った。
そして、二人は、あの日と同じように、口付けを交わしたのだった。
「あのさ、跡部。どうして僕だったのかな?」
ベンチに腰掛けて、あの時と同じ風景を並んで眺めながら、不二は跡部に尋ねた。
あれから一年、一緒に時を過ごしながら、お互いのを事より理解し、距離も、ぐっと近づいたのは確か。
けれど、何故、あの日があったのかを、不二は跡部から聞くことが出来ないままだった。
「今が幸せなら、それでいいだろ」と言われるだけ・・・・
「アーン?」跡部は、面倒臭そうに、不二に返事をした。
「そろそろ、いいんじゃない?」まさか、墓場まで持っていくような話?と、不二は楽しそうに言った。
「丁度、2年前だ・・・」跡部は、静かに口を開いた。
「うん」
「コートに立っていたお前の姿が、どーしても頭から離れなくてな・・・」
「で?」
「ん・・・まぁ、それで、一年経っても、相変わらずなままなら、動くしかねぇなって思った」
それだけだ。と言うと、跡部は照れくさそうに、そっぽを向いた。
「跡部?」不二は、優しく声をかけると
「それって、一目惚れって言うんだよ」と嬉しそうに言った。
「うっせーよ」否定はせず、ただ、バツ悪そうに言う跡部に
「ま、僕もだけどな・・・」と不二が呟いた。
「は?」振り返った跡部に
「君の誘いに、ちゃんと付いて行ったろ?」と言うと、不二は跡部に抱きついて
「君に校門で、名前を呼ばれた時に、僕はもう、君に恋してたんだよ」と言った。
黙ったまま、不二をじっと見ている跡部に
「こう見えても、僕は結構、人見知りをするタイプなんだ」と不二が続けて言った。
「不二・・・」驚いている跡部に
「ありがとう、一年もの間、僕に一目惚れしててくれて」と不二が言った。
「ふんっ・・・」短く笑ってから、「今もだ」と跡部は、不二を強く抱き返しながら言った。
跡部の中に、不二への愛しさが溢れてくる。
「跡部・・・大好きだよ」耳元で告げる不二に
「あぁ・・・これからもな」と跡部は答えて、強く不二を抱きしめた。
「うん・・・ずっとずっとだよ・・・」
不二を抱きしめる跡部の耳に、可愛い声が届く・・・・
ありがとう。
最高の記念日デートを・・・・
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