我が家の事情-手塚家の場合-




















「帰った」

「おかえり。国光!優勝おめでとう!」

「ただいま、周。ありがとう」





結婚15年目の手塚夫婦は、今も変わらず新婚気分が抜けないまま。

朝の見送りと、帰りのお迎えのキスは、子供達が見ていようがいまいが

関係なく日課とされていた。











「んんっ・・・だめっ・・」



「構わんだろ」



「くにっ・・」

貪るような深い口付けに、周は立っていることすら困難になり、身じろいだ。

しかし、長いツアーからの久しぶりの帰国の国光は、周の溶けてしまいそうに柔らかな唇の感触と、

耳の奥に心地よく響く甘い声と、優しい香りと、抱き心地のいい身体を、楽しんでいるかのようで、

容易に解放してくれそうもなかった。









「周から離れろ、エロ親父」



玄関先とは思えない甘い空間を、凍てつく波動で一刀両断に切り捨てたのは、

壁にもたれながら、不機嫌オーラ全開で父親を見据える、長男景吾14歳だった。





「ん?」



「景吾っ!」



眼鏡を人差し指で押し上げながら、国光は、声の主をじろりと睨む。

一方、周は普段、国光が不在の間、まだ子供ながら立派に自分を

支えてくれている存在を見て、嬉しそうにその名を呼んだ。



そんな妻の様子に、内心むっとしながらも、口は最悪だが頼もしく成長した

息子に嬉しくもありで、国光は複雑な表情で



「ふん・・・元気そうで何よりだ」と静かに言った。



「ったりめーだ、テメーに心配される俺様じゃねぇよ」

ふん・・と景吾は、不敵な笑みとともに国光に答えた。



「景吾?」ちらりと景吾を見てから周は

「パパの荷物持って上がってくれるかな?」と言った。



「はぁ?」



「ねぇ・・・お願い」



小首を傾げて言う周の姿は、犯罪的と言えるほど愛くるしく、景吾は瞬殺、

国光はその愛くるしさのむけられる先が自分でないことを悔しく思うのだった。





「・・・ったく・・・貸せよ」

周の可愛らしい姿に、ドキドキしながら、景吾は国光の荷物を手にした







「母さん・・・そろそろリョーマが目を覚ましそうだけど?・・・あ。おかえり、父さん」

奥から今年中学に上がったばかりの次男貞治が静かに現れた。



「あぁ・・お前も変わりはなかったか?」



「えぇ、おかげさまで。あ、ほら、母さん・・・早く行かないとまたえらいことになるよ」



「あっ、ホント。じゃぁ僕、先に行ってるから!」

慌てて周が奥へと走って行った。

『一体どっちが親なんだか・・・』落ち着き払って冷静な貞治と、くるくると

愛らしく動き回る周をみて国光はふっと心の中で呟いた。





「一体、どうしたんだ?アイツは」妻の後ろ姿を見送りながら、国光は目の前の息子達に尋ねた



「周じゃねぇよ、リョーマのヤローだ」不機嫌そうに答える景吾に



「ん?」と国光は重ねて尋ねた。



「たまに昼寝しやがるのはいいけどな・・・目ぇ覚ました時に周がいねぇと

手がつけらんねぇ・・・ったく・・・タチ悪ぃぜ」

心底嫌そうに言う景吾の様子に国光は



「何?」と呟いた。



「クスッ・・・下手したら父さんさ・・・母さんとは当分一緒に寝ることは

できないかもしれないね」



眼鏡をくっと上げながら、楽しげに笑う貞治の様子に、国光は眉間に皺を寄せながら

「そんなにべったりなのか?」と言いながら周のもとへと歩き始めた。



「べったりなんてもんじゃねぇよ・・・ったく、ガキってのを武器にしやがって・・」景吾が言う



「今のところ我が家ではリョーマが王様だね」貞治と景吾が、顔を見合わせて頷いた



「とはいっても、あいつも春から小学校だろ?」

二人の話にすっかり不機嫌になってしまった国光がぽつりと言うと



「泣く子となんとかには勝てないっていうだろ?」と貞治が答えた。



「泣くのか?」



「あいつのあれはウソ泣きなんだよ」そう言って景吾は、諦めも込めたような溜息をついた。







ただでさえ、周は一家のヤロー共にとって大切な宝であり、アイドルであり、愛しの存在なのだ。



長男の景吾は、敵意剥き出しで国光と周の間に割り込もうとするし、次男の貞治は、虎視眈々と

頭脳プレイで周を堕としにかかる・・・これに景吾に輪をかけたような存在にリョーマが

成長したとなると・・・・

国光はそう考えると、頭を抱えたくなる思いでリビングへと入っていった。









「ほら、リョーマ。パパにおかえりなさいは?」



「・・・・・おかえり・・・」



「ん」



周の腕に抱かれ、しがみついたままのリョーマが首だけを国光に向けてポツリと言った。

寝起きの末っ子・・・ふっと愛しさを感じた国光にすぐさま戦慄が走った。

その末っ子の目が・・・・そう、明らかに先ほど自分が危惧していた通りだったのだ。



クリクリの大きな瞳は、自分に向けられてじっと見据えていて決して反らさない。

『ここの場所はだれにも渡さない、周は俺のもの』そう言っているようだった。







『まったく・・・』

国光は心の中で呟いてから、ほんの数ヶ月前の愛らしかったリョーマを思い出して、深く溜息をついた。



そういえば、景吾もまるで天使のような赤ん坊だった。

世界的なテニスプレイヤーの父、元学生チャンピオンでモデルの母の血を引く子供として、

芸能界からもひっきりなしに声がかかるほどだった。

中学生になった今でも、その容姿に磨きがかかり、立居振る舞いも見惚れるほど美しく、

頭脳も明晰で、独特のカリスマ性を発揮し、生徒会長を努めながら名門氷帝学園テニス部の部長も努めていた。

父がいないときは母を練習相手に鍛えているその腕前は全国レベル。人気も全国区となっていた。

たくさんの女の子達からの、熱い視線には見向きもせず、一途に周に思いを寄せ続け現在にいたっている。

いうなれば極度のマザコン?



貞治は、そんな景吾を見ているからというわけではないが、母の気質を受け継いだ物静かさと、

父似の思慮深さを持つ心優しい子供だった。

兄とは違う青学に進み、同じようにテニスをしていた。ただ、彼のテニスは天性のセンスのほかに

データを素にした緻密なもので、これまた着実に実績を積んでいた。

父譲りのプレイスタイルに、紳士的な物腰は景吾に及ばずとも女子からの人気は高かった。

にもかかわらず、やはりこちらも極度のマザコンか、着々と日々取り続けているデータを

もとに周の心を掴んでいっているのだ。



そして、少し年が離れての三男リョーマ・・・・

まさかこいつまで・・・しかもこんな時期から・・・

そう思うと国光は、自分の自慢の妻の持つ全ての魅力が恨めしく感じるのだった。









「さ、ママは夕飯の支度するからね」

立とうとする周の腕を掴んでリョーマが



「いやだ」と言って駄々をこねる。



いつもなら『じゃぁあと少しね』と言う周だったが今日は愛する国光が何より最優先。

「リョーマ?わがまま言う子。ママはいやだよ」とぴしゃりと言った。



いつもと違う反応にリョーマは「うぅ・・・じゃぁいい」といやいやながら引き下がらざるを得なかった。



「ん、お利口さんだね」

にっこりと微笑んだ周は、リョーマのぽっぺにchuっとキスをしてからキッチンへと向かったのだった。





「「「何っ!!」」」

目をパチクリさせながら見ていた大きな3人が、たちまち絶対零度の視線を小さなリョーマに向ける。





『まだまだだね』そんな大きな3人を尻目に、リョーマは心の中で笑ったのだった。







『油断せずいかねば・・・』これまた心の中で呟いた国光は、夕食後、腹ごなしにと

子供達を連れて庭にあるコートへ向かった。



軽いラリーから始まった打ち合いだったが、帰宅後の妻絡みの騒動からすっかり大人げ

を失くしてしまった国光の『本気でかかってこい』の一言で子供達の人一倍強い負けん気に火がついた。

しかし、いくら全国区で中学生離れしているとはいえ、景吾も貞治も世界レベルの国光に

いいように弄ばれて、コートを走り回らされる始末。それは末っ子リョーマとて同じことだった。











「寝ちまったなぁ」

コート脇のベンチで、コクリコクリと眠そうにしていたリョーマが

父国光におぶられてすぐ、その背で眠りこける姿を見て景吾は呟くように言った。



作戦どおりの結果に、僅かに満足そうな顔をしている国光を見透かしているかのように貞治は

「今日はリョーマは俺の部屋で寝かせるよ」と静かに言った。

『ま、あの人も寂しいのを我慢してたからね』と心の中で呟く貞治に



「そうか」とだけ国光は答えたのだった。









帰宅後、夫と息子たちの様子に少し驚いていた周を、そっと抱き寄せた国光が

ほくそ笑んでいたとかいないとか。











疲れてぐっすり眠る子供達とは違い、一睡もできず空が白みはじめるまで

国光にこころゆくまで貪られた周が、翌日姿を見せたのは日も高い昼過ぎのことだったそうな

























夫 手塚国光 35歳

妻   周  35歳



今日もラブラブバカ夫婦

そんな一家のとある日でした・・・























ブラウザの「戻る」でbackしてください